J.後悔したくないの、私は…
前回の続きです。処罰が決まった裏側の話を、主人公達が暴露…?
自分が一番愛するその人が、最も相応しいのは自分なのに、自分以外の他の誰かに唆されていると、自分は愛されて当然と言いたげな、自己中心的な思考を持つ人も、実際にいる。
「被害者側の生徒は勿論、尾上に同調した生徒全員が、紗明良さんに全く非がないと理解した上で、すんなり認めて反省しているようだ。そこを学校側も考慮し、数日の自宅待機で済ませるらしい。但し…次回のテスト、学期末試験は受けられなくなる…」
「…それはそれで、厳しい処分だわ。学期末テストを受けないと、落第の可能性も出るのでは…」
「ああ、その可能性は高いかもね。それほど厳しい処罰なら、もう誰も加担しなくなるだろうな…」
「李遠の言う通りだ。学校側も、それを狙ったらしい。いくら寄付金を多く積まれても、学校の評判に係わる問題を起こせば、厳罰も致し方がないと…。特に今回標的と見做された生徒等は皆、勉強も優秀で家柄も何ら問題なく、尚更気を配る形で厳罰化をしたのだろう。」
私にも漸く、今回の背景が見えてくる。高峰君の言う通り、二度と過ちを犯さないように思わせるのは、1つの手段であろうか。そして五十三君の言う通り、厳罰化も仕方がなかったはず。男子生徒の半数前後は、被害者側だ。中でも特に高峰君と五十三君は、上位の家柄みたいだし……
私の家は普通だが、朱里さんと意思が通じた時点で、私は正式な神代家次期後継者になった。学校側に報告していても、生徒の殆どが知らない事情である。おばば様に依頼した五十三君、朱里さんを見た高峰君には、気付かれたけど……
「紗明良さん。正式な後継者の件は、友達には…まだ秘密にしてる?」
高峰君が問われたけど、別に秘密にしたいわけじゃない。私からは何となく言い辛くて、まだ話せてないだけ。ご先祖様の背後霊が傍にいて、意思疎通もできるなんて、信じない人に告げる勇気は、中々出なかったりする。
「…そういうわけじゃなく、幽霊を見えない人の殆どは、否定的で信じない人が多く…。好華ちゃん達を信じたいけど、どう伝えたらいいのか…」
「…だろうな。少し前は俺も信じない側だし、それが一般的な態度だろう。実際にこの目で見なければ、今も信じていないだろうな。」
五十三君が言いたいことは、私もよく分かる。大切な親友だからこそ、この関係を壊したくなかった。どうしても…勇気が出なかった。好華ちゃんや希空ちゃんに、避けられたくないもの。
「私が神代家の跡継ぎだと、クラスの人達だけでも伝えていたら、未然に塞げたことも…あるのかな?」
「…いいや。それは違うよ、紗明良さん。例え彼女は事実を知っても、過ちを犯しただろう。彼女は用意周到な利己的では、ないのだから…」
「…その通りだ。自分の立場を考えられる人間なら、疾うの昔に自ら失恋を認めていた。自分以外の者は格下だと、嘲るしか能がない。」
ポツンと呟く私の言葉に、彼女をよく知る2人は、きっぱりと否定した。私もその可能性が強いと理解しながら、もしかしたら…という思いが捨てきれず、つい呟いただけ。それより…彼女のこと、思い切り…バカにしてる?
「僕がきっぱり否定しようと、照れてるとか謙遜してるとか、然も両想いの如く触れ回り、自ら都合良く解釈した。僕とほんの僅か会話しただけで、僕に好意がなかったとしても、他の女子を虐めたりした。そんな陰険な彼女を、僕が好意を持つはずもない…」
彼女が如何に自分勝手なのか、私にも十分理解できる。彼らに同情しつつ、彼女がどれほど自業自得なのか、納得すればするほど徐々に、私の気も晴れていく。流石に私も、高峰君に同情するわ。
「あれは…見るだけでも、ウザい。どれほどの美少女だとしても、自己中な上に性格も最悪な人間ならば、百年の恋も冷めるだろう。そういう意味では、尊敬に値するかもな。あそこまで自ら、己惚れた人間として…」
「僕ほどではないにしても、流礼も言い寄られてたよな?…彼女は見た目が良ければ、誰でも良かったのだろう。多数の男子相手に、気のある素振りを見せながらも、他の女子が好意を見せたら、徹底的に潰す。当然ながら、彼女の本性を知る男子からは、本気で相手にされなかったが…」
尊敬に値するとしながら、思い切り見下す五十三君もまた、うんざりしていたのだろうと思われる。百年の恋も冷めるのは、女子の私も理解できる。私も好華ちゃんから聞いていたし、クラスの女子の大半は、彼女と距離を置いていた。
高峰君と五十三君以外にも、気のあるフリをしていたの?…自分の好みの範囲に入る男子は、「私のもの」だと思ってた?…流石にそれは、人としてどうなの…と、疑うわ。相手も意思のある人間なのだし、選ぶ権利だってあるわよね…?
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「…ふふっ。高峰君も五十三君も、大変だったんだね…」
笑ってはいけないと思いつつ、つい苦笑しながらしみじみと言う。2人が受けたという壮絶な被害の真相に、私も少しだけ2人の心に歩み寄れた。敬語を使わないよう意識しなくても、自然に敬語が取れていく。
「本当は…紗明良さんには、知られたくなかった。だけど、こうして警戒が解けるのなら、もっと早めにバラした方が、良かったのかも…」
「……?……」
高峰君は何を思ったのか、ぱあっと嬉しそうな顔を私に向ける。「ん?」と言い返さなかった私を、誰か…誉めてほしい。彼の言いたい意味が、よく分からない私。何故か五十三君は無言のまま、爆笑中らしい。顔を下に向け肩を小刻みに揺らし、お腹を抱えて爆笑している。……何故?!
「さて、ここからが肝心の話だ。主犯が認めず否定しようと、主導したというのは間違いない。他人の所為ばかりにして、自分の非を認めず全く反省すらしないので、先生方もみだりに信用したりせず、別の生徒にも聞き取ったり、中学の担任に連絡を入れたりなど、色々と確認したそうだ。」
暫くして顔を上げると、五十三君は何もなかったかの如く、話し出す。この変わりようには、びっくりするよ。そして、高峰君は未だ満面の笑顔で、ご機嫌である。高峰君の笑顔に引きつつ、何方が年上なのかと呆れ。
…先生方、ご苦労様です。この学校では、生徒達の身分で依怙贔屓をしない、という噂を聞いていたけど、正にその通りね。この高校を選んで、本当に良かった!
「君の卒業した中学にも、連絡を入れたそうだよ。君の性格以外にも、当時の成績をべた褒めする先生も居て、尾上さんの素行がバレた後だけに、彼女の嘘が明確とされた。あまりに自己中心的な言動に、停学処分が終わり次第、強制退学にすると決定した。」
「…うっ、べた褒めって?……えっ?!…強制退学?……それじゃあ、もう学校には…?」
「ああ。もう二度と此処には、登校できない。これで…彼女の我が儘に、振り回されずに済むよ…」
「ある意味、一番被害を受けたのは、李遠自身だからな。」
私がいた中学校にも、徹底的に裏を取ったとは。中学の先生のべた褒めは、恥ずかし過ぎる…。あの臨時休校の期間中に、これほど詳しく慎重に調査したのね。彼女がどう取り繕ろうと、余計に不利に働いたみたい。普段の行いが大事だと、身に染みて感じるわ~。
さて、以上で回想終わり!…あれから私も、色々と思うところがある。彼女の周りには誰1人、止める人がいなかったみたいだ。それとも誰も、止められなかっただけなのか。悪意を止める人や相談できる人が、彼女の傍に1人でも居たら、彼女も別の道を選んだかもしれない。別の意味で、彼女も不幸だったのかも。
「…ちょっと、紗明良。また何か、悩んでいるの?…もしかして、例の尾上さんのこと?…紗明良がそんな顔を、する必要はないわ!…あの子が自ら選んだのよ。もし誰かが止めたとしても、あの子は絶対にやらかしたわよ。紗明良が悩んだところで、起きるべきして起きたことなのよ。」
私の心の声が聞こえずとも、私の思いをしっかり把握した。何をどう悩んでいるかさえ、すっかりバレバレだ。朱里さんの言う通り、今更私が悩んでも、既に手遅れである。残り数日で停学処分も終了し、彼女の退学する日が迫っていたから。
私は何もできなかった。これで良かったという気持ち以上に、後味が悪い。もしかしたら私にも、何かできることがあったかも…と、僅かに後悔が残っている。それでも私は、朱里さんに返す言葉はない。私がどう動いたとしても、彼女が最悪の道を選ばないとも、断言はできないと知っていた以上。
「紗明良は、お人好しすぎるわ。もっと自分に、自信を持ちなさい。もっともっと自分自身を、大切にしてほしいと思ってる…」
「………うん。ありがとう、朱里さん。」
私もこれ以上グタグタと、考えるのを止めた。朱里さんの言葉は、私の心の奥深くまで響く。いくら過去のことを悩んでも、解決する問題とできない問題があるわけで。私ももう少し、図太くならなくっちゃ…。
今は只管、テスト勉強を頑張ろう。今以上に上を目指し、心残りのないように全力を尽くしたい。そして、クラスで一位と思われる高峰君に、正々堂々と勝負して勝ちたいと、願うほど。
「今度のテスト、私…頑張るね。今まで以上の点数を取って、順位も今より更に上がるぐらいに…」
「……ふふっ。漸く何かが、吹っ切れたようね?…紗明良だったら、絶対にできるはずよ。高峰君を追い越す気で、頑張ってね。」
「あははっ!…朱里さんったら、簡単に言うんだから。私も高峰君に、勝ちたい気持ちはあるけど、取り合えず…死ぬ気で頑張る。後悔だけはしたくないもの…」
そして、私の運命の分かれ道(?)かもしれない、テスト当日。頑張った以上の成果を、私は感じていた。その結果、得意教科ではほぼ満点を取り、苦手な教科も今までで一番良好であった。順位も上がり自信のついた、私は……
とある一大決心をした。私にとっては、崖から飛び込むほどの決心を。
全校生徒登校から、暫く経過した頃の話で、テスト直前の期間となります。前回からの続きですが、後半途中までは少し前の過去の話、となっています。誰1人として名前を呼ばないのは、敢えて態とでしょうね……
主犯とされる女子生徒が、どれだけ自分勝手な人間なのか、という状況が彼らによって判明することに。いくら主人公が温厚な人間だとしても、庇いようがないと言いたいところですが、自分に全く自信のない紗明良は、心の隅で自分の責任を感じつつ、モヤモヤしていて。
朱里、李遠、流礼の3人からの言葉に励まされ、心のモヤモヤをテスト勉強に打ち込み、テスト結果も上がったことで、漸く前に進めそうです。それがどういう方向に進むかは、次回に……




