第49話:エピローグ&プロローグ
暴走する母親たちから逃れるように、私は拓実の腕を引いて自室へと駆け込んだ。
ドアをバタンと閉め、荒い息を吐き出す。
「もうっ! ほんと、あのニヤニヤコンビはデリカシーってものがないんだから!」
「ははは。まいったな。まさか結婚式とか孫とか、あそこまで話が飛躍するとは思わなかったよ」
――は?
もしかして……こいつ自分がやったことわかってないの!?
「……『まいったな』じゃないわよ!? あんたがバカ正直に『ずっと隣にいてくれ』なんて告白のセリフまで親に暴露するからでしょ! 頭おかしいんじゃないの!?」
「え? でも、嘘をつくのは良くないし、正直に報告するのが筋じゃないのか……」
また出たわね。素直すぎるバカ!
聞かれたことにバカ正直に全部答えるなんて……こいつ、好感度MAXになった途端に全情報を開示してくる初期設定のNPCなんじゃないの!?
「そういうのをデリカシーがないって言うのよ!」
私はベッドから立ち上がり、拓実の顔面をガシッと鷲掴みにした。
そのまま、伝家の宝刀、アイアンクローをキメてやる。
「い、痛っ! 凛子、頭蓋骨が! なんで付き合った初日からアイアンクローなんだよ!?」
「黙りなさい。あんたの恋愛ステータスが初期値のままだからよ! 恋人なんだから、私に恥をかかせないように、少しは空気を読むことを学びなさい!」
「ぐあぁぁぁ、俺のHPがゼロになるぅぅぅっ」
「なんでもかんでもラノベやゲームに例えるのもやめなさい! 来月には高校生になるのよ!」
「解せ――」
――あっ、ちょっと!
あんたが動くからバランスが……っ!
「わっ!?」
抵抗しようと拓実が腕を振り回した拍子に、私の足がカーペットに引っかかり、もつれ合うようにしてベッドの上へと倒れ込んでしまう。
「痛っ……」
「ご、ごめん凛子。大丈夫か?」
心配そうに私を覗き込む拓実――その顔が、鼻先が触れそうなほどすぐ目の前にあった。
ちょっと!! 近い、近すぎよ!!
あぁもう、なにこの状況!? 一瞬で顔も心臓もオーバーヒート寸前じゃないの!
「あ、あの……凛子?」
「ち、違うわよ! これはバランスを崩しただけで――」
ガチャリ。
「あらあら〜。早速かしら〜?」
「拓実、さすがにちょっと早いんじゃないかしら。順序というものが……」
ドアの隙間にはトーテムポールみたいに縦に並んだ二つの顔。
完全にタイミングを狙っていたとしか思えない間合いで、あのニヤニヤコンビが覗き込んでいた。
なんで毎回毎回あんたらは覗くのよ!? 子供にだってプライバシーがあるでしょ!?
「い、いや! ち、違います!! これは事故で!!」
「凛子ったら、誤魔化さなくていいのよ~」
「うふふ、凛子ちゃん、大きいベッドはもうちょっと待っててね」
「ほ、ほんとに、違いますから! 拓実!! あんたも何とか言いなさい!」
「そうだよ。俺だって凛子とはそういうことをしたいと思う。でも、今じゃないだろ」
違ぁぁぁぁぁぁう!! そうじゃない!!
なんなの、そのクソ真面目な回答は!?
まず、この状況に恥じらいを覚えろ! そして誤魔化せ!
親相手に自分の性欲を真顔で語るな!!
「だから、母さんたちも――」
「拓実、もういいから黙りなさい!!!」
「やっぱり仲良しねぇ」
「若いって素晴らしいわね」
「お母さんたちも、いい加減にして!!」
ニヤニヤと笑いながら、母親たちはパタンとドアを閉めて撤収していった。
静寂が戻った部屋。残されたのは、顔からマグマを噴き出している私と、「なんで怒られたんだ?」と言わんばかりにクソ真面目な顔で首を傾げるバカ彼氏だけ。
……やっぱり、こいつにはデリカシー教育が急務だわ。
この『素直すぎるバカ』を放置しておけば、高校で私との出来事をペラペラと無防備に言いふらしかねない。
そんなことになれば、私の社会的尊厳は完全に崩壊して、高校生活で大恥をかくことになる。
せめて、高校では絶対に別クラスにならないと。
離れている間にこのバカのデリカシーを教育し直さないと、私の平穏な生活が持たないわ。
やっと『人間矯正計画』が終わったと思ったというのに、次はデリカシー教育って……。
まったく……このおバカな幼馴染の世話焼きは、高校生になっても終わりそうにないわね……。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
当初描きたかった物語はここまでになります。
50話以降、高校生編の構想もあるのですが、一度完結とさせて頂きます。
続きに関しては、しばらく時間をおいて考えてみます。
凛子と拓実の一年間にお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。
また、機会があればお会いしましょう。
最後に、コメントで感想をいただけると大変励みになります!
気に入って頂けた方も、そうでない方も是非お声を聞かせて下さい!!
2026.6.15 remia




