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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
前日譚(第零章) 異界の冒険
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0-58 迷子の仔犬

「おかしいなぁ、何処へ行っちゃったんだろう?」


 キョロキョロと周囲を見渡すも見つからない。

 サークヤは迷子になった時の基本である”その場に留まる”事を選択していたのだが、一向に三人と再会できずに不安が膨れ上がっていた。

「ど、どうしよう……このまま会えなかったら……」

 周りを見れば、知らない人、人、人……

 久し振りに顔を出した、所謂”尻尾を丸めた仔犬”モードである。

 狼の群れを相手に大立ち回りをした影はどこへやらだ。


 かれこれ30分以上そこにじっとしていたサークヤは、意を決して進んでいた方向へと進み出した。

 のだが、実はサークヤは角地にあった道具屋の前で剣等を見ているうちに自分の向いている方向が変わっていた事に気付いてなかったのだ。

 その事に気付いたのは、太陽の方向が横からだったのが後ろからになっているのに気付いたからだったが、かなり歩いておりその間にも何軒か道具屋があったので、何処で迷ったのかすら分からなくなってしまっていた。

 完全にはぐれた。

 耳の垂れ下がった仔犬のように、トボトボと歩くサークヤ。


 これが女の子なら、とっくの昔に誰かに攫われているだろう。

「ねえ、そこのお兄さん」

 そう、こんな風に声を掛けられて。

「ちょっと、お兄さん! あなたの事よっ!!」

 肩を叩かれて初めて気が付いたサークヤは振り向いた。

 その情けない顔のままで。

「う、うわあ。酷い顔。可愛い顔が台無しじゃない」

 そうサークヤに声を掛けたのは少々目のやり場に困る格好をした綺麗な女性だった。

 テインバーク国の中でも南の方にあるミルバエルは、この時期でも薄着でいられるほど暖かいからだろうが……


「さっきまでキョロキョロしながら歩いてたけど、迷ったの? それともはぐれた?」

 項垂れるサークヤを覗き込むように聞いてきた女性の胸元が露わになるのが目に入ってしまったサークヤは、そこで初めて慌てたように顔を上げた。

「あら、良い男じゃない。で、どうしたの?」

 そう聞かれて、漸くサークヤの思考が今の状況の把握を努め出す。

「あ、いや、ちょっと仲間たちとはぐれちゃいまして……」

 初めてまともな返事をもらった女性は、あらまあと予想通りの返答を受けて質問を続ける。

「何処へ行こうとしてたの?」

「いえ、まだそれも決まってなかったんで……」

「ふうん、迷った時の事は決めてないの?」

 ここでサークヤがハッとしたように思い出す。

「そうだ、はぐれた時はその町の中心に集まるんだった!」

 が、その女性はサークヤの言葉を聞いて顔を顰める。


「ミルバエルの中心? それはまた曖昧な…… 役所も中心から外れてるし、保安隊も西口と東口と南口にあるけど中心には無いわ。そもそもその中心地は此処から結構な距離があるし、それっぽい広場もないし…… その辺りは繁華街で、此処が中心だ! って場所では無いわよ」

「ええっ! そんなっ!! ……どうしよう」

 またサークヤが酷い顔に戻り項垂れる。

「……ねえ、私が一緒にそのお仲間さんを探してあげようか」

 そう言って腕で胸をムギュッと強調するように挟み、サークヤを覗き込む女性、絶対ワザとだ。

「あわわ……えっと……良いんですか?」

「そ・の・か・わ・りっ!」

 ニッとする女性、やはり魂胆があるようだ。

「今夜、私の勤める飲み屋にお仲間さんと皆で来て!」

「えっ! ……ええと、僕、お酒飲めませんよ?」

 そう、サークヤは飲めないのだ、下戸なのだ。

「え~~~~~~~。じゃあ、お仲間さんは?」

「ああ、それなら一人がぶ飲みする人がいます」

「よしっ! じゃあ決まりねっ! 絶対来てよ!」

 サークヤの両肩を掴み、同意を求める女性。

「は……はい、分かりました」

「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はサミヤ。あなたは?」

「あ、僕はサークヤです」

「あら、よく似た名前ね、覚えやすいわ。じゃあよろしくね、サークヤ」

「はい。よろしくお願いします、サミヤさん」


 こうして状況は変わらないものの、話し相手が出来て幾分気分を持ち直すサークヤであった。





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『カースブレイカー』シリーズ
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