魔術師の価値とは
「今回で分かったが、お前らは強いよ。俺達の時代の一般的な魔術師より才能はある。だが、才能だけでゴリ押ししようとする悪い癖があるな。俺達の時代の魔術師なら正面から勝てなくても搦め手を使われて負ける。アイオライト、マリエル、一番強い学生は誰なんだ?」
「トゥール家のネサイア=トゥールですね。」
トゥール家。
当時の俺の時代では俺に匹敵する魔術師だった。
トゥール家は創造魔術という汎用性が高い魔法を使い、その子孫となるとその辺が強化されているのか?
「創造魔術を使うのか?」
「現当主は使いますが、ネサイアは使いません。」
「じゃあ何を?」
「クレプスのみです。」
クレプス。
それはその当初は汎用性魔術という魔術を作るために使う魔術。
基本はファイアと同じ構成にされているのせいかファイアと同じ効果になっている。
ただ、ファイアと全く同じ魔術ではない。
というのも炎は緑であり、そもそもそのまま使うことはない魔術だからだ。
「単一魔術のみ?それで学生では世界最強なのか?」
「はい、私も戦ったことはありますが…一度もダメージを与えずに負けました。」
なんだと?
いや、そういえばネサイア=トゥールの話は聞いたことあるな。
この世界に来た時、大会でも優勝したという話を聞いた。
そして、何故ネサイアはクレプスしか使わないのか。
これは多分だが…
「もしかして、ネサイアはクレプスしか…いや、クレプス以外は使えないんだな?」
「はい。恐らく、もう察しておられるとは思いますが…」
「単一魔術障害か。」
「はい、そのとおりです。」
単一魔術障害。
人生で初めて使った魔術以外使えなくなる病気。
当時も既に罹患者はいたが、その数は世界でも数人程度しかいなかった奇病。
魔法も使えなくなり、魔術師としてやっていくなら出来損ないの烙印を押され、別の職を探さないといけないレベル重症であり、不治の病でもある。
だが、俺はその当時疑問があった。
それは、魔術師としての魔法や魔術を扱う魔力回路が単一の魔術にしか適用されないということは言い方を変えれば初めて使った魔術に関しては誰にも負けない最強の魔術が使えるようになるのではないのかと考えていた。
その理由は、魔術、魔法にしても基本は道具や自身で生成するにしても魔力回路を通して使う。
この魔力回路の魔力を魔術や魔法に変換する訳だが、もはや特性にもなり得る。
何故なら、魔力回路が固定された魔術のみになるということは、魔力による変換ロスがゼロになり、発動速度もいかなる魔術よりも最速で発動を可能する。
それだけではない。
クレプスなら、そもそも他の魔術にも出来る。
というのも、クレプスは俺が作った魔術でもあり、クレプスから色々と派生されてオリジナルの魔術が作られていった。
普通ならクレプスからわざわざ戦闘中に魔術を作るなんて意味はない。
だが、クレプスに固定されているならクレプスから作られた魔術よりも発動速度は速い。
戦闘中に魔術を作ったりすることも出来るし、最初からはクレプスから作れる魔術の術式を覚えるなり、魔術師兵装「ウィザード」に設定しておけば、相手より先手で発動出来る。
つまり、単一魔術障害は障害ではなく、最強の特性になるのだ。
「なるほど、メサイアは最強なのは頷けるな。クレプスが単一魔術障害になっているのであれば、他の魔術はいらない上に恐らく、それを生かした幻想結界なんて展開されたら勝ち筋を失うな。しかも、最速で発動するんだろ?並みの天才では勝てないな。」
「おっしゃる通りです。彼女のトゥール家で単一魔術障害が発覚した時は、その当時は酷い差別を受けたと聞きます。その上に追放されて、大変だったそうです。しかし、彼女はめげずにクレプスを研究して、12歳になる頃には学生では勝てる魔術師もいなくなったそうです。」
「強いな。貴族でもあるトゥール家は血統と実力を重んじるプライドの高い貴族であったはずだ。そこで生まれた娘が単一魔術障害になったとすれば恥さらしな上に創造魔術が使えないならいらないと判断されたはずだ。きっと、辛かっただろうな。だが、それを乗り越えて世界で学生最強の魔術師になったわけだ。さぞ、現当主は手放したことを後悔しただろうな。」
「はい、トゥール家の名を捨ててはいないみたいですが、お世話になった師匠の元で暮らしているみたいです。」
「師匠?誰なんだそれは?」
「さぁ、名前は伏せらていて私にもわかりません。ただ、高名な方だと話は聞いております。」
メサイア=トゥール。
厳しい環境を乗り越え、最強の名を手に入れた魔術師。
それが学生レベルだとしても、並みの大人の魔術師ではダメージも与えることは出来ないだろう。
どんなやつか会うのが楽しみになったな。
「ちなみにメサイアの所属の学校は?」
「アリアベルです。」
なるほど、学校同士の対戦だとかなり厳しくなるな。




