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東方銀訪傳  作者: くまっぽいあくま
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6-1

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「コンピューター、石板に浮かんだ文字を解読して」

アズマはコンピューターに命じた。

『了解』

解読を始めたコンピューターは、すぐに言った。

『この文字はエノク語と言われているものと一致しましたが、解読には至りませんでした』

「え?」

アズマは驚きを隠せない。

「エノク語ってなによ?」

『エノク語とは、1500年代のイギリスなどで活躍した心霊研究家のジョン・デイーと霊能力者のエドワード・ケリーが大天使ウリエルと交感し、その時に大天使ウリエルが使用していた言語とされています』

「…はあ?」

アズマは理解が追い付かず、すっとんきょうな声を出した。

「それ、オカルト話よね?」

『はい、その類いのデータベースに記録されています』

「船長、石板に浮かび上がった文字の事が分かりました」

『解読はできなかったか?』

「ええ、まだです」

アズマは言った。

「が、この文字はエノク語と呼ばれるものと一致しました」



火星の石板にはカメラと各種検出器を設置してある。

検出器は後から設置していた。


「なぜ、解読できない?」

『エノク語はオカルトに分類されており、言語として確立されていません。解読方法がデータベースに存在してません』

「うーむ、しかし、なぜエノク語なんてものが?」

『わかりません』

パープルの疑問にコンピューターは答えられなかった。

突然始まったパープルとアズマ、それにコンピューターのやり取りを見て、幻想郷視察団の面々はざわつき出した。

「なんかのアトラクション?」

「いや、トラブルだろ」

「え、なにか起きてるの?!」


ざわめきを聞いて、パープルは己の失態に気付いた。


(しまった、皆の前で言うべきではなかった)


隊員なら不測の事態でも命令系統を遵守するように教育を受ける。

しかし、視察団の面々は普通の人間ではないとは言え、宇宙船の出来事には不馴れだ。

「えー、みなさん…」

パープルが宴会をお開きにしようと声を張り上げた所で、


「エノク語の解読だろ?私に任せなよ」


皆の中から進み出てきたのは、トンガリ帽子にローブ姿の女だった。

霧雨魔理沙だ。

魔法の森に住む魔女、確かそういう肩書きだったはず。

「オカルト知識なら魔女の私がぴったりだぜ」

「いえ、客人の手を煩わせる訳には…」

「私たちは連盟と友好関係にあるんだよな?」

「ま、まあ、そうですが…」

「なら、協力できることはするべきだぜ」

魔理沙はパープルに笑いかける。

「…わかりました、ではお手並み拝見といきましょう」

パープルは押し問答するのは避けた。

友好を言われたら、断りづらい。


『えっと、コンピューター』

『はい、ご要望をどうぞ』

「えへへ、これ、一辺やってみたかったんだ」

魔理沙はヘラヘラしながら、

「エノク語については調べたことがある。あれは実際には人工言語だ。英語の構造を基準にして解読可能だ」

『わかりました』

コンピューターは魔理沙の言う事を実践した。

「エノク語に携わったのは、ジョン・デイーとエドワード・ケリーだが、この二人はイギリス人だ。心霊術と称して大天使ウリエルと交感したってことになってる。その際に大天使ウリエルの話した言葉って触れ込みだけど、こういうのは典型的な詐欺師の手口でね。でも、英語を元に人工言語を作ったのは才能かな。文字がアルファベットに対応しているはずだ」

コンピューターが作業に入っても、魔理沙はペラペラとしゃべり続けている。

コンピューターは魔理沙の示唆により、暗号解読の手法が適用されると気付いた。

コンピューターの得意技に演算がある。

簡単にいうと総当たりだ。

英語の構造を念頭に置いて、使用される文字の頻度を調べてゆき、一定の法則を見いだしてゆく。

そして、エノク文字をアルファベットへ変換する。

『解読できました』

コンピューターは言った。

「オーケー、訳文を披露してくれ」

『はい』

コンピューターは機械らしく抑揚のない口調で訳文を朗読した。


『彼の国は、われらの神とその救世主との国となる。神は世々限りなく支配なさるであろう』


沈黙。

もはや宴会の雰囲気は消し飛び、静けさがホールに充満していた。


「これは聞いたことがあります」

静寂を破ったのは、紅魔館のメイド十六夜咲夜だ。

「黙示録の言葉に似てますね」

「当たり」

魔理沙はパチンと指を鳴らす。

「でも、ここで一つ疑問が生まれる」

「ああ、なぜ黙示録の言葉なのか、という事ですね」

地霊殿の主、古明地さとりが言った。

「そう」

魔理沙はそこで一同を見回した。

幾つかの勢力の者が目を逸らしたり、不自然に俯いたりしているのが見えた。

「……まあ、私にできるのはここまでかな」

「うーむ、やるなぁ」

パープルは唸った。


「ご協力感謝します」

パープルが謝辞を述べると、

「エノク語を使うってことは、普通に考えて、天使よね」

レミリア・スカーレットが言った。

「そうなりますね」

パープルはうなずく。

「だが、有史以来、エノク語なんてものはジョン・デイー達しか扱ってない。エノキアンマジックってのも存在するけど、あれはエノク語のネームバリューに便乗したもんだしな」

魔理沙がすぐに否定した。

「魔女のくせに、随分と論理的ね」

青娥がくすりと笑った。

「魔法は科学とは別の体系を持つだけで論理だよ」


場の雰囲気が大分和らいできて、一同雑談を始めている。

パープルはどうすべきか迷った。

ここでお開きにするか、続けるか。

「申し訳ありませんが、宴会はここで終了とさせて頂きます」

迷った末にいったんお開きにする事にした。

「お、なか締めってヤツね」

レミリアが言った。

テンションが上がってる。

「相変わらずのアジア好きですね」

さとりが冷笑してみせる。

だが、レミリアが怒ったりする様子はない。

この2人は立場が似てるせいか意外と仲がいい。

「なか締め?」

パープルは面食らった。

西洋文化の中で暮らしてきた彼女にはよく分からない風習である。

「船長、ここは私が」

ムラサがさっとフォローに入った。


「皆さん、お手を拝借」


三本締めで締めた。



宴会が終わっても、皆、居残っている。

帰りたいヤツは皆無だった。

「船長、皆、火星の石板に興味津々です」

「うむ、まあ仕方ない」

船の業務を見学してもらうのも一つの交流の姿だろう。

パープルはそう続けた。

「私達は見学と洒落込みますよ」

と、やって来たのは『清く正しい』という胡散臭い触れ込みの射命丸文である。

「射命丸さんよ、あんたはなんか知ってるはずだ」

ムラサは射命丸を見た。

「妖怪の山で会った時にそんな態度だったしな」

「おや、そうでしたっけ、うふふ」

射命丸はとぼけている。

「そんなことより!」

「くっ…この天狗、強引に話題を変えるつもりか!」

ムラサはなんか変なノリに入り込んでいる。

「最近、詩を作るのに凝ってまして」

「私にそんなもん分かるわけないだろ」

ムラサは自慢じゃないが、教育など寺の修行以外では受けたことなどない。

基本的に脳筋なので、詩歌などといった風流なものは理解の外だった。

「まあ、聞いてください」

射命丸はムラサの反応は無視して言った。


春芽開長

夏葉茂青

秋実豊紅

冬枯衰閑


「ふーむ、四季の移り変わりを表現したものですか…」

ひょっこりとおかっぱ頭の少女が顔を出す。

稗田阿邱だ。

「ぶっちゃけ平凡な作ですね」

「むむっ」

射命丸は唸った。

「なら、どう作ればいいと言うんです?」

「では、お手本を作ってみせましょう」


春芽長青

夏葉茂面

秋実結堅

冬枯都衰


「こんな風にすれば字や音が揃ってきて、より面白味のある詩になりますよ」

阿邱はさらっと改変。

「むぐぅ…た、確かに」

射命丸はかなりショックを受けたようで、冷や汗をかきながらガタガタと震え出している。

「さ、さすがは、ひ、稗田家当主ですね」

「いえいえ、このようなことはなんでもありません」

阿邱は言葉は謙遜していたが、表情は嬉しさが弾けていた。

(ぷ、吹き出してしまいそうだ)

ムラサは笑いを堪えて、その様子を見ていた。


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