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この世界

「タロさん、あの状況でよく落ち着いていられたね」

 あの言い分はない、カラのほうが切れそうになった。

「ああ、個人商店の店主なんてやってたら、あれっくらいじゃいちいち落ち込んでいられねえって」

 飲食店店主なんて、いろいろと難癖つけられることが多い、タカリや、ヤクザの集金なんかもある。そんなことを繰り返していたらちょっとやそっとのことでくじけない心が出来上がる。

「まあ、なんか気に食わねえ成り行きだったからな、それくらいのことは想定内ってことだ」

 さすが、見た目は同年齢でも大人は違う。

 真剣にカラは感動した。

「でも、やっぱり、これから大変ですよねえ」

 そう言って、カラは玉ねぎのような野菜、マンドを手にした。

「食品中のカリウムとか、鉄分とか、調べるすべはないんですから」

「ああ、それはなあ、たぶん特殊な薬品を使って調べるらしいが、そんなもん俺らにはないしなあ」

「たぶん、あるだろうって前提でやるしかないんですし」

「半年かあ」

 それは成果が出せるか否かの時間、半年で成果が出せなければ。

 二人は暗澹たる気分になる。

「そう言えば、あれだな、ニンジンの百倍の鉄分っていう健康食品があったんだが、ニンジンって鉄分あったっけ」

「それほどなかった気がしますけど、鉄分を求めてニンジンを食べる人っているんですか?」

 鉄分不足なら、レバーだろう。あるいはひじき、赤身肉。

「そう言えば、この世界の海藻食ってどうなってるんでしょうね」

 ひじきで思い出した、日本人はミネラルの結構な量を海藻で取っているという話を聞いた。

 海藻はミネラルと食物繊維が豊富で低カロリーという、ダイエットに嬉しい食品だ。

「うん、このあたりの立地って、確か内陸じゃねえの」

 うろ覚えのこの世界の地図を何とか思い出しつつ言う。

「大陸の内陸だと、海までたどり着くのが大変じゃね、ちょっと時間がかかりすぎるんじゃねえの」

 一思いに否定されて思わずうなだれる。

 カラは地図を覚えていなかった。必要を感じなかったからだが。

「とはいえ、正確な地図ってこの世界にはあんまりないんですよね」

 自国内ならともかく、外国をからむと、地図は途端に不正確になる。外国に測量に行けないのと、外国も自国の地図を国外に出したがらないからだ。

「江戸時代に正確な地図をオランダに渡したら死刑って規則があったからなあ、時代としてはそう言うもんなんだろう」

 いつ戦争が起きても不思議はない、十九世紀ぐらいの世界情勢を思い浮かべる。

「そんなもんなんですかねえ」

 兵器が近代化しすぎて、うかつに戦争が起こせない、戦争は限られた地域のものというのが、カラの常識だった。

「これから、この世界ってどうなっていくんでしょうか」

 転生者が影響を及ぼしまくったこの世界で、歴史はどう動くのか、そんな壮大なことを考えてしまったが、至近の半年後という数字を思い出す。

「とりあえず、健康維持以外の方向も探ってみるつもりだ、こっちの料理人といろいろ設備のことも聞いておきたいから、明日は各自行動ということで」

 カラは頷いた、そして不安になる。

 結局仕事のほとんどはタロがしているのではないだろうか、自分はいったい何ができるんだろう。


ニンジンの百倍の鉄分。これ実際にあった宣伝文です。

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