6-2
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「あれで良かったですか?」
阿邱が聞いた。
「はい、ご協力感謝します」
その横で、うなずいたのは射命丸文。
「でもなんでこんな事を…」
「それは秘密です」
射命丸は人差し指を己の唇に推し当てて言う。
「…まあ、いいけどね」
阿邱は、この天狗から目を逸らす。
詮索はしない。
その代わり、求聞史紀など稗田家の所有する書物を連盟へ紹介してくれるという約束だ。
商売に堕したと言われたらそれまでだが、家を維持するには金がいる。
食べてゆくには仕方のない事だ。
(これからの時代は連盟とのパイプがものを言うだろうし)
阿邱は心の中で算盤を弾いていた。
*
ムラサは自分じゃまったく分からないので、青娥と芳香の所へ行き、天狗の詩を見てもらった。
「…なにこれ?」
「古体詩なのかー?」
青娥と芳香は首を傾げた。
「なんか変なのか?」
「普通、漢詩といえば、五言絶句から始めて七言律詩へ進むのがセオリーなのよね」
「その後、五言律詩とかやるんだぞ」
芳香がその先を続ける。
「そういう縛りがない、自由な詩を古体詩というのだけど、これはよほど実力がないと作れないのよ」
「はあ」
ムラサは生返事。
やはり理解の外である。
肉体言語の方がいい。
「なにやってるウサ?」
てゐが通りかかって声をかけてくる。
「ああ、こういう訳で…」
「なんだそれ?」
てゐは眉を潜めた。
「天狗の社会でそういうの流行ってんのかウサ」
「しらねーよ」
ムラサはツッコミ。
なににツッコミしたのか、自分でもよく分からない。
「漢詩は昔、師匠から少し習ったけど」
「コイツらがいうには、午後絶食とかから始めるんだってな」
「五言絶句ね」
「コイツらでまとめんな、なのだー」
青娥と芳香が文句をいう。
「天狗のいうことだし、なんか裏があるに決まってるウサよ」
「ま、そうだよな」
ムラサはうなずく。
が、その先が見えてこない。
「それを見越して、なにかを私達に伝えたいんじゃないからしら?」
青娥が言う。
「あ、そういうこと」
「天狗らしいウサ」
「となると、前に妖怪の山で会った時の話題だよな」
「そーウサね」
てゐはうなずいた。
詐欺師の頭脳がフル回転している。
(師匠が言ってたけど、分からない時はもう一度最初から見直すべきウサ)
(天狗がわざわざムラサに披露してみせた詩)
(漢詩の世界では、普通は五言絶句から学び、その後、七言律詩へ進む)
(天狗が披露した詩はそういう縛りがない、これは古体詩と呼ばれる)
(……ん、まてよ)
てゐは気付いた。
普通は五言絶句から学ぶというが、その縛りはどのようなものだったか。
てゐは、ほんの少しかじった程度だ。
漢詩のルールについてはうろ覚えである。
「確認なんだが、五言絶句ってどんなルールウサ?」
てゐが聞いてみると、
「そっからなのかー」
芳香は驚き呆れている。
「五言絶句の五言は五文字、絶句は四句のことよ。五文字を四句並べた、全部で20文字の形式になるわね」
青娥が説明した。
「確か、四句は起承転結になるんだったかウサ」
「そう、その通りよ」
「押韻、平仄という規則もあるのだ」
芳香がドヤ顔で言った。
「古体詩は?」
てゐは聞いた。
「古体詩はその辺のルールがないのよね、自由に作っていいのよ」
青娥が答える。
「あー、課題と自由研究みたいなもんかウサ」
「まー、そんなようなものね」
てゐは再び射命丸の作った詩を見る。
四文字×四句で、16文字。
「なんだろう、16文キックかウサ?」
「そんな昔からあるのか、その技!?…って、アホか!!」
ムラサが反射的に突っ込んだ。
「はい、そこ漫才をしない」
青娥が一応のってきてくれる。
バカな事を言い合ってみたが、やはりなんなのかは分からなかった。
*
「天使がエノク語でコミュニケーションを取っていると考えるのが妥当じゃないの?」
レミリアは言った。
「いや、仮に天使だとして、エノク語を使うなんて事は前例がない」
魔理沙が否定する。
魔理沙は一貫してエノク語には否定的だ。
「西洋魔術では天使との交信もやるんだが、その場合はラテン語とかヘブライ語だぜ」
「西洋魔術を伝えてきた地域というか文化圏の問題ではありませんか、それ?」
咲夜が聞いた。
「なるほどな、そういう考え方もあるか…」
「でも、黙示録の一文が出てきたのはどうしてなのかしら?」
レミリアはうーんと腕組み。
「なにかの意図がありそうですよね」
さとりがスクリーンを見ながら言った。
*
エイラクマルのホールでは、モニターが設置されており、ブリッジと同じ映像を見られるようにしていた。
本来なら、パープル達はブリッジへ移動するのだが、今回は特例で視察団にも公開で任務に当たっていたのだった。
「石板を置いたのが誰だか未だに判明していない」
「仮に天使としよう、だが、何が目的なのか」
分からない。
石板の文字は約2時間で次の一文へ切り替わっているのが確認された。
文字の解読は可能だが、どうやら黙示録を断片的に表示しているようだ。
「月の都基地に石板の文字と訳文を逐次送るように」
『はい、船長』
パープルが言うと、通信士も兼ねているコマチが返事をした。
「今のところは見守るしかないな…」
パープルはつぶやいた。




