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「コンピューター、石板に浮かんだ文字を解読して」
アズマはコンピューターに命じた。
『了解』
解読を始めたコンピューターは、すぐに言った。
『この文字はエノク語と言われているものと一致しましたが、解読には至りませんでした』
「え?」
アズマは驚きを隠せない。
「エノク語ってなによ?」
『エノク語とは、1500年代のイギリスなどで活躍した心霊研究家のジョン・デイーと霊能力者のエドワード・ケリーが大天使ウリエルと交感し、その時に大天使ウリエルが使用していた言語とされています』
「…はあ?」
アズマは理解が追い付かず、すっとんきょうな声を出した。
「それ、オカルト話よね?」
『はい、その類いのデータベースに記録されています』
「船長、石板に浮かび上がった文字の事が分かりました」
『解読はできなかったか?』
「ええ、まだです」
アズマは言った。
「が、この文字はエノク語と呼ばれるものと一致しました」
*
火星の石板にはカメラと各種検出器を設置してある。
検出器は後から設置していた。
「なぜ、解読できない?」
『エノク語はオカルトに分類されており、言語として確立されていません。解読方法がデータベースに存在してません』
「うーむ、しかし、なぜエノク語なんてものが?」
『わかりません』
パープルの疑問にコンピューターは答えられなかった。
突然始まったパープルとアズマ、それにコンピューターのやり取りを見て、幻想郷視察団の面々はざわつき出した。
「なんかのアトラクション?」
「いや、トラブルだろ」
「え、なにか起きてるの?!」
ざわめきを聞いて、パープルは己の失態に気付いた。
(しまった、皆の前で言うべきではなかった)
隊員なら不測の事態でも命令系統を遵守するように教育を受ける。
しかし、視察団の面々は普通の人間ではないとは言え、宇宙船の出来事には不馴れだ。
「えー、みなさん…」
パープルが宴会をお開きにしようと声を張り上げた所で、
「エノク語の解読だろ?私に任せなよ」
皆の中から進み出てきたのは、トンガリ帽子にローブ姿の女だった。
霧雨魔理沙だ。
魔法の森に住む魔女、確かそういう肩書きだったはず。
「オカルト知識なら魔女の私がぴったりだぜ」
「いえ、客人の手を煩わせる訳には…」
「私たちは連盟と友好関係にあるんだよな?」
「ま、まあ、そうですが…」
「なら、協力できることはするべきだぜ」
魔理沙はパープルに笑いかける。
「…わかりました、ではお手並み拝見といきましょう」
パープルは押し問答するのは避けた。
友好を言われたら、断りづらい。
『えっと、コンピューター』
『はい、ご要望をどうぞ』
「えへへ、これ、一辺やってみたかったんだ」
魔理沙はヘラヘラしながら、
「エノク語については調べたことがある。あれは実際には人工言語だ。英語の構造を基準にして解読可能だ」
『わかりました』
コンピューターは魔理沙の言う事を実践した。
「エノク語に携わったのは、ジョン・デイーとエドワード・ケリーだが、この二人はイギリス人だ。心霊術と称して大天使ウリエルと交感したってことになってる。その際に大天使ウリエルの話した言葉って触れ込みだけど、こういうのは典型的な詐欺師の手口でね。でも、英語を元に人工言語を作ったのは才能かな。文字がアルファベットに対応しているはずだ」
コンピューターが作業に入っても、魔理沙はペラペラとしゃべり続けている。
コンピューターは魔理沙の示唆により、暗号解読の手法が適用されると気付いた。
コンピューターの得意技に演算がある。
簡単にいうと総当たりだ。
英語の構造を念頭に置いて、使用される文字の頻度を調べてゆき、一定の法則を見いだしてゆく。
そして、エノク文字をアルファベットへ変換する。
『解読できました』
コンピューターは言った。
「オーケー、訳文を披露してくれ」
『はい』
コンピューターは機械らしく抑揚のない口調で訳文を朗読した。
『彼の国は、われらの神とその救世主との国となる。神は世々限りなく支配なさるであろう』
沈黙。
もはや宴会の雰囲気は消し飛び、静けさがホールに充満していた。
「これは聞いたことがあります」
静寂を破ったのは、紅魔館のメイド十六夜咲夜だ。
「黙示録の言葉に似てますね」
「当たり」
魔理沙はパチンと指を鳴らす。
「でも、ここで一つ疑問が生まれる」
「ああ、なぜ黙示録の言葉なのか、という事ですね」
地霊殿の主、古明地さとりが言った。
「そう」
魔理沙はそこで一同を見回した。
幾つかの勢力の者が目を逸らしたり、不自然に俯いたりしているのが見えた。
「……まあ、私にできるのはここまでかな」
「うーむ、やるなぁ」
パープルは唸った。
「ご協力感謝します」
パープルが謝辞を述べると、
「エノク語を使うってことは、普通に考えて、天使よね」
レミリア・スカーレットが言った。
「そうなりますね」
パープルはうなずく。
「だが、有史以来、エノク語なんてものはジョン・デイー達しか扱ってない。エノキアンマジックってのも存在するけど、あれはエノク語のネームバリューに便乗したもんだしな」
魔理沙がすぐに否定した。
「魔女のくせに、随分と論理的ね」
青娥がくすりと笑った。
「魔法は科学とは別の体系を持つだけで論理だよ」
場の雰囲気が大分和らいできて、一同雑談を始めている。
パープルはどうすべきか迷った。
ここでお開きにするか、続けるか。
「申し訳ありませんが、宴会はここで終了とさせて頂きます」
迷った末にいったんお開きにする事にした。
「お、なか締めってヤツね」
レミリアが言った。
テンションが上がってる。
「相変わらずのアジア好きですね」
さとりが冷笑してみせる。
だが、レミリアが怒ったりする様子はない。
この2人は立場が似てるせいか意外と仲がいい。
「なか締め?」
パープルは面食らった。
西洋文化の中で暮らしてきた彼女にはよく分からない風習である。
「船長、ここは私が」
ムラサがさっとフォローに入った。
「皆さん、お手を拝借」
三本締めで締めた。
*
宴会が終わっても、皆、居残っている。
帰りたいヤツは皆無だった。
「船長、皆、火星の石板に興味津々です」
「うむ、まあ仕方ない」
船の業務を見学してもらうのも一つの交流の姿だろう。
パープルはそう続けた。
「私達は見学と洒落込みますよ」
と、やって来たのは『清く正しい』という胡散臭い触れ込みの射命丸文である。
「射命丸さんよ、あんたはなんか知ってるはずだ」
ムラサは射命丸を見た。
「妖怪の山で会った時にそんな態度だったしな」
「おや、そうでしたっけ、うふふ」
射命丸はとぼけている。
「そんなことより!」
「くっ…この天狗、強引に話題を変えるつもりか!」
ムラサはなんか変なノリに入り込んでいる。
「最近、詩を作るのに凝ってまして」
「私にそんなもん分かるわけないだろ」
ムラサは自慢じゃないが、教育など寺の修行以外では受けたことなどない。
基本的に脳筋なので、詩歌などといった風流なものは理解の外だった。
「まあ、聞いてください」
射命丸はムラサの反応は無視して言った。
春芽開長
夏葉茂青
秋実豊紅
冬枯衰閑
「ふーむ、四季の移り変わりを表現したものですか…」
ひょっこりとおかっぱ頭の少女が顔を出す。
稗田阿邱だ。
「ぶっちゃけ平凡な作ですね」
「むむっ」
射命丸は唸った。
「なら、どう作ればいいと言うんです?」
「では、お手本を作ってみせましょう」
春芽長青
夏葉茂面
秋実結堅
冬枯都衰
「こんな風にすれば字や音が揃ってきて、より面白味のある詩になりますよ」
阿邱はさらっと改変。
「むぐぅ…た、確かに」
射命丸はかなりショックを受けたようで、冷や汗をかきながらガタガタと震え出している。
「さ、さすがは、ひ、稗田家当主ですね」
「いえいえ、このようなことはなんでもありません」
阿邱は言葉は謙遜していたが、表情は嬉しさが弾けていた。
(ぷ、吹き出してしまいそうだ)
ムラサは笑いを堪えて、その様子を見ていた。




