0-27 仔犬みたいな人
本日2話目です。
ご注意ください。
私はマキーヌ・ユリ。
もうじき16歳になる”閉ざされし里”の酪家の長女。
この里では16歳になったら里を出て、結婚相手を探すのが習わし。
私も春になったら、大家の長男テリオさんに町まで連れて行ってもらう予定なの。
周りはまだ早いって言うけれど、皆だって同じ歳の時に里を下りているって聞いたわ。
私だって皆と同じように外の世界を見てみたいの。
里から下りた人は里出身者の家にお世話になって過ごすと聞いているし、お世話になる人は以前里に来て私と会った事のある人と、もう決まっている。
じゃあ皆が心配する事無いじゃない? 全く知らない所じゃないんだし。
私たちの里には余所へ通じる道が無いの。
なので、里以外の人と会った事は殆どない。
いえ、無いと言って良い。
あるのは、里へ嫁いできた薬家のエナンさん、鍛家のイーゼンさん、修家のミリーさん、当時の事は覚えはないけど大家のミューテさん、それと養子で来たマーヴィーさんくらい。
そう、皆、里の人になった人ばかりなの。
もう外の人とは言えない。
そこへテリオさんたちが外の人を連れて帰ってきた。
名をサークヤさんという。
黒髪で細身、顔立ちも整っていている。
初めて来た日は大変だったわ。
何がって、余所の人を初めて見た子供たちが悲鳴を上げながら泣いたから。
そりゃ泣くわよ。
私でも、余所の男の人を見るのがマーヴィーさん以来だったから、サークヤさんを怖く思ったわ。
初めてマーヴィーさんを見た時、私でも逃げ出しそうになったもの。
でも、あの人面白いの。
マサ達が稽古に入れてもらうって言うから皆で見に行った時、前に泣いちゃった子たちが棒でポコスカとあの人を叩いたんだけど、避けもせずおかしな恰好で全部受けてたの。
いやーー! やめてぇぇぇ!! って泣き言を言いながら。
その格好も泣き言も本当に面白かった。
叩いていた子たちもそれ見てスッキリしたらしく、ニコニコして帰って行ったわ。
それからは子供たちがあの人を怖がる事はなくなったし、よく手伝ってくれるから里の人たちにも好評なのよね。
妹のユナなんて”今日の余所者さん”なんて言って何してたかを報告してくるくらいなの。
大家の畑を掘ってて大きなミミズが出てきた時は尻もちついてたとか、牛にエサを与えてたら後ろから頭を食べられそうになってたとか、庭先で鶏に追いかけられてたとか……。
この冬は里にずっといるって言うから、今度は何するのか皆が楽しみにしてるわ。
そういう私も、今日はどんな事をしているんだろうと気になっちゃう。
あれ? あそこにいるのはテリオさんとシーナさんだ。
あの恰好は狩りにでも行くのかな?
あ、そんな事考えてたらあの人発見!
ってすごい勢いで走って行くんだけど!
ああ、あの二人に気付いて走ってったのね。
なんだか尻尾フリフリしてるのが幻視出来そう。
あ、こっちへ来ようとしたのを止められた。
って、あれ? 急にショボーンとしちゃった。
なんだか可愛い仔犬みたいな人ね。
見てるだけでとても面白い。
二人は森に入って行ったけど、あの人はショボーンとしたままこっち歩いてきたわね。
あっそうだ! ちょうどいいわ。
「サークヤさーん! ちょっと手伝ってほしいんですけどー」
手を振って絶賛ショボーン中のあの人を呼ぶ。
「家畜小屋への落ち葉敷きをもう少し増やしたいので手伝って貰えませんか」
「ああ、良いですよ。行きます」
あ、ショボーンがやっと消えた。
気持ちの切り替えが早い人なのね。
二人で家畜小屋の方へ向けて歩き出す。
あ、この人、私の歩速に合わせてくれてる。
ちゃんと回りが見れてる優しい人なんだろうな。
謙虚で誠実だし、優しくて何より可愛い。
それでいて熊を一人で倒しちゃったって言うし……
こんな人が旦那さんになったら良いな~。
私に見つけられるかなぁ。
里の外にはこんな人がたくさんいるのかなぁ。
そんな事を想いながら、あの人と二人で落ち葉をかき集めて小屋へと運んだ。
なんだか楽しいわ。
― * ― * ― * ― * ― * ― * ―
「あれ? お姉ちゃん、何か良い事あった?」
妹のユナが首を傾げて聞いてくる。
「え? 何かって、何もないわよ」
「そう? なんだか嬉しそう……な?」
「あらそう? 今晩のおかずは何かなってね」
あんな楽しかった事、そう簡単には教えないわよ。
「ふうん、なんだか変なお姉ちゃん」
「ふふふふふ」
私とあの人だけ知ってれば良いの。




