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67 味わったことが無い程

空が明るんでくる時間になるまで、ひたすら防御特訓を行っていた私。



途中で【体術】がレベル5を超えた事で、アシストが強くなったおかげか踏み込むタイミングに補正がかかったり、体のブレが少なくなってより洗練された動きになってきた印象。


そして動きに無駄が無くなってくると多少余裕が生まれて来て、視野が広がるような、感覚が鋭敏になってくるような感覚が次第に訪れて来た。


またしてもゾーンに入ったかな?なんて思ってたけど、【気配察知】がレベルアップしてただけっぽい。

レベル5にはまだ届いていないから、何となく感覚が鋭くなっただけの印象だったけど、それでも効果は高いと思う。


レベルアップのアナウンスには気付かなかったから、思い返してみれば・・・って感じだけど。



っていうか、【長剣術】と【回避】もレベルアップしてたから、正直確証は無いのよな。

何がどう作用してやりやすくなったのか今となっては不明。


まぁ、スキルが成長したのは間違い無いから良いんだ。

私に検証とか求めちゃいけない。



そうそう、最後の最後でスキル【動体視力】が手に入ったのは素直に嬉しかった。

視力関係か反射関係のスキルは取得したいなぁと思ってたから。



ただちょっと不思議な感覚だったかな。

振り子が降ってくる瞬間、ほんの一瞬だけスローモーションになるような感じだったと思う。

ほんの刹那だから確実ではないけれど。


もしかしたら、本当に動体視力に優れている人はそう見えているのかな?

ボクサーの人とかは相手のパンチを目で追えたりとか、プロ野球選手とかもインパクトの瞬間までボールを追えるって言うもんね。


それを疑似体験出来ているんだとすれば、やっぱこのゲーム凄いよ。


今はこのファンタジー世界が楽しくてしょうがないけど、いつかこのゲーム制作会社にはスポーツ系のゲームとかも出してくれたら、なんて期待もしちゃうね。


『パワ〇ロ』とコラボとかしてくれないかな。

サクセスとかマイライフとかのモードやったら楽しそうだ。






あまりここでゆっくりしていると、ノーランさんの出勤時間になってしまうかもしれないので一旦退散。

不意に出くわして、強制シークレットクエスト行きの可能性も無くは無いからね。基本は受けるも受けないも選択肢はこちらにあるとは思うけれど。



ギルドの大広間まで行って軽くクエスト確認。

朝一に張り出されている街中クエストは、昼に比べて短時間で終わるものが多く報酬も安め。

家畜の世話の手伝いだったり、簡単な配達業務だったり、農作物の収穫のお手伝いだったり。


これらのクエストを吟味しているのは主に大人の冒険者ではなく、10代前半から半ばくらいの少年少女が多い。いわゆる冒険者ランクGの小遣い稼ぎをメインとしている層だろう。


もちろんプレイヤーがこれらのクエストを受ける事は可能で、彼等の仕事を奪ったなどと非難されることは無いっぽい。

何故なら、需要が多すぎて人員の供給が足りていないから。


そもそも、大量のプレイヤーが訪れる設定の街で、最初から人材が豊富だったら即バランス崩壊してしまうよね。

基本的にいつだってどの業種だって人材不足でお悩みだ。


なので、初期に比べてプレイヤー達が受付嬢の笑顔目当てに街中クエストを精力的にこなすようになっても、いつだってクエストを受けてくれる冒険者はウェルカム体勢。



という設定。



実際は街中クエストでプレイヤー同士がバッティングしても個人フィールドに移るらしい。

上限はあるみたいだけど、複数人が同じタイミングでクエストを受けても知らない人と一緒に作業、なんて事にはならないんだとか。


ただ、クエストを受ける際に他にもプレイヤーが居ると同じフィールドで作業するかどうか設定で選べるみたいで、他人と一緒にコミュニケーション取りつつ作業したい人はそのままオープンフィールドで、個人で集中したい人・現地住人とだけ関わりたい人は個人フィールドで、とそれぞれ目的に合った設定が可能なんだとか。



メニューのヘルプ見るまで全然知らなかったけどね!

ずっとひたすら人材不足なんだと思ってたよ!だってギルドの職員さんがそう言ってたから。





しかしそうなると、私の場合は個人フィールド一択かな。

会話を続けられる気もしないし。



そんな訳で、少年少女が吟味している街中クエストを私も何か受けようかな?と眺めている現在。


見ていると、どうやら彼等の中での好みなのか報酬基準なのか、やたら人気のあるクエストと人気の無いクエストがあるっぽい。


人気があるのは報酬が出来高制の配達業務とか、時間が短い近所の人の買い出し代行とか。

逆に人気がないのは報酬が一定でイマイチな家畜の世話とか、収穫の手伝いとか。



防具を買って多少手持ちの金額が減ったとはいえ、まだまだ余裕もあるしどうせなら人気が無いクエストを消化しておこうかな?他のプレイヤーとバッティングする可能性も低そうだし。



そう思って選んだのは、牛や羊の世話を手伝って欲しいというクエスト。

受付嬢曰く、業務は牛の乳搾りや散策させている羊を囲いの中まで誘導するというもの。

今の時期だと羊の毛刈りも多少あるかも、との事。


人生で一回で良いから乳搾りってやってみたかったから丁度良い。

羊の毛刈りはちょっと想像付かないけど。バリカンみたいなのでヴィーンってやるのかな?


日本在住の超インドア派の私としては、そもそも羊自体を肉眼では見た事ないのよな。動物園とかも行った事無いし。どちらかといえば海に近いエリアが地元だから、水族館は行った事あるんだけどね。

ちなみに牛はたまにテレビとかの観光特集とかで、乳搾り体験の紹介やら何やらで見た事ある。


絞りたての牛乳試飲とか、バター作りとか、ああいうの体験してみたかったんだよね。

あくまでも今回はお手伝いだから、出来ないかもしれないけど。




朝一の何となく空気が浄化されているような、清々しいような、そんな空気感の中向かっているのは、街の南西。

そこにちょっとした牧場地帯がある。


牧場と言えば、だだっ広い草原とかのイメージだけど、ここは外に出ると魔物がいる世界。

牧場や農園もしっかり街の中に存在してる。




牧場の近くまで来ると、人とは違う動物の鳴き声やら独特な足音やらが聞こえてきた。

一番響き渡っているのは鶏らしき鳥の声かな。


人の喧騒とは違って、あまりうるさく感じないのは何でなんだろうね。






「こんにちはー!冒険者ギルドから来ましたー!どなたかいらっしゃいますかー!?」


玄関をノックしても返事が無いので、とりあえず大声で呼んでみるチャレンジ。

すると、すぐに返事が帰って来た。



「おーう!こっちだー!裏側に回ってきてくれ!今手が離せないんだー!」


声がする方へ向かうと、どうやら羊の足を抱えて爪切り?蹄切り?をしている男性の姿が。

まるでテディベアのように座らされている羊は、近くで見ると中々の重量感。

既に毛刈りを終えた後なのか、全くモコモコはしていないけれど想像していたよりもずっと大きい。


デデンッと座って、大人しくされるがままの姿は少し可愛らしいけれど。



バチンッと結構大きめの音を鳴らしながら、鋏っぽい道具で羊の蹄を切っていた男性がどうやら作業を終えたらしく、重量感のある羊を簡単に軽く持ち上げながら体勢を整えて上げているのを見て、思わず彼の二の腕の太さを確認してしまい、ちょっと衝撃。


たぶん顔から判断するに50代か60代くらいに思えたんだけど・・・。

体の筋肉量と皺が刻まれた顔とでギャップが凄まじい・・・。


最近ちょっと筋骨隆々な男性と関わることが多くて、地味に胃もたれ気味です。




「ほらっ、終わったぞ。あっちでご飯食べておいで!――っと、お待たせ。ギルドの依頼受けてくれた人だって?俺はハワード、主に牛と羊の畜産農家をやってる」


「始めまして、冒険者で異人のカケルです。家畜の世話は全くの未経験なので、出来ればご指示を頂けると有難いです」


「心配ないさ、ほとんどのヤツが未経験だからな。この前来た異人さんなんて無駄に大声出したり、力込め過ぎたりして、牛が怒って突進かまされたりで中々騒がしかったしな。基本的に冒険者達は一度は家畜たちを怒らせる人種だよ。・・・これじゃフォローになんねぇか?すまん、すまん」



うん、不安が増しました・・・。

だ、大丈夫かな?実家の犬でさえ、まともにお世話はした事ないんだけど・・・。寄ってきたら少し撫でるくらいで・・・。



「と、とりあえず簡単なお仕事からお願いします・・・」


「おう、わかった。そんなに不安になんなくても大丈夫だよ。ウチのは基本的にかなり気性が穏やかな子ばかりだし、多少機嫌を損ねても怪我する程危ない事にはならんさ。あいつらもしっかり手加減するからな。ま、一応助言するなら、いきなり大声を出さない事と力任せに扱ったりしない事だな」


「・・・なるほど。分かりました、出来るだけ刺激しないようにすれば良いんですね」



大声は出さない。

力任せで行動しない。


何度か心の中でリピートする私。



「そしたら最初は・・・牛舎の掃除からお願いしようかな。今は全員散歩に出してるから中は空っぽだ。床に敷いてある藁を取り除いて、新しい物と交換して欲しいんだ」


「分かりました。道具はこちらのものを使用しても?」


「おう、あとこの布で鼻と口を覆いな。慣れてねぇと結構匂いがキツイぞ。あとは・・・あ、古い藁はあそこに溜めといてくれ。後々腐葉土作りで使うからな」


「はい、わかりました」


「そんじゃよろしく!俺はさっきの所で作業してるから、何かあったら呼んでくれ」



さてさて、それではお仕事しますか。

手に持つのはいわゆるピッチフォークと呼ばれる道具。


アメリカ映画とかで見た事あったけど実物を持つのは初めてで、何となくテンションが上がる私。




・・・テンション上がり過ぎて、布をマスクにするのを忘れました。

想像だにしていなかった悪臭に咄嗟に腕で鼻を覆ったけれど、時すでに遅し。


急いで牛舎から飛び出したものの、思わず嗚咽が・・・。



これは・・・きっついわ。

流石に嘔吐するまではいかなかったけれど、喉元まできたかも・・・。



無駄に上がったテンションが最底辺まで落ちたよ。

人生で今まで味わったことが無いほどの悪臭だった。何の匂いだったのか判別する前に体が拒絶する感じ。

いや、原因は分かり切ってはいるんだけどね。



牛舎から離れた所で深呼吸を繰り返して何とか落ち着かせる。

少し落ち着いたところで、しっかり布を顔に巻き、代用マスクに。



今一度、覚悟を決めて牛舎の中へと一歩踏み出す。




・・・あれ?

さっきまでと違って全く匂いがしない・・・?


試しにしばらく中心付近でうろうろしてみても全然大丈夫だ。

たった布一枚でこんなにも匂いを遮断出来るわけがないのに・・・?



不思議に思ったものの、問題が無いのならとっとと作業を進めてしまおう。

そう思い直して、無駄にしてしまった時間を取り戻すように急ピッチで掃除をしていく私。


ピッチフォークと一輪車(手押し車)を使って、大まかに藁を取り除いた後は箒で細かいものを。

そこまで難しい作業という訳でも無く、牛舎自体も巨大とはいえない広さなのでサクサクと作業が進む。


古い藁は全て取り除き終えて、腐葉土作りの場所にも運び終えた。

新しい藁を入れる為に、牛舎から出て山のように積み上げられた場所からせっせと一輪車に藁を積んでいく。

運んだ藁をそれぞれ半個室になっている場所へ均一になるように敷き詰める作業。


この繰り返し。




多少時間は掛かってしまったけれど(途中で何回か一輪車をひっくり返してしまった)何とかすべての部屋に藁を敷き詰め終わった。


いやー、一輪車で運ぶの難しいね。

てっきり腕の力だけで簡単に運べるものかと思ってたけど、かなり全身運動だった。

最初は平気だったけど、後半の新しい藁を運ぶ段階になると急にバランスが崩れたりしてしまって・・・。


ピッチフォークも腕の力だけじゃキツイから、思っていたよりもかなり下半身を使ったし。



両腕よりも両足のほうがずっとプルプルしちゃってるや。




指示されていた作業を終えたので、終了報告をしようと先程の場所へ向かいつつ、鼻と口を覆っていた布を取り外す。


ふと、そういえば何で匂いがしなくなったんだろう?と疑問に思って、【道具鑑定】をしてみる。






・・・これ、魔道具じゃんか!!!



正確には付与魔術が施された道具だった。

効果は『消臭』『防臭』『除菌』『収縮』。


現代のマスクとかより遥に高性能じゃないですか・・・。


匂いも菌も通さず、圧迫しないとか。




急に現代よりもハイスペックなもの登場させるとか・・・。



ファンタジーって良いな!!!!(情緒不安定







――――――――――――

スキル

増:【動体視力 Lv1】



お読み頂き有難うございます。

誤字脱字報告受け付けております。是非ご指摘ください。


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ご協力お願い致します。



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