殺伐
出来上がった食事の配膳を任された。
内容は牛のような生き物、アズラの胃袋を使った野菜たっぷりトリッパ、レバーと鶏肉の二色テリーヌ、サラダ菜と豆のサラダ。
豆のサラダは豆の歯ごたえを殺さないよう茹で加減には細心の注意を払っている。
パンは全粒粉に変更、自由に食べられるよう、テーブル一つに籠一つ。
カラの見た感じでは栄養バランスはかなりいい線を言っている。
しかしその料理の乗ったトレイを受け取った人は一様に浮かない顔をしている。
何人かは苦虫を噛み潰いしたような顔でトレイを受け取った。
そして誰も口をつけようとはしない。
「ふざけるなよ、こんなものが、改良された料理だと」
多分、軍の偉い人とカラが推量した相手が憤然として立ち上がった。
「内臓料理だと、こんなものが食えるか」
内臓料理の何が悪いのか、カラにはさっぱりわからない。
カラの家では肉料理と言えば、大体内臓料理だった。安いのと、保存がきかないので手早く食べねばならないからだ。
「こんなものは、最下層の貧民の食べるものだ、まともな人間の食べるものじゃない」
カラのこめかみに青筋が浮かぶ。
その最下層の貧民が作った穀物を食べているんだろうと、水差しの水をぶっかけてやろうかと背後を振り返る。
「内臓料理が不満なんですか?」
タロは何でもない顔をして、訊き返す。
「すいませんね、あっちじゃ高級内臓料理なんてもんがあったもんで、こっちの流儀に合わないことしちゃいましたね」
高級内臓料理って何だろうと、思わず疑問に思ったが、タロはあくまで平然と話しを進める。
「あっちの国にね、医食同源という言葉があるんです。食べることは医療に通ずという意味ですが、その中に、はらわたを患ったものははらわたを食えという言葉がありまして、ですから、内臓料理を提案したわけで」
せっかく作った料理にこんなケチをつけられて、怒る出なく落ち着いて話ができるなんて。改めて、タロは大人だとカラは思った。
「人間はまあ、ミネラルやビタミンと呼ばれるものを少量ずつ毎日とらなければ、健康に悪いとあっちじゃ言うんです、で、内臓にはそう言うものがたくさん含まれている。なんでかというと、内臓を動かすためにビタミンやらミネラルを必要とするからです。ということは、他の生き物の内臓を食べるというのは効率的にビタミン、ミネラルを取ることができるってこと、内臓が動かないと、人は死にますぜ」
タロはそううそぶく。
はらはらとカラはタロの様子を見ていたが、タロは余裕しゃくしゃくと言った風で演説を続ける。
「あんたたちは異世界の知識がほしい、だから、いま与えてやっているわけだ。ミネラルを効果的にとるには内臓を食べるといいってね」
そう言って軽く両手を広げる。
「まあ、元々、ホルモン、捨てるもんなんて言い方をされていましたからちょっと食べにくいかもしれませんがね、しかし慣れれば病みつきのおいしさですぜ」
「確かに、美味しいスープですね」
イリアス少佐が、スプーンで一口、口に入れる。
「異世界の脅威の知識を得るチャンスでしょう、実際美味しいですよ、臭みも全くない」
「臭みは下ごしらえでだいぶ抑えられるんです、まあちょっと手がかかりますがね」
「なるほど、贅沢な料理なんですねえ」
一連の会話を終えた後、イリアス少佐は静かに食事を続けた。
一人が食べだすと、何人かがスプーンを取る。
何人かは憤然として席を立ったが、何人かは美味しいと判断したらしい。
「前途、多難だね」
思わず暗澹たる声がだた。
「まあ、頑張るしかないんじゃないか?」
「そう言えば、高級内臓料理って何?」
「フォアグラ。まあ肝硬変直前の肝臓が身体にいいか知らんが」