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水族館に着いた。 受付で入場料を払う時……
「あら〜、綺麗なお嬢さんねぇ。 弟と一緒? 仲良いのねぇ」と受付のおばちゃんに言われてしまう。
これだから田舎の水族館は……
賄さんは笑いを堪えているようで俺は傍から見れば姉弟のように思われてることに絶望した。
「ぷくくッ、弟だって宮下君」
「酷いよな、あのおばちゃん」
「でもいいじゃん、あたしは面白かったし」
「賄さんだけだよまったく」
水族館の中に入ると賄さんは小走りになって夢中で魚を見ていた。
「凄い綺麗だよ!」
「これだけいたら食べるのに困らなそうだよね」
「うん、みんな美味しそう…… って感想がそれ?」
「賄さんだってそう思ってるんじゃん」
「宮下君が言わしたんでしょ」
うん、やっぱり楽しんでる。 来て正解だった。 少し遠いから気兼ねないみたいだし。
それから賄さんとペンギンを見たりラッコを見たりクラゲを見たり。 まったく微動だにしないワニを賄さんは興味津々に見ていてなかなか離れようとしなかった。 爬虫類とか好きなのかな?
そしてお決まりのアザラシとイルカのショーを一緒に見たりした。 終わりにイルカに触れると聞いて賄さんは水面から顔を出したイルカの口に触れて楽しそうだった。
全て見終わりお土産売り場に行くと賄さんはこういうところには必ずあるお約束のようなイルカのキーホルダーを買って今は帰りのバスの中、今度は最初から賄さんは俺の隣に座った。 地元が近くなれば移動するかもしれないけど。
「あっという間に夕方になっちゃったね」
「そうだね、てかそれもう付けたんだ」
「うん、記念」
賄さんはキーホルダーを付けた財布を見せて俺にニコッと笑った。
「誘って良かった」
「うん?」
「賄さん最近元気なかったからさ」
「あ、あたしがそうだったから宮下君は行こうって言ってくれたの?」
「そうだよ」
「ッ……」
賄さんは俯いて喋らなくなってしまった。 何か怒らせたのかと少し焦ったけど賄さんは俺と顔を合わせようとしない。
「賄さん、もうそろそろ着いちゃうけど……」
そのままずっと俺の隣に座りっぱなしでバス停に着いてしまう。
もしかしてこのまま降りないんじゃと不安になったが俺が席を立つと賄さんも後に続いたのでホッとした。
そして自宅に戻る最中俺と賄さんは少し距離を取る。 これは2人一緒にあるいてたらマズいという配慮、今朝もそうしてたし。
賄さんが先を歩いて俺が後ろだった。 このまま賄さんの機嫌が悪ければ賄さんは自分の自宅に戻るんじゃと思ってたけどそれも杞憂で俺の家の方向だった。
家に着き玄関を開けると賄さんが待っていた。 何も言わないしちょっとおかしな雰囲気だったので「帰ってくるとドッと疲れたね」と賄さんに言って通り過ぎようとした時服を掴まれたと思ったら俺の視界の横に長い髪の毛が目に入ったと同時に身体の自由が効かなくなった。
「え? ま、賄さん!?」
「ごめん」
後ろから賄さんに抱きつかれていた。
「…… なんとなく、なんとなくこうしたかった、ていうよりありがとうってことで、その…… 嫌だったらやめるから、けど…… もしそうじゃなかったら少しこうさせて」
そのままの状態で2、3分くらい経っただろうか? 俺の肩から回していた腕がスッと離れる。
「えっと…… 賄さん?」
「ぅあ……」
俺が賄さんに向き直り見上げると賄さんは顔を下に向けて髪の毛で顔を隠すけど明らかに今の自分の行為に恥ずかしがっている。
「きょ、今日は凄く楽しかったし嬉しかった」
「う、うん……」
そうとしか反応できなかった。 なんて言えばいいのかわからない。 賄さんにいきなり後ろから抱きつかれて俺もパニックだ。
「もうこんな時間…… 夕飯作るね」
逃げるように俺の元から離れてキッチンの方へ行った。
なんだ? なんだったんだ今のは!? バスの中では物凄く不機嫌に感じたのに今は去り際にちょっと微笑んでた。
なんて考えているうちに夕飯が出来て俺はさっきのことで動揺していて賄さんも似たようなもので夕飯は静かに食べ、賄さんが風呂に先に入って俺もその後に入った。
風呂上がり今日は疲れたろうし先に部屋に行って寝てるだろうなと思うと賄さんはカップ2つにコーヒーを淹れてリビングで待っていた。
「コーヒーいれといたの。 暑いからアイスコーヒーにしたけどいい?」
「あ、ありがとう」
ソファの近くのテーブルに2つ並ぶアイスコーヒー、賄さんはソファに座りこれは俺も座ってよろしいのだろうか?
いつもは俺がソファに座ろうとすると床の方に避ける賄さんだけど今は俺が座ってもソファから動かない。
いつもと違うので困惑しているけどとりあえずアイスコーヒーを飲んでみる。 飲んでる横から賄さんの視線を感じるのは気のせいではなく俺もそんな賄さんを気になって横目で見ていたから。
「オホンッ」
咳払いをして賄さんの身体が僅かにこっちに近付いた。
「お、美味しい?」
何か言わないとという感じで無理矢理捻り出したように賄さんが言った。
「美味しい」
そうなってたのは俺も同じで俺が言う前に賄さんが言ってしまったのでそれに答えまた会話が途切れる。
「凄かったね」
「うん?」
「イルカ間近で見れて。 本物ってあんなんなんだ」
「うん」
やっと絞り出した俺の会話も長く続かなかった。
そんな気不味いというか微妙な雰囲気の中ぎこちない言葉を交わすたびに賄さんと俺の距離は近付いていき賄さんの頭が俺の肩にコツンと当たる。
身長差があるから普通はこうならないが賄さんは上体を下げて俺の肩に頭を置いた。
「やっぱり…… 今日はこうしていたい」
「これってどうゆう」
「あたしワガママだから。 そんな気分」
これは今日偶然、たまたま、そういう気分、たまにはこんな時もあったりしてなんて考えてて明日にはいつもの賄さんなんだろうなと思ったけどそうじゃないみたいだった。




