0-39 春の光
本日2話目です。
ご注意ください。
更に月日は流れ、森の木々は一斉に芽吹きだす。
溶けた雪の合間からも草花が芽を出し始めた。
里にも春が到来する。
サークヤは早く目が覚めてしまい、稽古が始まる前の早朝に里の中を散歩していた。
里の中の通り道の雪は既に解けてしまっているので、歩き回るのに何の苦労も必要ない。
まだ冷え込みはするが、真冬のような冷たさではないから真冬の稽古を考えれば楽な方だ。
里の中と言ってもさほど広くはないので、30分も掛からず一回りできる距離だ。
今は消えてしまったカマクラのあった場所の横を通り過ぎた所で、横から歩いてくる人物を見つけた。
「あ、おはよう。ユリさん」
「サークヤさん、おはよう。早いのね」
「ああ、早くに目が覚めちゃってね。ちょっと散歩に。そういうサリさんも早いね」
「ええ。朝ごはんをあげに小屋に行くところよ」
「ああ、家畜小屋だね。僕もそっちの方へ行くから一緒に行こうか」
そう言って手にしていた餌をサークヤが半分持ち歩き出す二人。
「里を出るまであと少しだね」
「そうね。戻ってくるとはいえ、里を離れるのはちょっと寂しいわ」
「そういえば以前、ユナちゃんたちがユリさんの元気が無いって心配してたけど、寂しがってたんだね」
刀鍛冶が終わった後、紬家で女子会をしていた3人と話した事を思い出したサークヤ。
「あら、そんなに心配させちゃったかしら。楽しみ半分、寂しさ半分ってところなのに」
クスクス笑うユリを見れば、それほど寂しくは思っていないようにも感じ安心するサークヤ。
「町では親戚の家で過ごすんだっけ」
「そうよ。里にも一度来て会った事がある人でね。とても良い人だったわ。元々里の出身者に悪い人はいないって聞いてるから、そこは心配してないわ。むしろ町に出てやっていけるかどうかね」
「そうか~、まあ大丈夫だと思うよ。その親戚の人もやっていけてる町ならそんなに心配しなくても良いかもね」
うんうんと話しながら頷いていると、先の方から茶色い物体が飛び出してきた。
「ウォンウォン!」
「あら、ぺス。おはよ」
ユリの回りを嬉しそうに走り回るのは番犬を務めているペスだ。
流石にペスもサークヤには慣れた。
当初はサークヤをユリの敵として顔を合わせる度に吠えまくっていたが、根気よく触れ合ううちに認められた。
「ペスさん、おはよう」
サークヤもペスに挨拶をする……が。
「ヴァウ!」
ちょっとだけご主人とは扱いが違うようだ。
苦笑するユリ。
「さて……と」
稽古までまだ時間があるからとサークヤが手伝ったお陰で、いつもより早く餌やりが終わった。
帰りも一緒に歩いて行けるとユリが喜ぶ。
「毎朝、この位の時間なの?」
「いいえ、今朝は私も少し早く目が覚めたからだけど、いつもは大家の朝稽古の音を聞きながら来るのよ」
「ああ、そうなんだ」
「普段あまり会わないのに、奇遇よね」
里を流れている小川の脇を、ふふふと笑みを浮かべながら歩いていた時に、それは現れた。
「あれ? 何だ?」
「あら。これは……」
二人が立ち止まり、小川に起こった変化に目を凝らす。
するとホンワカと小川がキラキラと光って見えた。
サークヤが、朝日に当たってそう見えるのかと思ったが、どうやらそうではない。
「舞う光が見られるなんて……早起きして本当に良かったわ」
「これが聞いてた光か。初めて見たよ。すごいね」
二人でその光景を見ていたのだが……。
「あら?あっちも見て!」
「えっ!」
雪が解け土の見えるところからも光が舞い出していた。
よく見れば、里の方々から光が溢れだすように舞っている。
二人は言葉を失ったようにその光景を見ていた。
サークヤは異世界に来て初めて感動する気持ちが溢れた。
気が付けば、ユリがサークヤに寄り添うようにピタッとくっついていた。
しばらくの間その光景を見ていると、それに気が付いたのか方々で里の者たちの歓声が聞こえてきた。
「今年は豊作間違いなしね」
ユリがそう呟いた。
それを聞いたサークヤがユリの方に顔を向けて頷く。
こんな光景を見れば納得せざるを得ない。
タカエの言っていた大地の力というものが否応なしに伝わった。
こんな神秘を見せつけられてまで、否定など出来ようがなかった。
前の世界では絶対見られない光景……しっかりと目に焼き付けようとサークヤはその光が見えなくなるまで見入っていた。
じきに雪も消えてなくなる。
サークヤを含むテリオ達4人と酪家の長女ユリの旅立ちは近い。




