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「んんー、熱は下がった」
「うん、だからもう大丈夫だよ。 今まで迷惑掛けてごめんね」
「いい、あたし頑張る」
「…… 何を?」
病院から帰った後、ここ3日くらい賄さんはこんな感じだ。 テキパキと動いて家のことやったりと。
俺がリビングまで降りてくると「いいから寝てて」と用事があっても戻される。 なんなんだこれは? 一通りやってくれるのは助かるけどなんかそれが逆に心配。
「もう掃除済ませたの?」
「うん、ちゃんとやったよ」
綺麗に物が整頓されていた。 うちの母さんがやるよりもよっぽど綺麗に。
「あ、それと宮下君お腹空いてない?」
「ああ、食欲も戻ってきたしお腹空いちゃった」
「パエリア作ってみた」
「よく作れたね?」
「調べて作ってみた」と言ってお腹が空いている俺に食べてとパエリアを盛り付けた皿とスプーンを渡される。
「どうかな?」
「美味しい」
「そっか、美味しい…… 良かった」
「ってあれ!? 賄さんは食べないの?」
「トイレ掃除して洗濯物片付けたら食べる」
「ええ?」
テキパキ動くのはいいんだけど張り切りすぎじゃない?
「ふう……」
賄さんの額に少し汗が滲んでいた。 もう十分綺麗なのに掃除したり異様に力が入ってるし当然だ。
「賄さん、疲れたでしょ? しばらく俺サボっちゃったし皿洗いとか風呂掃除とか俺がやるからさ、賄さんは少しゆっくりしてていいよ」
「ダメ」
「え?」
「あたしがやる」
少し力が篭った言い方。 なんだか最初にうちに来た賄さんを彷彿とさせる。
「宮下君こそまだゆっくりしてて。 あたしちゃんとやるから」
「もう大分ちゃんとやってると思うけど…… 賄さんが疲れないかなって」
「疲れない、あたし元気」
抑揚のない声でそう言われても元気かどうかわからないんですが?
それから賄さんが他のことをしているうちに風呂掃除をしようと思っていると……
背後から視線!? 刺すような視線を感じたので後ろを振り返ると少し怒ったような顔の賄さんが俺を見下ろして立っていた。
「あたしやるって言った」
「それは聞いたけどやっぱ賄さんだけにやってもらうのはフェアじゃないってゆーか」
「あたし出来るもん」
「え?」
脈絡なく言うから何をどうしてそういう回答になるのかさっぱりわからん。 けどこれは意地になっている賄さんだ……
こうなると何かしらふとしたことで雰囲気が悪くなってしまう兆候に感じられる。 何にムキになっているのかわからんが俺は「じゃあやっとくから」とそんな賄さんを他所に風呂掃除を始めた。
「あたしがやるッ!」
賄さんが俺の手から強引に風呂掃除用の洗剤を奪おうとするが……
「ぐああああッ!!」
「み、宮下君!?」
「目が、目がぁ〜ッ!!」
俺の目に目掛けて洗剤が飛び出してしまった。
「バ、バル○! じゃなかった、ごめんなさいッ」
なんでそこだけノリがいいんだ? それにバル○の後にこうなるんだ。
シャワーを目に当て洗剤を洗い落とすと申し訳なさそうな賄さんが風呂場の扉の前にションボリと立っていた。 服もビショビショになったし着替えなきゃ。
風呂場から出ようとするが賄さんが居て通れない。
「あの、賄さん? 着替えたいから出たいんだけど退いてもらえる??」
「ごめんなさい…… あたし頑張るから」
「もう十分頑張ってるように見えるけど」
「頑張ってこれだもんね、そりゃあたしですから」
ダメだ、なんか話が通じてない。 てかなんでいきなり頑張り出したんだ? 俺が風邪引いた辺りから変だったけど。
「えっと、とりあえずちょっと通して」
石像のようになってブツブツ言って動きそうにない賄さんの肩に手を触れようとするとスッと後ろに下がられた。 それちょっとショック……
「あ! 服洗わなきゃ。 すぐに脱いで宮下君」
「ここで!?」
「うッ…… あたしちょっと休む」
「え? ああ、うん」
大丈夫だろうか?
着替えて風呂掃除を済ますと賄さんはソファの床の近くで脚を組んで座っていた。
ソファに座ればいいのに。
「賄さん風呂掃除は終わったよ」
「病み上がりのところお疲れ様です」
「どうしたのさ? ここ最近変だよ」
「…… 変」
そう言うと更に賄さんの声のトーンが落ちた。
しまった、今の賄さんに変とか言うのは失言だった。
「そうだよ、あたしは変だよ」
「そういう意味じゃなくてさ」
「嬉しかったの」
「嬉しかった?」
「宮下君が病院から帰ってきた時あたしが居てくれて良かったって言ってくれたこと」
あ…… そういや言った。
「そんなこと私の家族とかしーちゃんくらいにしか言われたことなかったから。 それがいきなり宮下君の家に上がり込んできたあたしに言われるなんて思ってもみなかったの。 だからもっとそう思われたくて頑張りたかった、なのにダメダメで…… 宮下君もこいつ面倒臭いくらいにしか思ってなさそうで」
「違うよ賄さん、寧ろ面倒を掛けてるのは俺だし風邪引いた時なんか賄さんが居てくれて本当に心強かった。 でも頑張るからって自分を追い込んでいるように頑張ったって空回りするだけじゃん。 自然でいたって賄さんが頑張ろうとしてるってのはちゃんと見えてたよ、だから少しは肩の力抜いて欲しい。 気兼ねなくいて欲しいんだ、2年間だけどここが自分の家だって思えるくらいに」
なんて臭いことを言っているんだ俺は……
「じゃあ…… じゃあ宮下君はあたしがここに居て欲しい?」
なんて答え辛い質問。 居て欲しいって言ったら俺下心ありとか思うかな? でも賄さんはそんなこと関係なしに言ってるような気がする。
「うん」
「…… そっか。 そっかぁ」
賄さんは大きく溜め息を吐いた。
「あたし迷ってたの」
「え?」
「家の鍵もあるしここでずっと暮らす必要ないんじゃないかって。 この前しーちゃんと遊ぶ時家に戻った時凄く落ち着けてやっぱりあたしの家はここなんだなって。 宮下君の親には悪いけどこのまま帰らなくていいんじゃないかって思った、2年間だし」
やっぱりな、賄さんだってそんなのとっくに気付いてたよな。
「でも帰ってくるねって宮下君に言っちゃったし…… お腹空かせてるだろうなって思ったし」
なんかペットに餌をやる義務的なあれに感じる…… そんな感じだったの?
「でも迷惑掛けてたしそんなあたしが行ったってまた迷惑掛けるんじゃないかって凄く悩んだんだ。 けどそういうのはちゃんと向き合って言わなきゃって思って。 あたしが言うと変に聴こえるよね?」
俺は静かに首を横に振った。
「宮下君の家に帰ってきて宮下君の顔を見たらあたし臆病者だからなかなか言い出せなくて。 でも宮下君が風邪引いた時あたしが居て良かったって言われて少しつっかえてたのが取れた気がしたの、だから……」
「居てくれて良かったよ今も」
「へ?」
俺はもうはずかしいとかそういう体裁をを気にしないで言っていた。 それは賄さんが本音で話してくれたからかもしれない。
「俺も賄さんが言うほど大人じゃないしただの中坊だし。 誰も居ない家に3週間もって最初は全部が自分の自由とか思ったけど賄さんが居なかったら今頃寂しかったと思う、それにうちの親が帰ってきても賄さんの親が帰ってくるまで居て欲しいって思ってる。 だって賄さんが居た方が楽しいし」
「み、宮下君が寂しいなら…… そうする」
急に賄さんが自分の言ったことが恥ずかしく思えてきたのか俯き加減にそう言った。 俺はもっと恥ずかしい、寂しいから居てくれって思われてるだろうから。
「ええと…… じゃあ改めてよろしくでいいかな?」
「うん、こちらこそよろしく宮下君」




