0-34 里を守る力
本日夜にもう一話投稿します。
カンッ キンッ カンッ キンッ カンッ キンッ
里に金属を叩く音がリズムよく鳴り響く。
既に何日もそれは続いていた。
里ではこういった大きな音が出る作業は、可能な限り雪の積もる冬場に行われていた。
雪という鍛冶には天敵と言える水分の固まりが身近に在りながら何故? と思う者もいるが、やはり理由はある。
雪は、里への浸入を困難なものへとする。
音を聞き付け、里へと近付こうとする者がいずれ現れるだろう。
しかし、深く積もった雪が音の元を探る者の行く手を阻み、里に近付けさせない。
それがひとつ目の理由。
そして、もうひとつの理由は、積もった雪の吸音性。
雪の複雑な結晶のおかげで、けたたましく響く打撃音を掻き消してくれる。
フカフカとした深い雪が、里を守ってくれているのだ。
初代がこの地へ辿り着いたのは偶然だろうが、根付いたのにはやはり理由があったのだ。
他にも良質な土や豊かな水源という理由もあるのだが。
音が鳴り響くと言っても、鍛冶場の場所は里の外れにあり、尚且つ厳重な作りの建物がある程度の音を遮断しており、雪が積もったこの時期だと里内でも近い家でやっと室内にも聞こえる程度、遠くの家では外へ出ないと気が付かない位であった。
紬家もそんな場所に位置しているので、子供たちの勉強には影響はほぼない。
「ねえ、外の人とマー兄が鍛冶場でお手伝いしてるってホント?」
そう、ほぼなのだ。
「そうなの? ここ最近、朝の稽古以外で見なかったけど、鍛冶場に行ってるの?」
紬家へ来るまでに里に鳴り響く音を聞いているので当然ながら気になるのだろう。
「うん、マサ兄もサークヤ兄ちゃんも鍛冶場に行ってるよ」
紬家の長女サキ、鍛家の妹チナは同い年の8歳で、続く大家のナオは9歳と歳が近いので仲良しだ。
「僕も行きたかったんだけど、ダメだって……」
鍛家の兄ノブも10歳とナオとはひとつ違いなので仲は良い。
「外の人ってマー兄ちゃんと何してるの?」
紬家の次女キヨが5歳児らしく可愛い気に首を傾げる。
「「なにしてるの?」」
すると、それを真似て修家の妹ミユ4歳と薬屋の二男タク3歳が首をコテンと傾げた。
「なんか楽しそうだな~。僕も行きたいな~」
薬屋の長男リク6歳も釣られて行きたいと言い出した。
「じゃあ、僕も!!」
修家の兄シン5歳までもが釣られる。
「でも、鍛冶場は大人しか入っちゃダメって言われたよ?」
酪家のユナ13歳が皆を止めようとするが、「「「え~」」」とブーイングされる。
「そうね、あそこは危ない所なの。大人でも入って良い人と入っちゃ駄目な人がいるからね。私たちは入れないわ」
そう宥める酪家のユリはもうすぐ16歳になる。
子供の中では一番年長のユリにまでこう言われては、皆そうなんだと納得する。
そもそも、里にいる子供は春に出て行くユリを合わせても12人しかいないので、皆仲良しだ。
里での出来事はほぼ即時に里中に知られる事になる。
だが、子供たちには全ての情報は流れないので知られてもタイムラグがあるし、正しく把握できていない事もある。
今回は里の秘密の中でも最重要である刀鍛冶の作業である。
年長組であるユリとユナは、たぶんサークヤたちは刀鍛冶に駆り出されたんだろうと察していたが、皆には話さなかった。
本来、里の中の者でも一部の者にしか見る事も許されないその作業を、何故サークヤが手伝う事になったのか。
それが分からない以上、二人はその推測を披露する気にはならなかった。
その理由だが、里の大人たち皆がサークヤなら見せても大丈夫だと漠然と思った事は認めるのだが、それが何故かが誰にも答えられなかった。
誰も反対意見が出なかった、それが一番の理由である。
弱すぎる理由。
だが、反対する理由もないという現実。
大人たちは戸惑った。
唯一里の者でない、という意見は紬家のタカエからの衝撃的な情報によって却下された。
異世界人という事は伏せられたが、今まで出所不明だった先祖と同郷だという事が知らされたのである。
これには皆が動揺した。
勿論、話を聞いたタリオがタカエに詰め寄ったが、サークヤとの約束でこれ以上は明かす事が出来ないと回答を拒否された。
実際のところはタカエがサークヤたちに口止めしたのだが、そんな事を言える訳はなく……いや、言ったところで信じて貰えない。
信じて貰えたとしても、それが異世界ではどうしようもない。
であれば、知らない方が幸せだろう。
今までも、そうやって情報を選別して来た。
そして、これからも……
さて、その情報を一切遮断された子供たちはと言えば……
「はい、休憩終わり! さぁ勉強始めるよ!」
「「「「え~~~」」」」
最恐権力者の元、勉強を再開するのであった。




