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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
前日譚(第零章) 異界の冒険
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0-33 水挫し

「サークヤ。お前、今日は気が入ってないぞ?」

「は、はい……」


 サークヤは、いつも通りタリオたちと剣の稽古をしていた。

 ところが、サークヤの様子がいつもと違う。

 考え事をしているのか、体の動きが鈍くキレがなかった。

 不審に思ったタリオがサークヤに声を掛けたところ、ビクッとして返事をするサークヤ。

 何かおかしい、何だろう? とタリオが首を捻る。


「体の調子でも悪いのか? 薬家の者でも呼ぶか?」

「い、いえ。特に悪いところはありません」

 伏し目がちに答えるサークヤ。

 益々様子がおかしい。

「……何かあったのか? 今日は稽古が終わってから連れてってやろうと思ったんだが、明日からにするか」

 そうタリオが呟いたところ、それが耳に入ったサークヤがビクゥッとしてからガタガタ震えだした。

 ああ、やっぱりそうか! 僕は捨てられるんだ! そんな事をサークヤが思っているとはつゆ知らず、いよいよ挙動不審に陥るサークヤを見て何か病気ではないのかと心配しだす一同。

 嗚呼哀れなりサークヤ。


 そんな誤解はしばらく後に解消されるのだった。

「全く、俺らがそんな事する筈ないだろうに」

「だ、だって……」

 意気消沈して俯くサークヤに、ため息をつくタリオ。

「仕方がない。今日はこの位にして、鍛冶場に行くか」

「あの……本当に僕が手伝っても良いのでしょうか?」

「見たかったんだろう? どうせ見るなら手伝え。マサ、お前も付いてこい。但しお前は見学だ」

「ええっ! 見るだけ!? 僕も手伝いたい!」

「家の手伝いじゃないんだ。まずは見て覚えろ」

「じゃあ僕も見学ではないんですか?」

 マサが不満を言った後、サークヤが自分も初めてなのだからとタリオに疑問を投げかける。

「サークヤは見たり聞いたりして覚えるよりも実際やってみた方が覚わるようだからな。お前は手伝いからで良い。

 そう言われて疑問に思いながらも、サークヤはマサと一緒に鍛冶場へと向かった。


「おっ! 来たな」

 そこにはテリオとテリオの弟ハル、鍛家のテツが奥で火起こしをしていた。

「この里で刀鍛冶は、大家と鍛家の仕事となる。もちろん里の外では口外禁止だ。守ってもらうぞ」

 真剣な表情でこくりと頷く二人。

「テリオ、出してくれ」

「はいよ」

「あっ! それは……」

 テリオが出したのは、サークヤも見覚えのある物だった。

 里に来るまでも道中でいくつも見たそれは、サークヤが見た事もない量があった。

「サークヤにも拾うのを手伝って貰ったが、鉄を含有した鉱石だ。俺たちはこれを求めて冒険者としてあちこちを回ってたんだ」


 ついでに採れる他の鉱石は売って現金化していたけどなと明かしてくれたが、そちらの方が身銭としては破格なものとなる事もあったので、3人は味をしめてしまったのだろうと推測できる。

「これを熱して打ち延ばし、その中から良質な鉄分を選び出す。それが刀の元だな」

 そう言って火床(ほど)へと鉱石を入れて熱する。

 サークヤはテリオと共に鉄鎚で鉱石を打ち延ばす。

 本来は鉄鎚の振り方ひとつとっても数か月の練習が必要であろうが、里ではそこまでの余裕が無いので行き当たりばったり体で覚えていく。


「言っておくが、これは練習ではないからな。春に里を出るユリの懐刀(ふところかたな)として打つんだ。真剣にやれよ」

 本来、懐刀(ふところかたな)は嫁ぐ際に持たせる物だが、里を一度出ると帰って来なくなる者もいるので、里を出る際に持たせていた。

 特に里の家を継がない者は帰省すること自体少ない。

 テリオ達は鉱石を集めると言う大義名分があっての行動だ。


 しかし、そんな大事な物を自分に打たせて良いのだろうかとサークヤは思いながらも、集中して真剣に打つのだった。




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『カースブレイカー』シリーズ
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