第13話:午後の自由時間 爆睡裕也と速人たちの企み
オリエンテーリングで疲れ果てた裕也たちは、昼食の後が自由時間にあてられていたので、そのまま各自の部屋で倒れこんでいた。
一応この自由時間はオリエンテーリングで協力し合ったことで少し仲良くなっただろうからここでもっと親睦深めとこう、みたいな感じで作られた自由時間だったが、全員それどころではないようだった。
そこへ再び迫り来る黒い影――もとい麻美。
「裕也くんってば、余計なこと告げ口するからまだ身体が痛いし冷たいし……報復してやろうかしら。」
さっき雪子に追加でお仕置きをされたばかりだというのに、麻美はなおもちょっかいを出す気らしい。
ちなみに、雪子の「お仕置き」はいくつかあるようだが、今回は麻美を凍らせて、氷でできたハンマーでぶん殴った……らしい。凍ってるから冷たいし、冷たいから痛みも倍増ということで、たいしたことないように見えてかなり痛いようだ。
裕也たちの部屋の前までやってきた麻美は、扉を少しだけ開けて中の様子を伺う。
「寝てるのか……チャンスだけど、やっぱ今日はやめとこ。起きてるところに仕掛けて驚くさまを見るほうが面白いしね。」
麻美はそうつぶやくと、扉を閉めて立ち去った。
「お〜い、起きろ〜。早く起きないとまた寝起きドッキリしかけるぞ〜」
裕也はその声で飛び起きた。もう寝起きドッキリはいやらしい。目を覚ました裕也が周りを見ると、すでに日が暮れていて、時間は夕方6時を回ろうとするころだった。起こしてくれたのは今朝方寝起きドッキリを仕掛けた上級生だった。
「よく寝てたね。と、他の連中の姿が見えないが、どこへ行った?」
裕也を起こしにきた上級生が部屋に裕也しかいないのに気づいてそう言った。
「いや、ずっと寝てたからわからないです。」
裕也があくびをしながらそう答えたとき、速人、豪、賢、靖、貴之が戻ってきた。
「5人そろって、どこ行ってたの?夕食の時間だってよ。」
裕也がたずねると、
「ふっふっふ、秘密だ。けどまあ、そのうちわかることだ。」
速人がそう話し、
「今日こそは、今日こそは……オレたちの野望を達成してやる……」
豪がそうつぶやいていた。
「今日こそは、ってまさか風呂場に何か仕掛けでもしたとか?」
裕也が半ば呆れつつそうたずねる。
「うおっ、声に出していたか!?ま、まあ、そんな感じだ。上が氷で覆われているのは昨日から変わってなかった。だが下なら見つかる可能性は低いと考えたんでな。あとは風呂の時間のお楽しみだ。雪子さんたちには絶対言うなよ。」
豪が声に出していたことに驚き、計画の一部を話し、裕也に口止めをした。
「まあ、それはかまわないよ。どっちにしろ関わるつもりはないし。ていうかオレが計画に加担したことがばれたらただじゃすまないだろうからね。そろそろ食堂行こうぜ。」
裕也は笑ってそう話し、6人は食堂へ向かうのだった。
夕食を終えると、速人たち5人はこの後温泉で実行する計画の詰めを話し合っていた。その過程で貴之がヘッドホンを耳につけた。
「田野口くん、いったい何をやってるの?ずいぶん大掛かりだけど……」
裕也が近くによってたずねると、
「聞いてみればわかる。」
貴之は短くそう言うと、裕也にヘッドホンを渡した。裕也が耳に当てると、
〔ねえねえ、この後どうする?〕
〔まだお風呂入るには早いよね〜〕
などといった声が聞こえてきた。
「これは……盗聴器ってやつか?」
裕也が貴之にたずねると、
「ああ、そうだ。ついでにこうすると……」
貴之が手元でなにか操作すると、ザザッという雑音の後に、音声が切り替わった。
〔まったく、麻美さんは最近イタズラの迷惑度が上がってきてないかしら?〕
〔……雪姉のお仕置きに慣れてきちゃってるからじゃないの?〕
〔まあ、それよりも裕也くんの同級生たちだ。昨日、のぞきをしようとして、ユキに見つかって制裁食らってたけど、まだ懲りてない気がするんだよな〜〕
雪子、薫、彩の声が聞こえてきた。
「おいおい、よくあの部屋に盗聴器なんて仕掛けられたな……ばれたら半殺しじゃすまないかもしれないぞ。」
裕也がヘッドホンを外して貴之にそう告げる。
「大丈夫だ。プロ級の盗聴器バスターがない限り見つけるのは難しいはず。それで、こうすれば……」
貴之がまた手元でなにかボタンを押すと、ヘッドホンではなく横においてあったスピーカーから声が聞こえ始め、さらにクラスの女子と雪子たちの部屋、両方の声が聞こえるようになっていた。
時刻は夜8時を回ったころ、
〔そろそろ温泉行こうか。〕
まず女子たちがそう言って部屋から出て行くような音が聞こえてきて、それから間もなくして、
〔温泉行きましょうか。もし昨日の男性たちがまたなにかやらかすようであれば、見つけた人の好きなようにしちゃいましょう。麻美ちゃんだったら今回に限りイタズラし放題でいいわ。〕
雪子がさらっと怖いことを言っていつの間にか部屋に戻っていた麻美や他の2人とともに部屋を出て行く音が盗聴器を通して聞こえてきた。
「よし、みんな、作戦決行だ。温泉行くぞ。」
速人が立ち上がり、作戦を実行する5人と一人だけ我関せずな態度の裕也は部屋を後にした。
途中で隣の部屋の連中に声をかけると、嬉々として速人たちの作戦に同調し、みんなで温泉へ向かうのだった。