59 女将さんの裏の顔
誤字脱字報告のご協力ありがとうございます!!助かります!
あぁー、人が作ってくれた食事って本当に美味しく感じるなぁ・・・。
こう・・・何ていうんだろ?温かみが違うよね、自分で用意した時と。
場所の関係もあるんだろうけどさ。
〈まんぷく亭〉はいつだって活気に満ち溢れて、女将さんの笑い声とかお客さん達の談笑とか、元気な厨房の声とかでとても温かい雰囲気が流れてる。
普段、1人っきりで食事する事に慣れている人は、ここで食事する事をおすすめします。
絶対いつもより美味しく感じるよ。断言する。
食べ〇グに載っていないのが不思議でしょうがないよ。
いや、もちろんここがゲームで現実じゃない事くらい理解しているけども・・・。
ちょっと、ここを知らないっていうのはもったいないなって思っちゃうのは、やっぱりしょうがないと思うんだ。
ちなみに今日のメニューは兎肉のシチュー煮込み。
何となく勝手なイメージで、火をしっかり通した兎肉は固くなるんじゃないかなんて思ってたけど全然だった。
少し固めのパンと一緒に美味しく頂きましたよ。
なんか地味にゲームの影響でご飯よりもパン派になりそう。
最後にお皿に残ったシチューをパンで拭うようにして、一滴も残さずに綺麗に完食。
ごちそうさまでした。
「おや、随分とまた綺麗に食べたねぇ。こっちも提供し甲斐があるってもんだよ」
「―女将さん。今日も美味しかったです、とても」
「嬉しい事言ってくれるじゃないか。――そういや、アンタこの間薬師ギルドの危機を救ったんだって?助かったよ、商人達もピリピリしてて、ちょっと雰囲気悪くなりかけてたからさ。こっちでも人手は募っていたんだけど、如何せん荒事にしか向いていないヤツばっかりしか集められなくてねぇ」
「危機を救ったと言うほどでは・・・。多少はレアさん達の負担を減らせたとは思いますけども」
実際レアさんめっちゃ仕事早かったしね。終わってみてから思う。本当に手助けが必要だったんだろうか・・・?
「あっはっはっ!そんな謙遜するもんじゃないよ!アンタは知らなかったんだろうけど、あの子は良くも悪くも周りをよく見る子だからねぇ。周辺にいるやつらに自分のペースを合わせちまうんだよ、無意識にらしいけどね。だから、今回の回復薬納品はアンタが居なかったらかなりギリギリか、もしくは間に合わない可能性のほうが高かったんだよ?今あの子に付いてる3人は、スピードよりも品質重視だって聞いてるしさ」
・・・ちょっと気持ち分かるかも。
昔やってたキッチンの仕事で私もそんな感じだったから。
あれって不思議で、どんだけ忙しくて早く仕上げなきゃならなくても、自分ひとりで作っていると最速では行動出来ないのよな・・・。
代わりに一緒になって作っている人が素早く仕上げていると、自分も釣られて普段よりもスピードが上がるんだよね。
そして反対に、自分よりも仕事が遅い人と一緒だといつもよりスローになってしまうんだけど・・・。
あれって何でなんだろうね?
意識はいつだって急いでいるのに、全く体がついてこないんだよねぇ。
そうなると、レアさんと私は同じタイプの人間ということか。
っていうか、あれか。
クエスト的には、プレイヤーがポーションをどれだけ作成したかで成功か失敗か分かれるタイプだったって事か。
きっと設定よりも多く作れば、今回の成功みたいな感じで、設定ギリギリなら納品もギリギリ、少なければ失敗みたいな?
そうなると失敗していたら一体どんな事になっていたんだか・・・?
少なくとも、お店でポーションが手に入らなくなっていたのかな?それとも他の街から流通させる代わりに値段が高くなっていたとか・・・?
あぁ有り得そうだな。それなら多少商人達が関わってきたのも理解できる。
流通を司っているのは商人だもんね。
「そういえば商人の・・・ガスパーさん?でしたっけ、彼が薬師ギルドに来てひと悶着ありましたけど・・・。あれからギルド長に帯を締め直されたとか。今はブランドンさん達との軋轢は解決に向かっているんですよね?」
「あぁ、あの可哀想な子かい?今はイチからきっちり教育しなおされてるからね。地頭は良いんだ、この国での立ち回りさえしっかり学べば問題は無くなるだろうよ。スミス兄弟を始め、各職人達にギルド長と共に謝罪行脚してからは、もう商人と職人の間に小競り合いすら無くなったよ。――ギルド長がこの街に専念出来るようになったのが大きいけどさ」
「・・・商人ギルドの長はそんなに有能な人なので?」
「そうだねぇ、交易都市と王都で商人ギルドの幹部を掛け持ちしていたくらいだからねぇ?あのまま王都に近い所で過ごしていたら、お貴族様よりも資金力を持って、一部バランスが崩れるんじゃないかって言われていたくらいには有能だよ。まぁ本人的にはとっとと庶民向けの商店をメインとした商会に専念したかったみたいなんだけどね」
「それはまた・・・超一流の商人なのですね。それで、この街のギルド長になったのは、ご本人の意向という事なんですか?」
「そうさね。周りに引きとめられて仕方なく、長い間あっちで幹部として居たみたいだけど、ほら、アンタ達異人さんが来るってお告げが来たからさ。それをきっかけに無理矢理ワンドルに移動してきたんだよ。それでもしばらくは引継ぎであっちと行ったり来たりしてたけど、最近やっとその面倒から解放されたようだね」
何となく・・・逆らっちゃいけない人な印象。
少なくとも実力者なのは確定だわな。女将さんは好印象を抱いているみたいだし。根拠は無いけど、女将さんは人を見る眼が凄そうだし。
いや、元々敵対する気なんてさらさら無いんだけどね。
「ちなみに先程のガスパーさんが『可哀想』というのは?帝国の価値観を植え付けられていた事が原因ですか?」
「アンタも知っていたのかい。そうだよ、帝国は昔から階級支配が厳しい事で有名でさ。争い事も絶えない地域にあるから、何よりも規律と支配が重要らしいんだよ。それは貴族だけじゃなく庶民にも。もちろん商人にもね。あの子・・・ガスパーは生まれはこの街だったんだよ。でも10歳にも満たない頃に帝国へ移住する事になってね、商人としての基礎は全て帝国で培ったものだから王国とは考え方は正反対と言っても過言じゃない。それを考慮すると、あの子はただ可哀想な子なんだよ」
ただ教わった環境とそれを発揮する場所がことごとく合わなかっただけなんだよ。そう言う女将さん。
そうは言っても、ウィリアムさんをありもしない偏見で追いつめて、エイダン君に悲しい思いをさせた事はまた別のような気もするけど。
あぁでもあれか。帝国では支配するのが常識なら、あえて追いつめて自分に依存させるっていうのも手段なのか・・・?
もしかしてレアさんにもそのつもりだったのかな?だからワザと人材や素材を派遣しなかった?
考えすぎかもだけど。
「あ、そういえばレアさんはガスパーさんと古くからの付き合いだって言ってましたね。幼馴染だったって事ですか。あれ?でもレアさんとブランドンさん達も幼馴染ですよね?全員お知り合いだったんですか」
「いんや、ガスパーはスミス兄弟を知らないよ。レアがあの薬師婆さんに弟子入りしたのは、ガスパーが引っ越した後だからね。ガスパーからすれば自分の幼馴染――多少の好意を持っていた相手のレアに、知らない間に他の男が近くに居る事が気に障ったんだろうね。他の職人達に比べてかなり態度が悪かったってのはこの間、聞いたよ」
「・・・やっぱりガスパーさんって、レアさんに好意を抱いていたんですね・・・」
「なんだい、アンタも気付いていたのかい?結構恋愛面にも敏感なんだね?」
「というより、何故か初対面で彼に牽制されたので・・・。さすがに気付きますよ」
モテる友人を持っているから余計にね!
男性の嫉妬、羨望、牽制、これらの視線はしょっちゅう浴びてたよ・・・。
そしてガスパーさん、ウィリアムさんへの態度は8割嫉妬だな。
本来はブランドンさんに向かわせるべき感情だったんだろうけど、実力や人望もありそうな彼には難しいと判断したのかな。
代わりに、孤立気味だったウィリアムさんへと八つ当たりも含めて当たっていた説。
きっと当たらずとも遠からずだろうな。
まぁ、現状に問題がもう無いならいっか。
私は当事者って訳でもないから、これ以上は首を突っ込むべきでもないだろう。
「それで?他に聞きたい事は?」
「・・・そうですね。では、最後に1つ。やっぱり女将さんて、そういう方なんです?」
「――やっぱり気付いてたのかい。そうさね、アタシは主に冒険者を相手にした情報屋ってやつだね。モグリじゃなくギルド直轄のさ。もちろんこの食堂の女将も本当に営んでるけどね?」
「以前、女将さんは冒険者ギルドの相談役だと聞いていましたし、何かしら裏の顔があるんだろうなーとは思っていましたけど・・・。今日これだけ色々と教えてくれたので、もしかしてと思っただけなんですよ」
ゲームのRPG系とかだと必ずいるよね、情報屋って。
街の顔役だから色々と詳しいのかなって、あんまり疑問には思っていなかったけれど。
今日は多少説明めいた話が多かったから、『これは・・・』って思っただけなんだけどさ。
「まぁ絶対に隠さなきゃいけないモンではないんだよ。知ってるヤツらは知ってるさ。でもこんだけ早くバレたのは初めてだね。アンタ、よく人を見てるよ」
こればっかりは私が昔から持っているリアルスキルというべきか。
自分の表情筋が仕事をしていないと気付いてからは、他人の表情もよく読むようになったから。
ついでにどんな表情が他人に安心感を与えるのか学びたくて、多少心理学にも手出したからね。
おかげで友人達にエスパー扱いされてイジられたけど。
「これだけ早く気付いたご褒美に少し使える情報を教えてあげるよ。スキルに【人物観察】ってのがある。これは他人の感情を色で判別できるようになるスキルだよ。最初はなんとなく色づいて見えるくらいだけど、ある程度育てれば喜怒哀楽はハッキリ識別出来るようになる。極めれば、複雑な感情もキッチリ視えるようになるし、嘘と真実も見分けられるようになる便利なスキルだ」
「【人物観察】・・・。そういえばリストには出てましたね・・・」
「おや、珍しい。普通は商人とかお役人、アタシみたいな情報を扱うヤツがリストに出るんだけど・・・。異人さんってのは職業に関わらず取得出来るのかねぇ?」
「・・・さぁ?まだまだ私も知らないことだらけなので何とも。でも異人の特性である可能性は高そうですね」
あれ?でも待てよ?
「女将さん、ちなみに【観察】っていうスキルは【人物観察】とは違うものですか?」
「【観察】?ちょっと聞いた事ないねぇ。【スキル鑑定】は持ってないのかい?」
「う・・・残念ながら。早急に【鑑定眼】を取得して確認をしようとは思っていたんですが・・・」
「変なところで抜けてるね、アンタ。――アタシも全てのスキルを知っている訳じゃないんだよ。人から教えてもらうか書物とかで知り得ない限りは、基本的に職業に関するスキルしか知識がないってのが普通だからねぇ。悪いね、アタシには心当たりが無いよ」
「あぁ、いえ、今の所は不便も無いですし、先程申し上げた通り【鑑定眼】を手に入れる為にレベル上げ頑張ってるので、いずれ分かりますから」
「そうかい。もしかしたら、異人さん特有のスキルかもしれないし、使えるスキルだと良いね」
「・・・むしろ異人特有なんてものがあるんですか?」
「アタシも噂レベルでしか知らないけどね。この国の初代国王様は、他の誰も持っていないスキルを所有していたって話があるんだよ。それがどんなモノとかは一切聞いた事ないんだけどさ」
「なるほど。初代国王も異人だったんですもんね・・・。色んなスキルがあるんですねぇ」
そういえば【観察】を取得したのはどのタイミングだったかな?
・・・初めてシークレットクエストをクリアした時だったっけ?
それならシークレットクエスト関連に役立つスキルなのかな?
「初代国王様と違って、随分呑気な異人さんもいるみたいだしね・・・」
それは・・・私ですか・・・?
私は呑気じゃなくて、コツコツ慎重派なだけだよ?
たまにマイペースだって言われるけど。
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