54 ゲームしてるよ!
【縮地】の瞬間移動はいわゆる時空間移動っぽい印象ではない。感覚としては。
何というか、あくまで走る手段であって、限定的ではあるものの異常なほど速すぎて瞬間移動に見えるし感じるっぽい。
なので、例えばあの位置まで飛ぼうとか、あの場所に転移!とか意識しても発動はしなかった。
ちゃんと縮地走法に則って体を倒して、倒れる寸前に足が出たと思ったら既に3メートル先に居た。みたいな感じ。
そうなると、しっかりこの3メートルの感覚を体に叩き込まないとズレが発生してしまいそうかも?
相手の懐まで移動したいのに距離が足りませんでした。とか、逆に行き過ぎちゃいました。とかになりそうな予感。
ちょっと面白くなっちゃって、ひたすら人形の周りを【縮地】でうろちょろしてみるチャレンジ。
方向転換するのもまた面白くて夢中になったのはご愛嬌。
どうしても飛んだ後に2歩くらい足を付かないと、前方以外に重心移動に持って行けなくて苦労したけど。
でも十分使える技術だと思う。
ちょっとしたチェンジオブペースで余計に捉えにくくなっているんじゃないかな?
出来れば客観的な意見も欲しいけど。
今度ヘレナさんに見てもらおうかな。彼女のアドバイスに沿った技術だし、多少は興味持ってもらえそう。
散々【縮地】で遊んだけど、ちょっと気になる事が1つ。
これ3メートル先までに障害物があったらどうなるんだろうか?
スキルとして不発になるのか、途中でぶつかるのか。
さすがに透過するって事は無いと思うんだけど・・・。
一応ぶつかる可能性を考えて、藁で出来た人形の方へ移動。
痛いのは嫌だもの。
・・・痛覚はだいぶ鈍く設定されているっぽいんだけどね。それでも念の為。
剣がギリギリ届かない所から人形に向かって【縮地】を発動。
「っ!」
痛っ!?
・・・いやそんなに痛くはないか。
ぶつかった衝撃がすごいだけで不思議と痛くは無い。
最初のチュートリアルの時に、一角ウサギの突進攻撃を受けたのと同じ感じかな。
衝撃はしっかり感じるのに、何故か痛みはほとんど感じない不思議現象。
そして【縮地】はやはり物質を透過する事は無いみたい。
時空間移動では無い事も確定かな。
到着地点の前に物や人がいると、その手前でキャンセルされるっぽい。
ちょっとビビッて目をつむりながらだったから、ぶつかられた方がどんな状態になったのかは確認出来なかった・・・。
ぶつかった方の私は衝撃が強くて、ちょっとよろけちゃう感じ。
軽いスタン状態と言えば良いのかな?特に痺れたりする訳ではないけれど。
自らすごい勢いで人形にぶつかりに行くのは結構怖いんだけど、ちょっとその辺は確認しておいた方が良いか・・・。
もう一度さっきと同じ場所に立って、今度はしっかり目を開けたまま【縮地】を発動。
「っくぅ!」
訂正。
この衝撃やっぱ結構キツイかも。
さっきはビックリし過ぎて正確に把握出来ていなかったけど、来るとわかっていると体が硬直する感覚がとても気持ち悪い。
なんか眠気が究極の時のような、動かしたくても動かせない感じ。
全く体が言う事を聞かない。いっそ衝撃を受け流すように倒れ込んで受け身取ろうと思っても、ひたすら体が重く感じる。
ちなみに人形の方もちょっとビリビリはしていたので、ダメージというか衝撃は相手側にも伝わるっぽい。人形は攻撃してもダメージ数値とか出ないから、攻撃認定されているのかはちょっと不明。
・・・今度ノーランさんに協力してもらおうか?
いや、あの人のステータスなら何もダメージ入らなさそうだな。レベルが違い過ぎて。
でも、もしも相手にダメージが入るなら捨て身のタックル的な扱いも出来るか・・・?
いや、私にダメージが入らないなら相手にも効果は出ないかな?お互いスタンするくらいがいいとこ?
どちらにせよ、あんまり期待はしない方が良いか。
素直にぶつからないように練習しておくべきだな。
結局その後はひたすら【縮地】の練習。
出来るだけ狭いスペースで駆け回ったり、そのまま走り続けてみたり、途中で【瞬歩】を挟んで少しトリッキーにしてみたり。
―スキル【鍛錬】がレベルアップしました―
そして緊急事態。
空腹度が危険水域です。
スキルを使用すると空腹度の減りが早くなるっぽい。
いつもより減り方が尋常じゃない気がする。
慌てて焼き串を齧るけど、やっぱり飽きが早々に来るのでサンドウィッチっぽい方も。
ちなみに挟んであるお肉は安定の兎肉。
ちょっと肉もパンも固めなので、食べ続けるとアゴが疲れちゃう誤算。
味はまぁまぁなので、1つくらいなら全然許容範囲だけど。
ストックしておいた紅茶も残り少なくなってきたから、一度生産施設を使ってみるのもアリかなぁ。
ヘンリーさんのお屋敷(代官屋敷だけど)で採取した薬草も結局そのままだから、ポーションも作っておきたいし。
さてさて、なんだかんだともう良い時間だ。
そろそろログアウトしないと。結局訓練所だけで終わってしまったけど、個人的には大満足。非現実感をこれでもかってくらい味わえたから。
ゲームやってるぅ!って感じ。
ログアウトしてベッドから起きると、ふわりと香る甘い匂い。
これは桜子の香水か。
・・・って事はもう桜子が来ているという事じゃないか。
やっば。遅れた!
慌ててリビングへ向かう私。
慌て過ぎてドアに肩をぶつけた。痛い。
現実でも痛覚を鈍くしたい所存です・・・。
肩をさすりながらリビングへ行くと、いつものエプロン姿の桜子。
「お出迎え出来なくてゴメン。いらっしゃい、桜」
「お邪魔してるわ。むしろ来た時にゲームか仕事か、どっちでもなく普通にお出迎えされたら驚いちゃうわよ?」
「・・・むぅ。たまにはちゃんとお出迎えしてる・・・はず?」
「たまたま休憩中とかならね?そんな事よりさっき、どこかぶつけてなかった?結構鈍い音したけど・・・」
「ん、大丈夫。ちょっと肩ぶつけただけ。なんか手伝う事は?」
「もう出来上がるからご飯よそってくれる?福神漬けは冷蔵庫にあるから」
「はいはい」
今日の夕飯は桜子特製のカレー。
隠し味に何を入れているのか分からないけど、桜子のカレーは甘めのご飯に良く合うタイプ。
カレーを作る日はいつも結構多めに作ってくれて、翌日もまともなご飯が約束されている、私にとってはボーナスDAY。
ちなみにカレーには福神漬け派。らっきょうは酸味が苦手。
久しぶりの桜子のカレーにテンションが上がって、ちょっとご飯を多くよそい過ぎた気もするけど、まぁ食べられるでしょう。何故なら桜子のカレーだから。
「ドレッシングは?」
「コブサラダ!」
桜子が作るサラダは私が作るのとは違って色とりどり。レタスだけで何種類使ってんの?ってくらい。
今日の気分はコブサラダドレッシングで決定。
いつもカレーだとこれ一択なんだけさ。自分でも理由はわからない。
桜子もわかってて聞いてくるけどね。私が言う前にもう手に持ってたもん。
さすが、長年連れ添ってるだけあるね。
・・・誤解を生む表現だろうか?今のは無かった事に・・・。
向き合って一緒にご飯。
『一緒にご飯』これ大事。本当に。
桜子が作ってくれた料理っていうのも、もちろん大きいけどさ。
夕食を食べ終えていつもの流れでソファでまったり。
「味覚はあれから問題無いの?さっきの見る限り大丈夫そうだけど」
「うん、それなりに空腹感も感じるし自分で作って食べたりもしてるよ。ただ一人で食べてるとちょっと味気ないのはあるかな?」
「・・・そう。一人の食事が味気ないのは私も分かるから、そこまで問題にはならないかしら?」
「たぶん大丈夫じゃないかな?味がどうこうよりも、ちゃんと食欲が機能している時点で確実に改善はされているし?」
「味覚異常だけじゃなかったのね・・・。アンタってほんといつも一言足りないわね。そういうとこよ、本当」
「・・・言ってなかったっけ?ごめんね?」
「もういいわ・・・。今が大丈夫なら」
「心配してくれてありがと」
「ばか」
かわいいなぁ。
いつもだけどさ。
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