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アンフィビア商工連合は交換のために監査人、会計人を派遣してきた。
彼らの技術では亜空間トンネル転送が可能だ。
テレポッドという専用装置で、彼らの勢力圏内から辺境の地までやってきた。
監査人は不正がないかをチェックする。
会計人は相手に渡すものと相手が提示するものがしっかり釣り合うかを計算する役目を負っている。
『監査人のシジン・ピンです』
『会計人のウェンジャ・バオです』
新たに到着した二人は、やはり礼儀正しかった。
『ピンと呼んで下さい』
『バオと呼んで下さい』
ムラサには実際、誰が誰だか見分けがつかない。
それは彼らも分かっているので、服に赤・青・白・黒の四色のバッジを着けて区別できるようにしていた。
「あー、四神ってヤツだね」
ムラサが言うと、
『おお、分かりますか!さすがですな!そもそも四神というのは…』
ピンが興奮気味に捲し立てる。
(コイツらヲタク…?)
ムラサは営業スマイルで受け流しつつ、ブリーフィングルームへ案内してゆく。
「これ、犯人入れ替わりのトリックじゃないウサよな?」
「推理小説かよ!」
てゐとムラサが冗談めかして言ったが、
『なんですかそれは?』
タオはきょとんとしている。
他の三人も同様だった。
「え、まさか…」
「推理小説がないウサ?」
『そのような単語は聞いたことがありません。それはどのようなものですか?』
ミンが説明を求める。
「えっと、推理小説というのは…」
てゐが簡単に説明する。
『なんと!殺人事件の話ですか!?』
ピンが驚きを露にする。
悪趣味だと思ってるのかもしれない。
「そうだけど、殺人が焦点じゃないウサ。重きを置くのはロジックの方ウサ」
てゐは続けて説明をする。
『ふむ、なるほど』
『謎解きが主眼という訳か』
『題材が殺人というだけで』
『緊張感があるな』
四人はある程度理解したようだった。
「なんか四人がしゃべると戦隊ものみたいだな」
「シッ、やめるウサ!」
ムラサの口をてゐが塞ごうとしたが、時既に遅し、
『なんですか、それ?』
タオが興味津々で聞いてきた。
という経緯があって、フログ商会側の欲しいものリストにまた2つ追加されたのだった。
*
星間連盟から外交官と監査会計士が派遣されてきた。
古代中国の書籍を持参してきた。
すべてパープルの注文通り、博物館クラスの値打ちものである。
会議が始まった。
お互いの提供できるものを提示し、それに対して交換して良いと思うものを話し合う。
連盟側が提示したもの、古代中国の書籍群、携帯用VR体験器、推理小説、戦隊ものの記録媒体に対して、フログ商会と会計人は亜空間トンネル通信及び転送技術が相応しいという判断を出した。
それとフログ商会がもってる星図と連盟がもってる星図を交換する。
商売人だけあって、亜空間トンネル式ジャンプ技術でもっと価値のあるものを釣り出したいのだろう。
連盟側は今回は選り好みできる余地はない。
外交官と監査会計士、エイラクマルの代表であるパープルとイズマックは同意することにした。
『つきましては貴連盟とは基本売買契約を結びたく思いますが、異存はありますでしょうか?』
バオが言ったが、
「もちろん異存はありません」
外交官は揉み手するかのような勢いで答える。
「末永くお付き合いできたら幸いですなぁ」
『こちらも同じ考えです』
ピンがケロケロと鳴く。
笑い声なのかもしれなかった。
始終こんな雰囲気で進み、会議は滞りなく終わった。
*
「くそー、退屈だぜぇ」
ムラサは船長の代わりにブリッジに残っている。
まるで留守番だ。
「ああいう肩肘はった会議こそ退屈ウサよ」
てゐはイズマック少佐の代理でブリッジにきている。
「そうだよねー」
アズマがうなずいた。
「ラボで分析してるのが一番楽しいよ」
「それはそれで気持ち悪いよ」
アズマが大袈裟に言う。
「みんな、ムダ口言ってないで作業をしろよ」
ハープがたしなめる。
定期巡回の途中で船を停めている。
会議中は船を動かさないことになっていた。
ムラサ達は、冥王星、海王星、天王星の調査データをチェックしている。
何もないのが分かっていて見るデータは、ただただ辛いだけだ。
ムラサは「この手の仕事は自分に向いてない」とつくづく思った。
会議が終わってすぐ、フログ商会から亜空間トンネル通信及び転送技術の設置について説明するとの連絡があり、技術職の隊員がみな召集された。
船長が戻ってきたので、ムラサは入れ替わりに説明会に行った。
呼ばれてないから立ち見の見学だ。
要するに野次馬である。
その前を見覚えのあるツナギ姿のツインテ娘が通りすぎようとする。
「あり、ニトリじゃんか」
「あ、ムラサさん、お久しぶり」
ニトリは会釈した。
「アルバイトだっけ?」
「いや、今は入隊して機関部見習いだよ」
「へー、機械好きだな」
「今、時代は宇宙船だよ!」
ニトリはスパナ片手に力説した。
「ふーん」
「いや、もっとリアクションして」
エイラクマルの乗組員には下士官がほとんどいなかった。
軍の方針で、下士官は現地採用するように考えているのだった。
ニトリのように士官学校を出てない者も積極的に隊員として迎え入れているのだ。
任務を能力のある士官にやらせ、同時に現地採用の隊員を使えるように教育する。
ムラサが副長に抜擢されたのと同じ理由で、使える隊員が増えてきたら、外の世界から送り込む隊員は最低限の人数まで減らすつもりである。
説明が始まった。
ムラサにはちんぷんかんぷんだったが、簡単に言うと
専用のトンネルを用意
その中に水を流す
船を浮かべる
船が流れてトンネルの先まで行く
という理屈らしかった。
「アカン、さっぱり分からん」
ムラサは理解をあきらめたが、
「亜空間にトンネルを固定する技術スゲー!」
ニトリはワクワクテカテカしている。
「早く実機見てぇ!」
「おいおい、ムラサ中尉は何しに来たんだ?」
気づくとイズマックが隣にいた。
「はあ、自分には難解な分野であります」
ムラサは頭痛を堪えて言った。
「だったらブリッジに戻っていたまえ、野次馬など非論理的だ」
「了解、失礼します」
ムラサはさっと敬礼してブリッジへ戻った。
*
「遅かったな」
ムラサがブリッジに入ると船長のパープルが待っていた。
「亜空間トンネル通信・転送の設置作業の間に航行計画を決めるぞ」
よほど待ちかねたのか、席に座らず突っ立っている。
「あ、はい」
ムラサは自分の席につこうとして、
「あれ、アズマが座ってるんだけど…」
「そこじゃない、船長席に座れ」
「えっ…?!」
「今から副長が船長代理で航行計画を決める。皆、協力するように」
パープルがブリッジ全体を見回しながら言った。
「うわ、いきなりですか?」
「上官が敵性種族との戦闘に巻き込まれて死んでしまい、急遽船の指揮を取らざるを得なくなる場合だってあるんだぞ」
パープルは言った。
「実際、この手の事例はごまんとある。それに比べたら全然マシだ」
「はあ…」
「私も手伝うから大丈夫」
「了解」
ムラサは恐る恐る船長席に座った。
「コンピューター、現在地から1番近い距離にある生命がいそうな星は?」
『プロキシマ・ケンタウリbです。この星は地球から約4.2光年の距離です』
「オーケー、目的地はプロキシマ・ケンタウリb」
『了解しました』
「どれくらいの時間がかかる?」
『ワープ6で、約4日かかります』
「ちょっと待った」
パープルが言った。
「宇宙はハイウェイじゃないんだ、星図を見るべきだ」
「あ、そうですね」
ムラサはうなずいて、
「コンピューター、連盟の星図とフログ商会の星図を出してくれ」
『分かりました』
コンピューターがすぐに二つの星図を出す。
「うんっと、星図を比較するといいんでしたっけ?」
「私の顔色を伺うな」
パープルはピシャリと言った。
「分からない事はクルーに聞け。だが、決めるのはムラサ、お前だ」
「あ、はい」
ムラサはちょっと戸惑ったようだが、
「コンピューター、連盟の星図を複製してくれ」
『分かりました』
すぐに指示を飛ばし始める。
連盟の星図を複製し、その上にフログ商会の星図を重ねて違いがある箇所を上書きさせる。
「船長、星図について他にやった方が良い事は?」
「星図が完璧とは限らない、実際の星の動きから誤差が見つかるかもしれない」
パープルは答えた。
「なるほど、精度がもっと上がる可能性があるんですね」
ムラサはうなずいた。
パープルが言った事はあくまでもアドバイスだ。
パープルの指揮能力とその経験値はムラサより高い。
が、吟味して決めるのはムラサだ。
「アズマ、天体観測データはあるか?」
「データはあります、副長」
「そのデータをコンピューターにインストールしてくれ」
「了解」
アズマはコンソールを操作した。
「コンピューター、天体観測によるデータを元に星々の運行をシミュレート可能か?」
『若干の時間はかかりますが、可能です』
「やってくれ」
ムラサはGOサインを出した。
コンピューターが星々の運行をシミュレートした。
モニターにそのグラフィックが映し出される。
「シミュレートの結果と星図の誤差はあるか?」
『誤差は存在します。運行による比較なので主に重力偏差の誤差です』
「その誤差を星図に上書きしてくれ」
『分かりました』
コンピューターが星図を更に上書きする。
これにより、今まで記されてなかった重力分布が明確になる。
ジャンプドライブで注意すべき点に重力がある。
具体的にはブラックホールだ。
一般にはブラックホールは寿命が尽きた星が自重で押し潰されてできるが、宇宙が誕生する時に起きるインフレーションでも発生すると言われている。
この場合は小さなブラックホールができる可能性がある。
マイクロブラックホールは観測しにくいが、天体の動きに影響を与える事が多い。
従って天体が不自然な動きをする場合はマイクロブラックホールなどの強い重力を持つ存在が疑われる。
もちろんそんなものの近くは通らない方が良い。
「よし」
ムラサはうなずき、
「コンピューター、現在地からプロキシマケンタウリbまでのコースを出してくれ。重力分布を考慮して最短コースを頼む」
『しばらくお待ち下さい』
コンピューターは演算に入った。
『お待たせしました』
星図の上にコースが示される。
重力が極端に大きい箇所は避け、何もない所はジャンプ係数を高く、星の多い所や重力の大きいところはジャンプ係数を低めに設定してある。
「全行程で約7日か、これで行こう」
ムラサは航行計画を決めた。
「なかなかやるじゃないか」
パープルは笑っていた。




