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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
前日譚(第零章) 異界の冒険
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0-40 里からの旅立ち

「皆、忘れ物はないか?」


 テリオたち4人と酪家のユリが大家の前で荷物の点検をしていた。

 周りには里の者ほとんどが集まっている。

 そう、今日は旅立ちの日だ。


 事前にタリオとテリオが周囲の残雪の状況を確認して、問題がないと判断されている。

 もし雪が残っていれば、旅に慣れていないユリの足を止めるばかりか、足跡から余所者を里へと近付けさせる事に成りかねない。

 だからこそ、雪が溶けてからの出発となる。


「私は大丈夫よ」

「ワシも問題あらせん」

「僕も大丈夫です」

「私も良いわ」

 コクリと頷いて答えるユリ。

 動きやすそうな旅装束に必要最低限の荷物を背負い、懐にはサークヤたちの打った懐刀が差し込まれていた。

 旅の間だけ、万が一の時の非常用としてすぐに使えるようにしておく為だ。

 町に近付いたら見えないように隠す事になっている。


「ユリ、気を付けてね。皆の言う事をよく聞くのよ」

 ユリの母ユキが声を掛ける。

「ユリ、頑張ってこい」

 強く頷くように言う父タツ。

「ユリ(ねえ)、元気でね」


 妹のユナはもう泣きそうな顔だ。

 それもそうだ、2年後にはユナが里を出る番。

 ユリの婿探しが難航すれば入れ違いになり、もしかしたらもう会えないかもしれない。

 家を継がない者は里に帰らない事も多いからだ。

 もし気軽に里に帰れるようであれば、この里は500年もの間守られてはいなかっただろう。

 これからも里を守るには、一度出た者は簡単には帰る事が許されないのだ。

 テリオたちは特別だが、その掟は今までも、そしてこれからも守られるだろう。


 姉妹たち家族の別れの挨拶の間、テリオ達にはタリオやタカエが声を掛けていた。

「テリオ、ユリを無事に届けてくれよ?」

「ああ、当然だ」

「傷物なんかにしたら承知しないからね」

「分かってる」

 他にも色々と言い含めていたが、言う事を言ったのかタカエがサークヤに向き直った。


「サークヤ、アンタ本格的にこの里に住まないか?」

「「「ええっ!」」」

 この言葉にサークヤだけでなく近くにいたシーナやタークまでもが声を上げた。

「屋敷を建てる場所は空けておいてやる。いつでも戻ってくるがいい」

 まさかの申し出に固まる三人。

「まあ、よく考えてくれれば良い。今度帰ってきた時(・・・・・・)に良い返事を待ってるぞ」

 この里が自分の居て良い場所であると皆の前で言ってくれた、それが堪らなく嬉しく思うサークヤであった。

「アンタはどうやらこの地に歓迎されているようだからね。その恩恵も期待できるし、何より働き手が増える。今まで6軒の制約でやってきているが、やはりちょっとばかり手が足りなくてね」

「「ぶっちゃけた!」」

 タカエの暴露に、シーナとタークが白目を剥いた。


「さて、そろそろ出発したいんだが……ユリ、良いか?」

「はいっ!」

 タリオとの話が終わったテリオの問いに力強く返事をするユリ。

「他の三人は?」

 いつでも良いとばかりに頷く三人。

「よし、では行くか」

 里の外への道なき道へと踏み出すテリオ。

 四人が続いて森の中へと踏み出すと……


「えっ!」

「なっ!」

「こ、これは!」


 森に踏み込んだ五人を中心に、地から、川から、木から、草花から、大量の光が溢れ出してきた。

 そしてその光が波打つように揺らめく。

 まるで五人の門出を祝うように。


「なんだこれは。一体どうなっているんだ?」

 タリオが光を見上げながら呟く。

「はぁ~こりゃすごいね。こんな事、初めてだよ」

 タカエがため息をつきながら感嘆する。

「長生きはするもんじゃな。なぁ婆さんよ」

「そうじゃな、爺さん。ええ冥土の土産が出来たのぉ」

 大屋の隠居喜治郎やテルたちも、里の者皆がその現象に見とれた。


 それに驚いているのは光の中心にいた五人も同じだ。

「おいおい、こりゃ驚いたな」

「びっくりね、これは」

「ほんま、仰天やの」

「すごいですね、この光は」

「ホント、綺麗……」


 暫くの間、五人はその光景に見とれていたが、その揺らめく光に促されるように誰からともなく歩き出し森の中へと消えていった。


 光の波は五人を見送った後、僅かな名残を残し消えていくのだった。




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