0-36 里の方針
「で、どうだった?」
「はい、とても勉強になりました」
今、サークヤは紬家でタカエと対面している。
今日だけでなく、今までも定期的にタカエと会談をしていた。
「そうか、身になったか。次にやる時は上手く出来そうか?」
「それについてですけど、何故そこまで僕を信じてくれるんですか? 僕はここに戻らないかも知れないのに」
「だが、戻ってくる可能性だってあるだろう?」
「そ、それはそうですけど……この里に入れてもらえただけでも奇跡のようなものですよね? それなのに門外不出の刀鍛冶の技術を僕なんかに教えても良かったんですか?」
「……まあ、良いんじゃないかい? 皆が反対しなかったんだし」
「反対しなかったって……そんなんで良いんですか? 500年守ってきた里を僕がダメにするかも知れない。それどころかこの世界の平和が脅かされるかも知れないのに」
「ほら、そうやってちゃんと考えているじゃないか。それが出来る人間であれば良い、と皆が認めてるんだ。喜べ」
「はあ……」
サークヤは、その言葉でなんとなく脱力感に襲われた。
刀鍛冶を手伝っている間ずっと、本当に良いのだろうかと悩んでいたのが、馬鹿らしく思えたのだった。
「まあ、そうガックリせんでも良かろう。我らもどうして許可したのか説明出来ないのだからな」
「えっ? 説明出来ないってどういう事ですか?」
「何故か反対意見が出なくてな。唯一出たのが里の外の者だという意見だったが、先祖と同郷だと言ったらいよいよ反対する理由が無くなった」
ピシッとサークヤが固まる。
「……言ったんですか? 僕が異世界の人間だと」
「安心しろ。そこは伏せたよ」
そうですか、と安心したようにほっと息を吐く。
サークヤは約二ヶ月の間暮らして、ずいぶん里に馴れた。
ある意味、自分の居場所が出来たように感じていた。
しかし、異世界の人間だと知られれば、せっかく受け入れてくれた里の人達から距離を置かれてしまう、それを危惧した。
サークヤがタカエにそれを話したのは、話の流れがあったのと、この人になら話しても良いと判断した事、それに誰かに知っていて欲しかったという願望があったからであった。
他の里の者はおろか、テリオたちですらサークヤが"この世界のどこか"から来たと思っている。
そう、異世界の話は未だにテリオたちにも言ってなかったのだ。
「おう、俺だ! 来たぞ!」
「来たか。入れ!」
そこへ来たのは里長のタリオだ。
「タ、タリオさん。えっと……これは一体……」
「ああ、今日はこれをな」
そう言ってドサッと座卓の上に古い冊子を数冊載せるタカエ。
「以前、里の家の本来の名が分かるかもと話しておったろう」
良いんですか? とタカエとタリオの顔を伺うサークヤだったが……
「何を今更。もうアンタは既に里の仲間だよ」
「ええっ!!」
この一言にサークヤは驚愕の声を上げた。
「アタシたちの先祖の故郷はこの世界には無いんだろ? じゃあさ、先祖と同郷のアンタはこの里にいても良い権利がある。そういう事さ」
先祖の故郷がないと言うところでタリオが眉をしかめるが、詰め寄っても無駄だろうと諦め、サークヤの目を見て頷く。
「納得したかい? じゃあ、始めようかね」
そう言って冊子……古文書を一冊開き、三人で覗き込む。
「う~ん…… そうですね、達筆すぎて何が書いてあるのか分かり難いですが、苗字らしいものは見て取れます。……これは……細……川……? 細川ですかね。こちらは……牧……野……牧野かな? ええと……こちらは……佐……久……閒? ……佐久……間……たぶん佐久間だ!」
それぞれ、大家のサクーム家が佐久間、薬家のマーキヌ家が牧野、紬家のホゥスカー家が細川ではないかという事が分かった。
サークマはそれらが地名では? とも思ったが、韻が似通っていると言うことでおそらくそうだろうと結論を付ける。
なるほど、訛った言葉がそのまま訛り続けて今の呼び名になったのかと二人は納得した。
「さて、本来の名が判明したが、これをどうするかだな。タリオ、どう考える?」
「そうだな、本来の名に戻したいところだが、今使っている名も里の出身者に浸透している。簡単には捨てられんし……どうしたものか」
「どちらも使うか…… こうしたらどうだ? 本家が本来の名に戻し、分家が今の名を受け継ぐ。分家が先祖の使っていた元の名を使うのもどうかと思うしな」
どうだろうとタカエがタリオに提案する。
どちらの名も使う、それが最善なのかも知れないなとサークヤはそのやり取りを見ながら思うのだった。




