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「うわぁ……」
「どれどれ。 うわぁ、酷いなお前」
「うるせぇ! 椿こそどうなんだよ? …… マジかよ、お前そんなに頭良かったっけ?」
「まあな」
テストが返されると賄さんに勉強を教えてもらっていたおかげか俺は順位を伸ばした。 中間ぐらいの位置付けだったが初めて30位以内、賄さんすげぇ。
「スズ〜ッ、私ダメダメだったぁ」
「うん」
「うんって酷いなおい!」
机で寝そべっていると高野と賄さんの声が聴こえる、賄さんはもっと順位上なんだろうなぁと思っていると……
「宮下」
「うん?」
高野からお声が掛かる。
「あんたの順位見せなさいよ」
「遠慮しとく」
「見せろしッ!」
去年の終わりくらいから高野とは自然に話すようになっていた。 賄さんと住んでるって知ってからは警戒されていたのだが接していくうちに少しずつそんな感じはなくなっていた。
「ねえ宮下ぁ」
「来たよこれ……」
そこに割り込んでくる甘ったるい声で俺を呼ぶ奴…… 前園だった。
「あんた露骨すぎじゃない? 去年なんて宮下のこと眼中になかったくせに」
そんな高野も割り込んできた前園に露骨に面倒くさそうな態度を表す。
「はぁ? なんのことだか。 それと宮下と話すのにあんたになんの関係があるわけ?」
「空気悪くなんのよ!」
「どこが? つーか邪魔なんだよデク! そこどけよ!!」
俺の前の席の賄さんに早速暴言を吐く。 そんな前園に高野はイラッときて言い合いになりそうだから俺は席を立った。
「ああん、ちょっと待ってよ宮下〜!」
「うっさい」
席を立った俺についてくるのでウザッたくて早歩きになる。
「待ってったらぁ〜宮下」
「ついてくんなよ」
お前となんて仲良くしたくないんだよ、賄さんいじめるし。
「ねえちょっと!」
「なんだよ?」
「どこ行くの?」
「トイレ」
「じゃあ一緒に行く」
は?
「来なくていいよ」
「なんか冷たくない? 私宮下にそんな冷たい態度取られるようなことしたことあるかなー?」
お前自分の胸に手を当てて考えてみろよ、と言いたいがこいつからしてみたら賄さんに悪口言ってるから俺もムカついてるなんて知らないんだろうな。
こいつの言う通り俺に直接なんか言ってきたこともないし滅多に話すことはなかったけど俺な対しては至って普通な感じだったから。
「あのさ、宮下っていつの間にかカッコよくなったよね!」
「そりゃどうも」
「背も伸びたしさ、もう170以上あるんじゃない? チビ助だと思ってたらビックリ」
「ふーん」
「ふーんって褒めてんだからもっと喜べ! つーかそんな素っ気なくされると傷付くなぁ」
前園は俺に肩で軽く体当たりして言った。 こいつにそんなことされても……
「お前さ、傷付くとか言うけど特定の奴に集中攻撃するのやめろよ、見てて気分悪くなるし」
「え? 誰のこと??」
ニカッと笑って白々しいな。
「誰と言わずともわかるだろうが」
「えー? あいつの態度が悪いんじゃん、ムカつくし」
「俺も前の席でギャーギャー言ってるの見てると気分悪くなんの」
「はあ? なんで宮下にそんなん言われなきゃいけないの?」
「話聞いてないのかよ、だからそういうの聞いてて気分悪いんだって」
というかもうトイレに着いてんだけど前園が俺の腕掴んでるから入らせてくれない。
「もしかしてあいつのこと好きなの?」
「そんなこと一言も言ってないけど」
「じゃあなんで庇うわけ?」
「庇ってるわけじゃなくて仮に他の奴だったとしても俺はそんなの聞きたくないんだよ」
「じゃあ言うのやめたら私と仲良くする?」
はあ!? なんでそうなる?
「知らんし」
「なら私は別に言うのやめる必要ないし」
こいつ……
「じゃあとっとと離れろよ、俺トイレ入りたいんだけど」
俺が無理矢理振り解こうとすると……
「あーもぉ! 宮下のくせに生意気!!」
「俺のくせに生意気で悪かったな」
「きゃッ! 乱暴!」
はあ、やっと振り解けた。
俺はその隙にトイレに入った。 別にトイレ行きたかったわけじゃないから入ってすぐにでると前薗はいない、多分トイレに入ったんだろう、今のうちだと思って教室に戻った。
「宮下、あれと何話してたの?」
「別に。 うるさいからトイレ行って逃げてきた」
そして後から戻ってきた前園はその日から賄さんにイヤがらせをする回数は少なくなっていったような気がする。
「ねえねえ宮下ぁ〜」
「うるさい」
「何よ、宮下が気分悪くするようなことしてないじゃん私! なのに冷たいってどういうこと!?」
まぁ言わなくなったって本人は悪いとも思ってなさそうだけど。
「宮下!」
学校帰りに賄さんと高野に呼び止められた、というよりは待ち伏せされていた。
「2人ともここで待ってたの?」
「まぁそう言われるとそうだけど。 ねえ宮下、最近前園があんなに大人しくなったの宮下が何か言ってくれたからでしょ?」
「俺が言ってどうにかなると思うか?」
前園の気分でどうとでもなるような気がするし言わなかったからってあいつとは仲良くする気も特にないしな。
「またまたぁ〜! 言ってくれたんでしょスズのために」
「しーちゃん!」
「ほら、スズも宮下にお礼でも言ったら?」
高野が賄さんの背中を押して俺の前に立たせると賄さんの視線はあっちらこっちら行ってようやくこっちを見た。
「み、宮下君…… ありがとね」
「あ…… ええと、どういたしまして?」
そう言うと「ほら、なんか言ったんじゃーん!」と高野がつっこんだ。
 




