表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翻訳破棄 ~腹黒姫とお人好し魔王~  作者: 棚本いこま
第二部:姫と魔王の告白合戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/41

◇40.告白(甘酸っぱい方)



 魔王の懺悔。その大変重々しい雰囲気に呑まれ、私も固唾を飲んで続きを待つ。


「実は……」


「……」


「普段の余は、芋ジャージばかり着ているのだ……」


 固唾を飲んで待った結果、芋ジャージなる謎単語が出てきた。


「いもじゃ?」


「そうか、知らぬか。芋ジャージとは魔界の伝統的な芋掘り用の衣装だ」


 魔王は何もないところに手をかざした。たちまち空中に光り輝く魔法陣が浮かび上がり、見慣れない服一式が出現した。召喚魔法だったらしい。


 魔王はなんだか絶妙に垢抜けない様相を呈した小豆色の服(胸に「魔王」と名札が縫い付けられているのがまた野暮ったい)を広げ、「これが芋ジャージだ」と言った。


「楽だし丈夫なので、余は普段着として愛用していた。だが、トレイシアが魔界に来てからは一度も着用していない。トレイシアに芋ジャージばかり着ているだらしない男だと思われぬよう、毎日ちゃんとした格好をしていた。本当の余は芋ジャージ姿こそがスタンダードなのに、それを偽っていたのだ」


 魔王は芋ジャージ上下を手慣れた様子で丁寧に畳み、長椅子の脇に置いた。


「トレイシアは余のことが嫌いになっただろうか」


「え? いや、よそ様の目を気にして一張羅着る心構えくらい、別に普通のことやと思いますけど」


「そうか。打ち明けるのは少し恥ずかしかったが、トレイシアならそう言ってくれると思っていたぞ。他者に良く見られたくて己を偽ることは別に普通のことだと、余も思う」


 魔王は無表情で私を見つめる。


「そう、普通のことなのだ。余もトレイシアと同じく、自分をよく見せようと偽りもするし演技だってする。だからトレイシアの告白を聞いたところで、愛想など尽きようもない」


「……」


「さっき言った笑顔の練習もそうだ。余は笑顔ができない。だが、作り笑いなら頑張ればできる。だから練習を始めたのだ。自然な笑顔を演じるべく。トレイシアに好かれたくて」


 魔王の角に、再び明かりが灯った。紫色の水晶のような角の中に、星屑のような光がきらきらと舞う。


「うむ。我々はお互いに婚約者に好かれようと、偽装や演技に磨きをかけていた者同士ということだな。余は嬉しいぞ。方向性が完全に一致していると言っても過言ではない。トレイシアがトレイシアで、嬉しい」


 それはいつだったか私が言った、魔王様が魔王様で嬉しいという言葉への、確かなお返しだった。


「あと、トレイシアは最も尊い姫という地位は嘘とのことだったが、余にとってトレイシアは世界で一番尊い姫に間違いはない。だから嘘を吐かれたとは思わない。和平協定としても何ら問題はないので安心して欲しい」


「わてが、世界で一番、尊い姫……」


「うむ」


 演技も偽りもお揃いだと受け入れられて、一番駄目なはずの嘘さえも簡単に肯定されて。

 しかし疑り深い私は、なかなかそれらを素直に受け取れない。期待と異なっていた場合に傷つくのが恐ろしいので、つい、自分から否定してしまう。


「ま、魔王様は優しみある。ゆえ、わてじゃなかったとて、婚約者には、きっとそう言うんやろ? 婚約者なら、相手が誰でも優しくするんやろ?」


 非常に可愛くないことを言う私にも、魔王様は動じない。


「そうだな。相手がどんな人間であろうと、婚約する以上は誠意を込めて接しようと決めていた。来たのがトレイシア以外の姫だったとしても、あのように門を飾り付けて迎え、ウェルカムドリンクを振る舞っただろう」


「おぐぅ」


 自分で聞いておいてその通りだった答えにダメージを食らって呻く私に、魔王は優しく「だが」と続ける。


「余は今、トレイシアがトレイシアだからこそ、愛おしいと思っている。婚約者という立場への誠意ではなく、トレイシアへの愛で。百パーセント、愛由来だ」


「愛……っ!?」


 聞き捨てならない言葉に、予防線を張らなくてはという意識が彼方へ吹き飛んだ。


 顔を真っ赤にして過敏に反応したら、魔王は途端に俯いた。「まあ、あれだ、その」と、さきほどまでの自信に溢れた話し振りから一転、ごにょごにょし始める。角が真っ赤に光っている。魔王流のフルスロットル赤面である。


「……余も、ついに練習の成果を出すときが来たようだな……」


 魔王は最終兵器でも稼働させるかのような口振りで、しかし角を派手にぴっかぴっか赤く光らせつつ、それでもキリッとした面持ちで顔を上げた。


「トレイシア。もう一つ告白させてくれ」


「えっ」


「今度は甘酸っぱい方のだ」


「えっ!?」


 仰け反る私の前で、魔王はまず、己を指し。


「余」


 続けて腕を広げて大きな愛を表現し。


「トレイシア」


 そして両手を頬の横に持ってきて、ハート形を作り。


「だーいすき♡」


 光り輝く笑顔で――私のために練習してくれたという笑顔で、そう言った。


 魔王の大好きショットを受けるのはこれで二度目だが、胸を打たれた一度目とは異なり、今度はまさしく胸を撃ち抜かれて、だから私は。


「わて、魔王様、ぞっこんラブ……」


 眩しい愛の告白に、嘘も偽りも演技も忘れた、心からの言葉を返した。





次回、最終話です!


なお、今までネタバレ防止で感想返信を控えておりましたが、最終話(ep.41)への感想については返信を解禁する所存です。なので作者から返信が来ても驚かないでね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆

『翻訳破棄』
書籍版の情報は
PASH!ブックス様の紹介ページにて!

☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆---☆



― 新着の感想 ―
お互いに自分を良く見せたい、好きだから~♡♡♡ いろんなエピソードを乗り越えて大団円はもうすぐですね。二人が幸せで嬉しいです!
「魔王」「とれいしあ」ってゼッケン縫いつけた芋ジャージで共に芋掘りするよろし
ヤバい…………。 読んでるこっちが恥ずかしくなってきた(〃'Д'〃) 百パーセント、愛由来だ……愛由来だ……愛由来だ………… 「だーいすき♡」「ぞっこんラブ……」 正しく愛由来だな(//∇//) 魔王…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ