0-59 鍛冶屋回り
「サークヤは狩人なの?」
隣を歩く女性、サミヤが尋ねる。
「いや、一応冒険者と呼ばれてるかな?」
「なんで疑問形なのよ……自分の事なのに」
「いや、まだ始めてから……ええと? 10ヶ月くらいだったかな?」
「だからなんで疑問形なのよ。でも10ヶ月ならまだ駆け出しくらいって事ね」
「……うん、そうだね」
いや、駆け出しどころか、ベテラン勢に充分食い込んでいる実力はあった。
惜しむらくは、まだ経験が浅い事くらいか。
「で、サークヤは今いくつなの?」
「僕の歳? たぶん23歳……で良いんだよな?」
また突然な質問をしてくるサミヤに、バカ正直に答えるサークヤは四大を出てから誕生日をまだ迎えていなかった。
「ええっ! まさかの年上!?」
「え。一体いくつに見えてたの?」
「てっきり18歳くらいかと……」
「そういうサミヤさんは……二十歳前くらい?」
「……今二十歳ですぅ」
やはり女性に歳を聞くのは止めた方が良さそうだ。
自分より年下だと思っていた相手が3つも年上で、自分の歳はほぼ当てられたようなものだ。
これが女にとって屈辱以外の何になると言うのか!
歯をギリリと鳴らすサミヤに、思わず顔を引き摺るサークヤだった。
「東から来たのなら、多分その通りじゃないかしら」
先の通りを指差すサミヤに、サークヤが声を弾ませた。
「ああっ! 道具屋がある。多分そうだ…… いや、間違いない! この道具屋だ!」
サミヤは太陽の向きで迷った事に気付いた事から、西を向いていたと推測、であれば東口から来たのだと考えて此処を特定した。
「喜ぶのはまだ早いわよ。此処からお仲間さんを捜し始めるんだから」
鋭いツッコミに、そうだった……と落ち込むサークヤ。
その様子を見ていたサミヤは、なんて面白い生き物なの! 年上の癖に! と思うのだった。
「サークヤさんと同じような服装ですよね。この辺りにはいなさそうですね」
サークヤは里で他の三人と似た着物のような服をタカエに作って貰って着ていた。
里の関係者同士にしか分からない目印である。
「サミヤさん、呼び捨てで良いし、話し方もさっきまでと同じで良いよ」
「えっ! いや、でも」
「いやでも何も、そうして」
「……分かったわ。ても、呼び捨てだけは直させて」
少し躊躇してそう答えたサミヤという人物は、悪い人ではないと思うサークヤ。
そもそも、交換条件を付けたとはいえ、時間の掛かる人捜しに付き合おうと言うのだ。
寧ろお人好しと言えよう。
「見付からないわね、そんな判り易い服なのに」
元の進行方向へと進路を向けていた二人だったが、逸れてから既にかなりの時間が経っていたから見付からなくて当然だろう。
しかし、見付からないという事実がサークヤを更に落ち込ませる。
「ああ、もう! 下向いてたら見付かるものも見付からないわよっ!! 他に何か思い出せない? 何か目的があって此処へ来たんでしょ?」
そう言われて思い出そうと考え込むサークヤ。
「あ、そうだ。鍛冶屋を捜しに行こうと言っていたんだ」
「……鍛冶屋?」
燻しんだような顔を見せるサミヤ。
「サミヤさん? どうしたの?」
「い、いや。何でもないわ。鍛冶屋は数は少ないけど……難しいと思うわよ」
「え? どうして?」
「何処も郊外にあるから、回ろうとすると馬でも使わなければ一日では回れないわ。それに……」
顔を顰めて続けるサミヤ。
「皆、性格に問題があって…… 多分門前払いになると思うわ」
知り合いでもなければね、と加えるサミヤに、
サークヤも顔を顰める。
「帰れ!」
「帰えんな!」
「……」ピシャッ!!
二人は乗合馬車を乗り継いで方々にある鍛冶屋を回ったのだが…… サミヤの言う通り門前払いに遭うのだった。
「こんなにも話すら聞いてもらえないとは思わなかったよ」
「何言ってんの。鍛冶屋が素人を中に入れる筈ないでしょ。ほんのちょっとの水が入っても事故になりかねないんだから!」
「……詳しいんだね、サミヤさん」
「い、いや…… 常識よっ! これくらい!!」
何故か戸惑うサミヤ。
「もう一軒回ってみましょうか」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「な、なんで丁寧語!?」
「え? いや、お願いする立場だから?」
「だから何で疑問形!?」
「またか…… 帰ってくれ!」
「えっ! またって、僕のような服を着た人が来たんですか?」
「……ああ、少し前に来たが、追い返したぞ」
顔を見合わせるサークヤとサミヤ。
「ここへ来たんだ。もうちょっと早ければ会えてたかも!」
「何だ、あんた逸れたんか。そりゃ残念だったな。……ん? おめえさん、確か……」
罰が悪そうに顔を逸らすサミヤ。
「鍛冶屋を回ってんなら、そっちのお嬢さんの所にも行ってんだろうな?」
えっ? とサミヤの方を見るサークヤ。
「何だ、知らなかったのか。まあ良い。そのお嬢さんに聞くんだな。じゃあ俺は仕事に戻るから帰ってくれよ」
そう言って扉を閉める鍛冶屋の主人は、ここまで付き合ってくれただけでも良心的だと言えよう。
だが、それどころではない。
サークヤは顔を背けるサミヤを見やる。
「ええっと……どういう事?」
「いや、その。ええと……ウチ、鍛冶屋なんだ」
「ええっ!!」
目線を合わせないながらも答えたサミヤに、サークヤが驚いた。
「ええと……ミルバエルにある鍛冶屋は5軒だけだ」
「それって、あとはサミヤさんの家だけって事?」
「そ、そうだな……」
そう答えるサミヤを見て、ふと気が付くサークヤ。
「そういえば、仕事はまだ良いの?」
「えっ!? あああっ!!!!」
慌てて東区行きの乗合馬車に飛び乗る二人であった。




