0-32 雪遊び
サークヤは子供たち皆と、里にある緩やかな坂に来ていた。
足にはかんじき、小さな子たちは手ぶらだが、他の子たちは手に先が丸められた竹を二本、サークヤは板の付いた箱状の物を持って。
「ここ? ここでするの?」
「そうだよ、外の人も一緒にしよ!」
「え? 僕、やった事ないよ?」
紬家の次女キヨの問いにサークヤが答える。
「大丈夫、大丈夫。そんなに急な所じゃないから」
キヨの姉サキが振り向きながらサークヤに言う。
「う~ん、自信ないなぁ。上手くできるかな?」
うだうだと渋るサークヤを尻目に子供たちは銘々に遊びだした。
「うひょおおおおお!!」
「いゃっほぉぉぉう!!」
「きゃああああああ!!」ドスン!
そう、子供たちがやっているのはスキーだ。
「ねえねえ、早く! はやく貸しててよぉ!」
そしてサークヤが持ってきたのは小さい子用のソリである。
「じゃぁ、こっちの方でね。あっちはお兄ちゃん、お姉ちゃんたちが滑ってるからね」
おチビちゃんたちからの催促でソリを渡す。
踏み固められていない斜面は、ちょっと転んだだけでは痛くもかゆくもない。
しかし、転べば雪が服の中に入るので冷たい。
だから、皆転ばないように上手に滑ろうとする。
が、所詮手作りの竹スキー。
しかもフカフカな固められてない雪となれば、真っ直ぐに滑るのも中々難しかった。
「うぎゃああああああ!!」
対してソリは軽い子たちが乗っているだけあり曲がる事もしないので、思った以上に勢い良く滑って行く。
大きい子たちは、これで雪上でのスピードに嫌でも慣れたので、儀式とばかりにそれを生暖かく見守るのだった。
「やってるわね」
ザクザクとかんじきで雪を踏む音を立てて近付いて来たのはシーナ。
「あっ! シーナさん! 足はもう良いんですか?」
久し振りに姿を見せたシーナにサークヤが質問する。
「もう! サークヤまで…… 一体何日私を家の中に閉じ込める気?」
シーナが足を痛めて帰ってから6日が経っていた。
「もうウンザリよ。毎日毎日父さんの監視で最初の4日間は部屋からだって録に出られなかったんだから……」
怒ったかと思えば、げっそりとした表情で管を巻くシーナ。
「あれ? 子供たちの勉強は? シーナさんも見てやってるって言ってませんでした?」
里では子供たちの勉強は紬家が担っていた。
知識に関する事はほぼ紬家が絡んでいる。
里に関する決め事も然り。
先のサークヤに対する男衆の決定にしても、事前にタリオが紬家のタカエにお伺いを立てていた。
表向きの里長はテリオの父である大家のタリオだが、裏の長はシーナの祖母で紬家のタカエだったりする。
対等に渡り合えるのはテリオの祖父の喜治郎だけだったが、彼は70歳を過ぎていたので現役を引退して妻テルと共に縁側の主と化していた。
「そうなんだけど、それすら止められたわ。タークが薬塗って足を固めてくれてるから、日常生活は問題ないって言ってたのによ。身体が鈍っちゃうわよ」
シーナの悪態に苦笑するサークヤは、何となくシーナの言う”日常生活”が冒険者レベルなのではと邪推してしまったが、案外正解であった。
そのレベルで動けば完治は遠退くと、父テムが行動を制限していたのだが、娘を心配する親心が暴発してしまい、必要以上にシーナを縛ったのだ。
婿養子として里に入ったテムは可愛い娘たち、今では孫娘たちを愛でる事が最大の娯楽となっていたのだが、久し振りに帰って来たシーナに対して娘LOVEが爆発してしまった結果だった。
シーナもそれが分かっていて、タークに運動を控えるよう言われてた3日間は大人しくテムの言う事を聞いていたのだが、その後も念の為とテムに行動を制限されてしまい今朝それが爆発した。
自宅の中だけは自由になったとはいえ、シーナにしてはかなり我慢した方だ。
「だからって、スキーは駄目ですよ? こんな事したらまた足を捻っちゃいます」
「すきい? 雪すべりの事? まあ、あれは子供の遊びだしね。その忠告は素直に聞いておくわ」
いつものシーナからはまず出ないだろうそんな素直な言葉に、サークヤは驚きの目を向けたが……
「そ、そんな…… シーナ姉ちゃんがサークヤさんの言葉を素直に聞くなんてっ!!」
「はあ? マサ、それってどういう意味?」
竹スキーを担いで坂を登って来ていた大家の長男マサの一言にギロリと睨むシーナさん、あんた怖いよ……
「それはそうとサークヤ、あなたも子供たちの勉強を見てやれない?」
「あ、それは多分無理だと思うよ。タリオ爺ちゃんが朝の稽古が終わった後にサークヤさんを連れていくって言ってたから」
サークヤを先生役として確保しようとしたシーナに、マサがストップをかけた。
「え? マサ君、それってどういう事?」
疑問に思ったサークヤが、首を傾げてマサに問う。
「さあ。出てくる時にタリオ爺ちゃんと父さんが明日の稽古の後で良いか……とか何とか言ってたの聞こえてきただけだから、詳しくは知らないよ……ってシーナ姉ちゃん! 雪板返してっ!!」
それを聞いたサークヤが、里を追い出されるんじゃないかと内心ビクビクする事になるとは、テリオもタリオも知る所ではなかった。
それよりシーナを止めなくても良いのか、と突っ込みたい作者ではある。




