■19.魔王、顔面血染めする
我が身のことながら、己の角が光を放つことなど知らなかった。
衝撃に仰け反っていたら、またトレイシアがくすくすと笑った。
「魔王様の角、よくエレクトリカルタカラヅカする」
「えっ」
「楽しいとか喜んでるとか、もろにバレとる」
「えっ!?」
今朝は己の楽しい気持ちが伝わっていないに違いないなどと落ち込んでいたが、とんでもない勘違いだった。トレイシアには余の感情の揺れが筒抜けだったのだ。だから彼女はよく角を見ていたのだ。
「デザートを口にするとき、ほんのり光が灯る。わてに褒められた時、ぴっかぴかに発光体めく。急に目を閉じて考え事すなる時、きらきらしきスノードームなる」
「光り方の特徴まで把握されているだと……!?」
衝撃の第二波に動揺が激しい。己の角の自己主張っぷりに余が慄く一方で、トレイシアは穏やかに続けた。
「スノードームして、水晶めく角の中、金色のきらきらが舞う。お星様まみれのお星空のよう。きっと魔王様は急に目を閉じて考え事すなる時、めちゃんこ素敵なことを考えてはりますのんね?」
「すぉっ、それは」
余がトレイシアの前で、うっかり目を閉じて考え事に浸る時。しっかり心当たりがある。幸い、それがトレイシアの愛らしさに思いを馳せている時だとはバレていないようだが、それでも「素敵なこと」を考えている時だと筒抜けであった事実に、衝撃の第三波が容赦なく襲ってきた。
恥ずかしい。とても恥ずかしい。これまでの魔王生で感じたことのないほどの照れが生じる。穴があったら追い掘りしてから入りたい。
何かしらの弁明をしようと焦り、散々泳がせていた目をトレイシアに向け直したら、彼女はきょとんとした表情で余を見ていた。
「ど、どうしたトレイシア」
また余の角が主人の預かり知らぬところで激しい自己主張をしているのかと思ったが、そうではなかったらしい。
「魔王様も顔面が血染めなるですね……?」
「血染め」
突然の凄惨な表現だが、この意表を突かれている様子や文脈諸々から推察するに、おそらく「魔王様も赤面なさるのですね」という意味だろう。余の対トレイシア翻訳能力も向上したものだと思う。
しかし、赤面とは。そうか。余も赤面するのか。できたのか。確かに顔が熱い。耳も熱い。自分では見えないが、たぶん角も光っているに違いない。
「うむ……ト、トレイシアよ」
これ以上照れる余地もないほどに照れ切っていることに背を押され、平たく言うと開き直って、トレイシアの目を見つめる。
「トレイシアも、エレクトリカルタカラヅカだぞ」
「わても? わての身体には発光体めく箇所、あらへんですが……」
「ト、ト、トレイシアは輝いて見えるほどに愛らしい、ということだ」
「……」
トレイシア流に表現すると今の余は顔面フル血染めだろうが、余の言葉を受けたトレイシアの方は、顔面フルスロットル血染めになった。
両手で顔を覆って俯き、「口先が達者やねんからこのカブキチョウナンバーワンホスト野郎」と、9割がた内容は分からなかったがともかく照れているらしい言葉を漏らす彼女は、やはり大変に愛らしかった。
目の端にちかちかと光が入り、再び窓に映る自分を見る。大変に愛らしいと感じる気持ちを率直に反映した角は、七色展開で派手に光り散らしていた。
俯いていたトレイシアが顔を上げ、高輝度な不審者と化したカラフルな余を見て「ぶふぉっ」と吹き出した。いつも淑女然と振る舞う彼女がそんな風に笑ったのは初めてで、その笑顔もやはり可愛らしかった。
「ふふっ……何を考えたら、そないな浮かれパーティー会場仕様に光りよりますのん?」
「いや、それは、その……か、会話が楽しくてだな」
正直に「トレイシアを可愛いと思う気持ちが溢れた結果」だとは言えなかったのでそう誤魔化したら、彼女は余の言に素直に納得した様子で、「なるへそ。納得の浮かれ配色」と、笑い過ぎて涙の滲んだ目元を拭った。
「……なあ、魔王様」
笑いの治まったトレイシアは、真剣な顔でこちらを見た。いつもふわふわとした雰囲気の彼女が始めて見せる、大人びた表情である。
「魔王様は人間との婚約を受け入れて、仲良しこよす約束した。歴史上初のでけえ動きです。こたびのん、人間側から働きかけた。魔王様はあっさり受け入れた。なぜです?」
相変わらずトレイシアの魔族語はかなり独特だが、それでも今の彼女からは、いつもと違った鋭さを感じた。
余も先程までの浮かれた気持ちを切り替え(多彩な輝きを放っていた角も空気を読んで発光をやめた)、彼女に向き合う。




