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「宮下君あたし」



賄さんが夜に俺の部屋に訪ねてくるのはもう普通だけどあんなことがあったばかりなのに。



「もしかして勉強?」



部屋に入ってきた賄さんが手を後ろにして何かを隠していると思って訊いてみると首を横に振るとお菓子だった。



「一緒に食べよ」

「ああ、うん」



床に座ってテーブルにお菓子を置くとベッドに座っていた俺を見上げる。 



何も喋ってくれない、賄さんは今何を考えているんだろう? 今だけじゃない、俺と事故キスなんてしたせいで賄さんも動揺してたけどあれから何を思ったんだろう?



好きな人への罪悪感? 俺嫌われた? だったらこうして部屋に来てお菓子食べようなんて言わないはずだからきっと賄さんの中でもあれはノーカンだったんだ。 



良かった。 …… 良かったのか?! ぶっちゃけ俺は一瞬だったとはいえ賄さんとキス出来て嬉しかった、賄さんが好きな人が居てもそいつよりも早くキスが出来てざまあみろという感情がなかったわけではない。



賄さんが好きだから。 俺って建前では悪いとは感じていても出来た人間でもないしずっと一緒に居た賄さんがどこぞの知らん馬の骨に取られるのなんてイヤだ。



賄さんが俺のせいで傷付いてもそいつとは上手くいって欲しくない。 いや寧ろ上手くいかないことを願う、それで傷付いた賄さんを慰めて俺に振り向かせたい。 だって俺が好きなのは賄さんだから。



俺を見つめる賄さんの瞳を見ながら俺はそんなことを思っていた。



「賄さん」

「ん?」

「賄さんの好きな人ってどんな人?」

「ええ……」



言うと賄さんは視線を左右に揺らして恥ずかしそうな仕草をしている。



そりゃあ恥ずかしいこと言ったけどそれが他人と思ってしまうと悔しさしか出てこない。



「み、宮下君こそ…… あたしそんな人居たなんて全然知らなかったし」



目の前にいんだろー! と言いたいけどそんなこと今言ったら俺だけ悲しいことになるので言えない。



「賄さんこそ」

「宮下君こそ」



平行線になってしまった、そしてまた膠着状態。



「あ、お菓子食べよう賄さん!」

「…… そうだね」



お菓子の袋を手に取ると賄さんはスマホを弄り出した。 



うん、そうだね。 こうなったらスマホでも見て暇潰ししててよ、なら俺の部屋じゃなくてよくない? と思っていると……



「もう1年経つんだね。 ほら、前に動物園行った時の宮下君」



賄さんはスマホの画面を俺に見せるとあまり写真に映りたがらない賄さんと珍しく俺と2人で撮った写真。



「俺この時チビだね」

「でもよく思い返してみるとちょっとずつ大きくなってったよね。 だってこの写真の時点でもあたしがここに来た時よりほんの少し大きい……」

「わかるの?」

「ごめん適当」

「適当って……」

「ププッ、宮下君ちっちゃくて可愛かったよ。 今もだけど」

「今はちっちゃくなッ」



言おうとしたら賄さんにお菓子を口に突っ込まれた。



「宮下君は大きくなったし声も低くなったしあの時とは変わったけど今でも可愛いよ」



俺の隣に賄さんは座った。



「あたしは相変わらずそんなに人と喋れないし友達だってほぼいない。 でも宮下君はあたしがバカにされてたのもやめさせてくれた、しーちゃんにだって出来なかったのに」



ああ、それな。 やめさせたって言ってもいつ再発するかわかんないし。



「あたしが宮下君とこうして普通に話せるようになったのも宮下君があたしをなんとかしようとしてくれたから。 今じゃこうして一緒に暮らしててパパとママが居る時くらい安心出来る」



賄さんは脚を組んで丸くなって隣の俺に寄り掛かってきた。 前もこんな時あった、前は結構ズシリときたのに今では軽く感じる。



「あれだけガミガミ言われてたしーちゃんともすっかり仲良くなって。 あたしからしてみたら宮下君は凄いなぁ」

「賄さんこそ。 家族居なくなってもこうして頑張ってて凄いよ、俺だったら家事もまともに出来ないのに」

「宮下君はやれば出来る子だよ、勉強もちょっと教えただけで成績も上がってるし。 あたし背だけじゃなくて宮下君にいろいろ追い越されちゃいそうだね」



そうじゃない、勉強だって頑張れたのは賄さんが居たからだし賄さんが居なかったら高野とだって話してない、賄さんが陰口を言われてるのだって賄さんがここに来る前ならいまだに俺はまたやってる程度の認識だ。



「違うよ賄さん」

「え?」

「俺が賄さんにそう思ってもらえるのは賄さんが居るからだよ。 ハッキリ言える、賄さんが思ってるよりずっと俺は賄さんに影響されてる。 賄さんが居たから頑張れた、俺からしてみたら賄さんの方が凄いって思うよ」

「宮下君……」



例え好きな人がいたってそいつより俺の方を好きになってもらいたい。 さっきも思ったけど賄さんが好きな人と上手くいかなくたって傷付いたって俺が受け止める。



だからそれまでに俺は賄さんから俺で良かったって思われるような奴にならなきゃ。



「そこまで言われたら…… 邪魔だって思われても甘えたくなるじゃん」

「迷惑とか邪魔なんて思うわけないって最初から言ってるし」

「…… ありがとう宮下君」



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