0-53 星空の下で
本日2話目です。
ご注意ください。
「ん~、やっぱり少ないなぁ」
翌朝の出発が決まった夜、サークヤは夜空を見上げていた。
「周りの建物で視界も狭いし……今から郊外に行ってみるか」
星空を見ていると心が落ち着く、サークヤはそう感じていた。
日本にいる時も星を見るのは好きな方だったが、こちらの世界は夜の明かりが少ない分小さな星まで良く見えたので、もっと見たいという衝動に襲われたのだ。
置いてきた剣を取りに部屋へ戻り、テリオに出掛ける旨を伝える。
「今からか? あまり遅くなるんじゃないぞ?」
そう言って送り出すテリオは、意外と寛容だ。
出会った頃は口煩い保護者を気取っていて、何故それほど言われなくては? と思った程であったが、同時に守ってもらっている自覚はあったので、素直に言う事を聞いていた。
それが今ではほぼ放任され、自主性に任されている。
サークヤも出世したものである。
それはそうだろう。
賊を相手に大立ち回りを演じ、6人相手に圧倒して見せたのだ。
敢えて声を掛けるのなら”迷子になるなよ”である。
「あら、サークヤさん。何処かへお出掛け?」
声を掛けたのはユリだ。
「うん、ちょっと星でも見に行こうかと」
「……私も行こうかしら?」
「あっ! 私も行きたい~!」
「わたしもわたしも~~~!!」
ユリに続いてカスミとスミレも行きたいと言い出したのだが……
「あら、カスミもスミレも明日は学び舎があるから駄目よ」
「「え~~~~~!!」」
キクから止められる姉妹であった。
「町の中ではあまり見えなかったけど、ここまで来ると良く見えるわね」
「そうだね。でも今日は満月だから、見られる星は少ない方じゃないかな」
二人は開けた場所の斜面に座って夜空を見上げた。
「知ってる? 今、僕たちの立っているこの地もあんな星の内の一つだって」
「ええっ! 初めて聞いたわ」
「そうだろうね、タカエさんも知らなかったって言ってたし」
サークヤはそう断言したが、一応根拠はある。
登って落ちる太陽と、満ち欠けする月の存在だ。
どちらも丸い。
どうやら四季もありそうなところを見ると、地軸が傾いでいるのも地球と同じようだ。
どのくらいの大きさか迄は分からないが、地球と似た存在だろうとサークヤは考えていた。
実際にここでは1年が361日くらいで回っているようだ。
月の満ち欠け25日周期でひと月とされ、14ヶ月で1年、3年に一度15か月目が存在する。
春先が1年の始まりとされ、1の月、2の月……と呼ばれた。
月の始まりは月の隠れる日(新月)とされている。
15の月があったりなかったりなのもあって、誕生日を祝う風習は無かった。
ユリもちょうど15の月の初めに生まれていたので、サークヤはユリがいつ16歳になったのかも分からなかった。
里を出たのは13の月の末だったので、その時点で正確には16歳になっていなかった。
だからこそ、里ではまだユリが里を出て行くのは早いと言われていたのだが。
「私たちが星の上にいるなんて、なんだか不思議な気分になるわ」
「僕もそうだよ。それが当たり前として育ったけど、考えれば考えるほど不思議に思えてくる。でもね、とても高い山に登ると、この地は丸いって分かるんだよ」
海でも分かるかもね、と付け加えるが、里育ちのユリには新鮮な話だったようで目を輝かせていた。
「一度見てみたいわ。でも難しいでしょうね。この辺の高い山でも見られるかしら」
「う~ん、どうだろうね。周りの山が低ければ見られるかもしれないよ」
見てみたいと言う思いは募るばかりだ。
「サークヤさん、明日の朝には出て行くのよね……」
「そうだね。僕はテリオさんに付いて行くから……」
少しトーンの下がったユリにそう答えるサークヤは、その雰囲気に耐えられず話題を変えた。
「そうそう、僕の名前なんだけど、みんなサークヤって呼んでるけど、本当はサクヤって言うんだ。鷹山朔也、それが僕の本当の名前だよ」
「ええっ! そうなの!? 知らなかったわ」
「テリオさん達に初めて会った時に名乗ったんだけど、シーナさんがそう呼ぶようになって、ね」
たはは、と笑うサークヤに釣られてユリも笑った。
「……サークヤさん、タカ婆ちゃんに里へ住まないかって言われてたけど、また里へ帰ってくるわよね?」
「うん…… 本当は故郷に帰れれば帰りたいんだけど、難しいだろうからね。であれば故郷に似た里は僕にとっても特別な場所なんだ。何もなければ里には顔を出すよ」
「本当? 必ずよ。約束して」
「うん、分かった。約束する。必ず里には行くよ」
「ねえ、シーナ。ユリちゃんってもしかしてサークヤ君の事を……」
「それがよく分からないのよ。もしかしたらそうなのかもしれないけど……」
「ん? ユリとサークヤがどうした? 二人で星を見に行くって出てったぞ?」
「……そういう事じゃないんだけど。テリオは黙ってて」
「なっ! 何だよそりゃ!」
「あ~あかん、あかん。テリオはそんな奴だぎゃ」
「なっ! タークまで!!」
その夜、決起大会のようなオオー! という複数の声が、遠く3方から聞こえて来たのだった。




