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俺の家に賄さんが来てから10ヶ月、早いもので6月になっていた。 なので俺は中学3年生だ。



「おはよう」

「あら椿、すっかり声低くなっちゃってぇ。 成長したのね。 母さん感慨深いわぁ」

「大人に一歩近付いたわけだな身体も声も」

「はいはい、ありがとさん」

「ちゃっと前まで鈴音ちゃんの弟みたいな感じだったのにねぇ」



俺はすっかり声変わりしていた、なんか変な感じだったがもう慣れてきた。 だけどまだ変化があった。



「おっきくなった」

「賄さんに言われるとそんな感じしないけど」

「酷い」

「冗談冗談」



身長が一気に伸びた、まさかあれから12センチも大きくなるなんて思わなかったぞ。 あちこち痛かった気がするのはそのせいか。



「このペースだとあたしの身長すぐ追い越しちゃうね」



賄さんは俺の目の前で手スーッと持っていって俺の頭スレスレで撫でるように空を切った。



「そうかな?」

「あたしはもう全然伸びなくなったし。 てかこれ以上大きくなりたくないからいいけど」



前は大きいなと思っていた賄さんも自分の身長が伸びると同時にだんだん伸びる身長に合わせて目線が変わってきて俺も大きくなったんだとちょっと自分も実感する。



「それに宮下君最近……」

「ん? 何??」

「あ、ううん、なんでもない! ってそろそろ学校」

「そうだった」



賄さんは俺の部屋から勉強用具を整理して鞄に急いでしまう。 



賄さんは結構成績が良いので俺の親がゲームばかりしてないで賄さんに勉強教えてもらったら? と少し前に言ったので最近勉強を教えてもらっていた。



「じゃあ先行ってるね」

「うん、気を付けて」

「宮下君も遅刻しないでね?」

「あはは…… 大丈夫」



俺の部屋から出る前に賄さんはドアノブに手を掛けたまま止まった。



「忘れ物?」

「へ? ううん、ええっと今日も勉強教えるからね」

「あ、うん、ありがとう」

「終わったらゲームもしたいかも……」

「いいね、ゲームなら大賛成」

「もう。 でもあたしもそっちのが好き。 じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」



そうして行ったと思うと不意にドアが開いた。



「寝ちゃダメだよ?」

「わかってるって」

「あくび凄いしてた」

「朝だからね」




勉強を教えてもらってたのはいいが前に賄さんが出て行った後行こうと思ったら慣れないことしたせいか少し寝てからと思ったら大遅刻してしまったことがあったのだ。 うちの母さんも俺がもう学校行ったと思ったら靴あったので慌てて起こしにきたんだよなぁ。



まぁ今やこのルーティンも慣れたのでそんなことはないが。



賄さんから少し遅れ学校に着いて下駄箱を開けると……



「なんか入ってるし……」



上履きの上に手紙が入っていた。 手に取れば女子っぽい字。



そしてこれもまた変わったこと。 3年生になって俺は何故かちょっとモテるようになっていた、自分の顔は毎日歯を磨く時見ているがそんなモテるような顔になったのか? と少し首を傾げて不思議だなと思っていたところだ。



頬をポリポリと掻いて手紙の内容を見てみる。 何々……





少し前に見掛けた時から気になっていました。 もし良かったらお話ししてみたいです、なのでお昼休みに化学室の前で待ってます。





うーん…… 化学室って相変わらずそういうところなんだ、前もそうだったよなぁ。 この感じからして2年生かな? 



そうして手紙をとりあえず鞄に入れて教室に入った。



「よう裏切り者」

「誰が裏切り者だよまったく」



俺の顔を見るなりバシッと優に背中を叩かれそうになったので腕で抑えた。



「こ、この! 俺なんか非力だってか!? 何食ってそんなんなった!」

「いや知らんて」



優の方はあんまり背が伸びなくて2年の時の俺よりほんのちょっと大きかった時のまま。



そうそう、優とは3年になっても同じクラスで賄さんも同じクラス、ついでに高野も同じだしチクチク賄さんに陰口言ってる前園も同じクラスなのであまり変わり映えはしないけど賄さんが居るとなんかホッとするのは好き以前にもうずっと俺の家で生活してるから家族みたいな感覚になっているからだろうか?



「いてッ」

「ボケッとしてるからだこんちくしょう!」



こいつが腹を立ててるのは俺が少しモテ始めたからというしょうもない理由だ。



「そんで!? 今日はあったのか?」

「何もない」

「くくくッ! そいつは結構」



これもそうだが前にそういう手紙が来て、何しろ初めての時だったから優にどうしよう? と相談したところ「許せん! 俺ら非モテ同盟組んでた親友だっただろ!?」とこいつに逆恨みされたからだ。



そんなん俺のせいじゃないしうるさいので最近は黙っている。



自分の席に座るとフッと前の席の人の肩がピクンと上がる。 その人は賄さん、2年の時とは違って今は俺の前に賄さんが居る。



席は窓側の真ん中、賄さんは相変わらず教室では俺にそんなに関わらないけどプリントを前から受け取る時はみんなに見えないように微かに微笑んでくれる。 だから俺も見えないように笑い返す、そんな程度だ。



授業が進み黒板ではなくなんとなく賄さんの背中を見ていると手紙のことを思い出した、今は4時限目。 昼休みが近付いてきた。



はぁ、3年生になってからこれまで3回手紙は貰ってるけど慣れないなぁ。 イタズラとかじゃないよな? と慣れない俺は毎回思う。



昼休みになると優がこっちの方へ来た。



「おーい、飯食おうぜ」

「悪い、俺腹痛いから俺トイレ」

「マジか!? 学校でうんこか!!」

「デッカい声で言うなよ!」



そんな小学生みたいに目をキラキラさせて言うなよボケ。



「スズ〜、食べよ!」

「うん」



教室から去り際さりげなく賄さんを見るその一瞬賄さんもさりげなく俺を見ていたのに気付いて賄さんはサッと俺から目をそらした。 



賄さん優の言うこと真に受けないでくれよと俺は心の中で溜め息を吐いて化学室へ向かった。





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