51 女王様の実力
『女王様』ヘレナさん、『氷帝』ノート、それから妖艶美女ローザさんと、ここまでサディスティックな人物が揃っている冒険者ギルド。
狙って揃えてるの・・・?運営の趣味なの・・・?
世の中のゲーマーは皆ドMっていう定説でもあるんだろうか?
・・・周りのプレイヤー達を見る限り、あながち間違いでは無さそうなのがちょっと怖い。
一応、ウィリアムさん達とか薬師ギルドの御三方とか、いわゆるちょっとヘタレキャラも居るから現地住人の皆がそうではない事は理解しているけども。
とりあえず冒険者ギルドは、ドMホイホイって事で良い?
私?私は責められると弱いけど、嗜好は責めたい派です。基本的に身内や友人、それなりに仲が良くなると可愛がって甘やかしたいタイプ。
実際思い通りにはいかないけどね。
いつの間にかお世話されている事が多い私です。
単純に周りの人間がハイスペック過ぎるせいだと思ってる。
のんびり楽しんでいたら気付かないうちに環境も雰囲気も出来上がってて、私は流されるままというパターンが多い。
それでも楽しいから全然良いんだけどね。
まぁ、運営の趣味嗜好についての考察は置いといて。
せっかくなので、ノーランさんの指導が終わるまでヘレナさんにアドバイスを貰いながら鍛錬中。
短剣を扱ってみようかとも思ったけど、体の動きを確認する為に武器は持たないまま。
前に【瞬歩】は獲得出来たものの、それ1つで終わってしまったから。
少しだけ自分の戦闘スタイルについてビジョンが見えて来たので、それも含めてアドバイスしてもらっている。
基本的にはパワーよりもスピード。
相手の攻撃は受け止めるよりも、受け流すか避けるか。
踏ん張って叩き切るよりも、体重移動の力を乗せた攻撃。
そんな曖昧なビジョン。
それでも実際に見せて、イメージを伝えて。
上手く言語化出来ていなかったけど、ヘレナさんは私のイメージを受け取ってくれたみたい。
ちょいちょい「トップスピードよりも緩急を意識した方が良いんじゃない?」とか「左右の動きより上下の動きの方が視線から外れやすいわよ?」とかってアドバイスをくれる。
客観的に見てくれる人がいると、私も修正作業が捗ってとても助かる。
しかもそのアドバイスがとても的確。
私が今何を意識して動いているのか、ヘレナさんは正確に読み取ってくれている。
正確過ぎてちょっと怖いのは内緒。
きっとヘレナさんに奇襲とか無意味なんだろうな・・・。
いや、私はしないけどさ。
攻撃とかじゃなくて、セクハラ系も即察知して返り討ちにあいそうな、そんな観察眼。
ヘレナさんがとびっきり美人だというのもあるけど、動きのひとつひとつをしっかり見られているっていうのは中々の緊張感。
昔先生に稽古付けてもらってた時みたいな感覚が蘇ってきてちょっと不思議。
―スキル【回避】がレベルアップしました―
まだ時間は許されているみたいなので、長剣を取り出して攻撃を当てる練習。
回避したつもりで斜め前に踏み出し、剣を振る。
・・・ちょっと振り遅れるか?
振り方の問題か、筋力の問題か・・・。
「・・・短剣なら持ち方を色々変えるわね。長剣に適応するかわからないし、変な癖になるかもしれないから後でノーランに聞いてみたら?」
なるほど。
自己流にするにしても、基礎は大事だしもう少し経験積んだ後のほうが良いよね。
「・・・ちょっとそこで構えなさい。今後の勉強にもなるだろうから、短剣の場合の見本見せるわ」
お、やった。
結構頭で考えるよりも人の動きを見て真似するほうが得意です。
言われた通りに正面に構えてヘレナさんと対峙。
ノーランさんと向き合った時はかなり威圧感を感じたけど、ヘレナさんはむしろ逆。
どこか掴みどころが無い雰囲気。けど隙も無い。・・・気がする。
決して武術の達人とかでは無いので、正確なところはわからん。ただ何となく攻撃を当てられる気がしない感じ。
せっかく直接教えてくれるのだからと油断せずにしっかり観察。
片手に短剣を持って5歩分くらい距離をあけ、緩く構えるヘレナさん。
「っ!?」
グっと足に力が入って、来る!と思ったけど全く反応出来ずに気付けば喉元に短剣が。
一瞬過ぎて目で捉えられない。
スピードを極めるとここまで凄いのか・・・。
「ん?もしかして見えなかった?」
「・・・すみません、見えませんでした。来るタイミングはわかったんですが、次の瞬間にはもう・・・」
「つい、いつも通り動いちゃったからしょうがないわ。もう一回少しゆっくりやるから」
「はい、お願いします!」
「っ!」
それでも十分速すぎ!
ギリギリ見えたけど、見えたからこそ真似出来そうに無い事が分かってしまったよ・・・。
「今度は見えた?」
「はい・・・一応。けど真似するにはかなり研鑚が必要そうです・・・」
「馬鹿ね。すぐに真似出来るわけじゃ無いわよ。これはあくまでも短剣を極めていく上で有用な技術。そう簡単に身に付くようなもんじゃないわよ?今後の勉強の為って言ったでしょう?」
「そう・・・ですね。でも、凄かったです。剣の持ち替えって難しいんですね」
「最低でも【指使い】くらい無いと結構失敗するから、意外と皆やらないけどね」
【指使い】?もしかして【指さばき】の上位スキルかな?
今まで特に意識してなかったけど、まさかここで必要だとは・・・。
「いずれ扱うためにスキルを育てないとですね・・・」
「ん?【指使い】持ってるの?それとも【指さばき】?」
「【指さばき】です。これも薬師ギルドでお手伝いしていた時に取得しました」
「なるほどね。アンタあれでしょ?コツコツやるどころか、のめり込んで周りが見えなくなるほど集中するタイプでしょ」
「・・・否定はしません」
むしろがっつり自覚あるよ!
なんでバレたのかわからんけど。
「【ナイフ術】も同じように取得したんでしょ?多少コツコツやったくらいじゃスキルは発現なんてあんまりしないわよ。適性がバッチリなら割と得やすいけど。生産職でもないのにスキルを複数取得なんて相当やり込んだ証拠ね」
あ、他にも【流れ作業】とか【精密作業】とかも・・・。
あれか、サブジョブが[薬士]だから少しは適性があったという事だったのかな?
そうだと思おう。
その後もナイフや杖を使ってはその都度ヘレナさんにアドバイスを貰う。
本格的な指導は受けられないものの、実力者のアドバイスはとても実になる。
1時間程経過してある程度イメージしたスタイルがだいぶ洗練されてきた。
「アタッカーとしては中々素早いスタイルだけど、素早さは正直[シーフ]とか獣人とかに比べるとイマイチ。だからヒット&アウェイで攻撃するには不十分。それでもギリギリまで相手を引きつけて、攻撃を躱すのは良い感じね。相手の視覚から外れるっていうのもしっかり意識出来ているみたいだし、結構厄介な戦闘スタイルに化けるかもね」
お?お褒めの言葉。
「だからこそ【短剣術】と相性良いのに取得していないアンタがムカついてくるわ」
あ、地雷踏んだ。
「何となくスタイルを思い付いてから私もそんな気はしていたので、もう少し時間を下さい。そこまで器用なタイプではないので、あれもこれもとなると全て中途半端になりそうなんですよ・・・」
「・・・別に急かしてる訳じゃないのよ?ただもったいないじゃない、アンタ体の使い方は良い感じだからそれを生かして欲しいのよね。ノーランの指導を受けてアイツに憧れて剛剣まっしぐらになったらと思うと・・・」
あぁ、確かにノーランさんはパワーで全てを叩き潰す!みたいなスタイルだもんね・・・。
でも私はあれに憧れないぞ?格好良いとは思うけど。
「幸い私はパワーよりもスピード重視ですから。格好良いとは思いますけど、真似はしないですよ?」
「それが良いわ。男の剣士ってすぐ皆ノーランみたいになりたがるから」
脳筋男の何が良いのよ?って頭を振って溜息を吐く仕草が妙に絵になる。
でもヘレナさん、ゲームで力極振りの脳筋プレイって結構ロマンだよ?爽快感凄いし。
そしてそんな貴女の後ろで眉間にがっつり皺を寄せてる大男がいるんですけど・・・。
「随分な言い草だな、ヘレナ。喧嘩売ってんのかお前は」
「あら?もう終わったの?喧嘩なんてするわけないでしょ、アンタとアタシじゃ勝負にならないじゃない?」
「弓無し、魔法無しでヤったら俺が勝つだろ!?」
「ハンデ戦で満足するの?小さい男ね、それに短剣だけでもアタシは負けないわよ。当たらない攻撃なんて脅威にならないわ」
「てっめぇ・・・!勝ち越してるからって調子乗るなよ!?」
ヘレナさんとノーランさんだったら、ヘレナさんのほうが強いのか・・・。結構納得。
ノーランさんには申し訳ないが、ヘレナさんが負けるとこって想像出来ない。
なんせ女王様なので。
そしてノーランさん、ハンデ戦は私もダメだと思う。
「大体昔から言ってるでしょ、アンタは対人戦に向いてないってば。モンスター特攻なんだからアタシに負けても仕方ないのよ」
「・・・ぬぅ。くそ、今度はモンスター討伐で勝負な」
「はいはい」
完全にあしらわれてるな・・・。
前に幼馴染っぽい関係だな、とか思ったけど訂正。
手のかかる弟の面倒を見ている姉って感じだ、これ。
ちょっとヘレナさんに認められたくてしょうがない感があるノーランさんに少し萌えるけど。
「そろそろイチャつきはヤメテもらっても・・・?」
「「イチャついてない!!」」
既視感。
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