16
「ただいま」
「おかえり。 はぁー……」
「ん?」
「ううん! ちょっと疲れただけ」
「じゃあ明日は俺に任せてよ? 賄さんはゆっくり寝てていいから」
「そうしようかな……」
何日か経って俺は優に一回遊びに誘われてちょくちょくと遊んでいた。 賄さんはその間家に居るわけだけど「高野と遊ばないの?」と聞くと高野の家では家族で旅行に行っているのだそうだ。
なので賄さんはあの日以来誰とも遊ばずにいるから俺も優と遊んでてだんだんとそのことが気になってきた。
さっきの溜め息も自分だけ遊ばずに家に篭りっきりで片や遊びに行っている俺への無意識の何かかもしれない。
聞けば賄さんも去年とかはこの時期家族と旅行行ったりしていたみたいだし。
よし、ダメ元で賄さんに提案してみようかな。
「今日は和食っぽいの。 お魚焦がしちゃった、ごめん」
賄さんはチーンと音が聴こえそうなほどションボリしている。 2人でどこか行ってみない? と賄さんに提案しようとしたんだけど大丈夫かな? 雰囲気的に切り出し辛いけど。
でもまだどこに行くかも決めてないんだよなと思って賄さんが焦がしてしまったという魚を見ていると閃いた。
「賄さん!」
「ひあッ! ご、ごめんね、次はちゃんと焼いてみせるから」
「そうじゃなくて水族館行こう!」
「…… 水族館??」
「そう! 明日にでも」
「み、宮下君と?」
賄さんはオズオズと俺を見た。
ま、まぁ俺みたいなのと行くのは気乗りしないかもしれないけど賄さんにも気分転換してもらいたいし。
「どう…… しよ」
「水族館は嫌だった?」
「嫌じゃないけど」
あれ? 嫌じゃないのにこの微妙なリアクションはやっぱりもしかして……
「俺と行くのが嫌だった? 確かに俺みたいなのと一緒だと賄さんからしたら恥ずかしいかもしれないけど。 だったら他にどこがいいか考えとくよ」
「ち、違うよ、誘ってくれて嬉しいし宮下君と一緒だと恥ずかしいってのはない…… ことはないんだけど。 ううん、あるかも」
なんとも歯切れの悪い、しかもやっぱり俺と一緒だと恥ずかしいんじゃないか!
「あのね、水族館って誰かと会ったりしそうだし…… だからって宮下君と居て恥ずかしいってのはそういう意味じゃなくて。 ああ、なんて言ったらいいんだろう? あたしとしては行きたい」
「それはつまり近場の水族館だと同級生と会うかもしれないから少し離れた場所の水族館ならいいってこと?」
「そ、そう! 宮下君と居る時間は落ち着けるから寧ろ好きだし。 だから行きたい」
「え? あ、ああ」
そういう意味か。 一瞬自分の都合の良いように解釈してしまった。 賄さんはそういうこと意図して言ってるように見えないしただ単に落ち着けるってのは本当だろう、でもそういう風に思われてるっていうのは悪い気しないし。
「じゃあちょっと離れてるここの水族館にしてみない?」
俺は携帯で行き先を検索して賄さんに見せる。
「うん、行く!」
賄さんは目を輝かせて言った。
良かった、俺からでもわかるくらい賄さんはハキハキして喜んでる。
「水族館かぁー、楽しみ」
「さっきとはえらい違いだね?」
「だって気兼ねなくだから。 って油断してると誰かと会っちゃうフラグみたいだよね」
「まぁ大丈夫じゃないかな? でも賄さん目立ちそうだしなぁ」
「そ、そんな目立つかな?」
「そりゃあ美人だし大きいし。 あッ」
ムッとしてしまったかな? 顔をそらされてしまった。
そしてその日は早く寝て次の日になった。
財布OK、家の鍵も持ったし携帯も持った、あとは賄さんを待つだけだけど。
「賄さん、バスの時間とかあるしそろそろいいかな?」
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて賄さんがサンダルを持って部屋から出てきた。
「うわ……」
思わずそんな声が出た。 白ワンピに帽子コーデなんだけど賄さんが着ると背も高いからかどこかのモデルみたいだ、こんな美人と同じ屋根の下に居るなんてと今更思う。
「似合わない? 変?? 着替えた方いい?」
俺のリアクションが微妙だと思ったのか少し青ざめる賄さん。
「ううん、凄く綺麗だなって」
思わず恥ずかしいことを言った俺は口を押さえた。 キモいこと言ってる俺……
「な、なんだ。 センス悪いとか言われるかと思ったからホッとした…… き、綺麗??」
賄さんが少し屈みながら俺の顔を覗き込んで聞いてくる。
こんな地味メンにもう一度聞き返すなよ……
賄さんも恥ずかしい質問をしていると思ったのか耳まで真っ赤になっていた。
「ま、賄さんは綺麗だよ最初から」
「ちょ、もういい」
耐えられなくなったのか賄さんは一歩後ろに下がって帽子を取ってパタパタと扇ぎ出した。
「そういう格好の賄さん初めて見た」
「あたしだってたまにはこういう服着るよ特別な日だし」
「特別??」
「だって水族館だよ」
確かにそんなに行く場所じゃないしワクワクしてるみたいだし特別だな、俺も賄さんと行くなんて特別超えてもう奇跡だわ。
そしてバス停に向かう、電車もありだったけどなんとなくバスの方が同級生と出くわしたりしなそうと思っただけだ。
バス停でバスを待っていると賄さんが帽子を深く被り辺りをキョロキョロとしている。 まぁ一応警戒してるんだろうけどちょっと目立つ、なんせ美人だし。
バスが来ると俺と賄さんは真ん中辺りに座った。 てっきり賄さんは俺の隣に座るのかな? と思っていたがひとつ後ろの席に座った。
「ごめん、ちょっと恥ずかしくて」
「いや、気にしなくていいよ」
まぁ確かに知り合いでも急にバスの中に入ってきたらなんでお前ら2人!? なんてことになりかねないしそうなった時気の利いたこと言えそうにもない。
しばらくバスは走り続け地元から少し離れたところで賄さんは俺の隣に座った。
「と…… 隣来ちゃった」
「どうぞ」
何故かぎこちない感じ。
「修学旅行とか思い出すね小学校の」
「言われてみると確かに」
「まぁあたしの隣に座った人はつまらなくて気の毒だけど」
うーん、気の毒というかラッキーな気もするけど。 でも学校モードの賄さんじゃ座った相手も相手にされなそうだしちょっと気不味いかもな。
「でもこんな賄さんだったらつまらないどころかちょっと得した気分かな」
「い…… 意味わかんない」
賄さんに肘で腕を突かれた。




