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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
前日譚(第零章) 異界の冒険
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0-29 帰る二人

 夜が明けた頃、目覚めたシーナの隣にいた筈のテリオの姿はなかった。


 目の前には、勢いはないけど消える心配のない状態の焚き火。

 周りを見るとしっかり積もった雪面に無数の足跡。

「えっ! 何これ?」

「起きたか、シーナ」

 木の陰から見知った顔が覗く。

「これはいったい何?」

 まさか第三者が此処まで? と物騒な考えが過るが、争った跡はないし気が付かなかった。

 いくら里に帰って気が抜けているとはいえ、それに気が付かない程寝入っていたとは思えない。

 その疑問にテリオが答える。

「偽装だよ。ずいぶん雪が積もったから、万一の追跡を誤魔化すためのな」

 なるほど、下の道の方向へと2本の足跡を見てとれる。

 これをまだ暗いうちからやっていたとはと呆れ顔で見るシーナ。


「足の痛みはどうだ?」

 聞かれて初めて思い出したように足を動かしてみる。

「……うん、たぶん大丈夫」

「荷物は持てそうか?」

「これなら行けると思うわ。というより、その荷物は?」

 見渡してもその姿が無い。

「ああ、この崖の上だ。雪が積もる前に上げておいた」

 思わぬ追跡を絶つために、この崖を利用しようと……

「そこまでしなくても良いんじゃない? まだ雪は降りそうよ?」

「まぁ、念の為だ。昨日の事もあるしな」

 この念の入れようがテリオたる所だろう。

「どうだ、登れそうか? 駄目なら担いでいくぞ?」

「……遠慮しておくわ」


 その後、焼いた猪肉を食べた二人は洞穴(ほらあな)を後に里へと足を向ける。

 崖は大した事は無く、シーナは無理せず登る事が出来た。

 崖の上から追跡者がいない事を確認して、先に運んでおいた荷物を背負うのだが……

「あら? 私の荷物、減ってない?」

「ああ、そりゃ食ったからな」

 いや、それ以上減ってるでしょうとツッコミを入れようとして止めるシーナ。

 明らかにテリオの背負っている荷物が多くなっていたからだ。

 ふっと笑みを漏らしテリオに付いて行く。


 未だに雪は降り続くが、森の中は枝が遮ってくれるおかげで積もり方は緩やかだ。

 時々テリオが、物を投げて進んできた道の上の雪を落とし、足跡を誤魔化していく。

 時には全く別の方向の雪を落とす念の入れようだ。

 その様子を見たシーナは、長い間里が見つからずにいた理由の一端を知り、感心した。

 こういった里を守る技術は代々大家が受け継いでいる。

 実際、大家の男衆以外では里の者ですら、里の正確な位置を把握してないのだ。

 これは冒険者となったシーナやタークですら自信が持てない位であった。


「……シーナ。ちょっとここで休もう」

 先行していたテリオがシーナの足取りを見ながら言う。

「え? まだ大丈夫よ? 里まであと少しでしょ?」

「いや、お前、少し無理してるだろう」

 実際、シーナは足を庇って歩幅が短くなっていた。

 ドスッと荷物を下ろし、近くにあった倒木の雪を払って座る二人。

 テリオがシーナの足を触って診る。

「うっ」

 わずかに漏れるシーナの悲鳴。

「やっぱりな。お前はこういうのを隠すからな」

 見てみると少し腫れてきていた。

「まったく、やせ我慢も程々にしろよな」


「えっ! ちょっ、ちょっと!」

 テリオはシーナの足に雪を詰めた布を巻いた後、無造作に置いてあった荷物を大きな木の陰に隠すように置き直し、荷物の代わりにシーナを背負った。

「あとはこの峠を越えるだけだ。じっとしてろ」

 雪が無ければ順調に進めば15分程度の近い距離だったが、このまま進めば雪が積もっているうえ足を痛めていればどれだけ掛かる事か。

 尚且つ、痛めた足は悪化する一方だろう。

 荷物は後から取りに来れば良いと、シーナと共に里へと帰るのだった。

「さあ、里が見えてきたぞ」

「ホント、あと少しだったのね」

 顔を隠すようにテリオの背中に抱き付いていたシーナは、少し残念そうに呟いた。


 二人に気付いた仔犬のような青年が、二人の方へと飛んでくるのが見えた。





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