裏がある?
カラは自転車に乗るのにやっと慣れた。
バランスを何度も崩しそうになり、そのせいで余分な力がかかっていたが、ようやく何とか乗れるようになった。
とはいえ大幅に遅れているのに変わりはない。
タロたちははるか向こうを突っ走っている。最初はカラに合わせてくれていたが、時間が押しているとさっさと先に行ってしまった。
向かい風が頬をなぶる。上空を見上げれば気球が上がっていくところだ。
赤と紺の布をはぎ合わせた気球が空に上がっていく。その周囲をドラゴンが飛ぶ。
気球は基本的に風任せだ。その帰休をドラゴンが引っ張って移動しているらしい。
転生者の技術はこういう形で利用されているらしい。
思わず足を止めてその光景に見入る。
「カラ嬢、一人かな」
声をかけられ、カラが振り返る。
馬ぐらいのというドラゴンを連れて歩いてきた人がいた。
イリアス少佐だった。
こんな目立つものに気付かないくらい上空の光景に見入っていたのかとカラは我に返る。
「いえ、あっちに行っちゃったので」
カラはそう言って、すでに姿が見えなくなったタロたちが走っていった方向を指さす。
「ああ、疲れたので休んでいたのか」
イリアス少佐はカラにドラゴンに乗るよう指示した。
思わずカラは腰が引けてしまう。
はっきり言ってカラは鱗のある生き物は魚以外全く駄目だ。巨大なトカゲモドキになど乗るどころか触るのも嫌だ。
しかし、そんなカラの気持ちをただ遠慮していると思ったのか強引に、カラを抱き上げてドラゴンの蔵に乗せてしまう。
そしてカラが載っていた自転車を紐をつけてドラゴンにつないで引いていく。
自転車はカラの暮らしていた異世界のものより、タイヤが太くて安定していたのでその状態でも倒れず引かれていく。
カラがイリアス少佐の後ろに座ったまましばらく所在なくしていた。
「今晩、タロが最初の試作をするといっているんです、それで、他の偉い方たちも試食するって言ってるので、どうなさいますか」
とりあえず会話に困るので連絡事項を語ってみる。
「ああ、それはいいですね、それでは私も参加させていただきます」
カラは蛋白質とミネラル食物繊維、炭水化物のバランスぐらいしか助言していなかったのだが、それをタロがどう献立を考えたのかは聞いていなかった。
昼から調理にかかると言っていたが具体的にカラはいったい何をすればいいのだろう。
「食事で、それほど変わりますか?」
「それは変わりますよ」
カラのいた世界では、ある程度のアスリートになると、食事管理はプロの栄養士に任せるのが一般化していた。
身体が資本であることはアスリートも軍人も変わらないはずだ。
ドラゴンは自転車よりも早く移動できるらしい。
あっさりとタロたちに追いついたドラゴンに、仰天した田櫓が危うく自転車でこけそうになる。
「あ、どうも」
それぞれドラゴンと自転車を止めて、挨拶をかわす。
「これから、どこに行くのかね」
イリアス少佐の言葉に、中将のところとタロは答えると、話は自分が通しておくからとタロを止めた。
「中将にはあまりかかわらないほうがいい」
何らかの含みをその言葉に感じた。