0-25 過去の二人
「くそっ! いよいよヤバいな」
一面白くなった森の中に、一筋の足跡が伸びる。
テリオとシーナの足跡だ。
陽も落ち徐々に暗くなってきているにも拘らず、里まではまだかなりの距離があった。
雪がまだ降り続く空を見上げ、テリオが悪態をつく。
「どうする? このまま進むか、どこかで夜が明けるのを待つか……」
「この雪だから、あまりのんびりしてると里への峠が越せなくなるわ」
「そうだな。少し無理をするが、このまま進もう」
雪の深さは15cm位だが、落ち葉の上に降り積もった雪は良く滑る。
二人は充分に気を付けて進んでいたのだったが……。
「えっ! きゃっ!!」
ドサッという音とシーナの悲鳴が上がった。
「シーナ!」
いたたた、と腰をさするシーナ。
足元を見ると、隠れていた木の根に足を取られたらしいと分かる。
「大丈夫か? シーナ」
「ええ、大丈夫……痛っ!」
立とうとしたシーナが足を庇うように座り込んでしまった。
足を捻ったようだ。
「それではこのまま進むのは無理そうだな」
テリオは少し考えてから「この先に洞穴があったはず」と一旦荷物を置いてシーナを導く。
「此処なら雪を凌げるだろう。夜が明けるまでここで休もう」
そう言ってテリオは、薪の準備をしてから置いてきた荷物を取りに行った。
雪で火が点き難かったが、そこは慣れたもので二人には問題とはならない。
むしろタークがいないので、薬が無く翌朝までにシーナの足の痛みが引くのかの方が問題だった。
「ごめんなさい、テリオ」
「いや、誰のせいでもないさ。運が悪かっただけだ。
そう言いながら、狩った子猪を捌いて焼く。
獲物が無ければヤバかったなと、軽装で出た事を反省する。
シーナの足は腫れてはいなかったが、念のため布に包んだ雪で冷やす。
「どうだ、まだ痛むか?」
「いいえ、大丈夫よ。まぁ動かなければの話だけどね」
それは"動けば大丈夫ではない"事を意味する。
そんな事は二人共承知の上だ。
「明日の朝まで痛みが残らなければ良いんだがな」
「その時はテリオだけ先に里に戻って。私は此処で待つわ」
「却下だ!!」
プンプンと似合わない素振りで即断するテリオ。
「その時は荷物を置いていってでもシーナを優先する」
きゃー! テリオさんったら男前~!!
「っ!!!!!」
あらあらあら~? シーナさんったら顔真っ赤ですよ~!
「なぁシーナ。優先順位を間違えるなよ。最優先なのはシーナ、お前だ。猪の肉なんかではない」
「そう言われると、何だか私と猪の肉が同列で語られているみたいね」
余りにも当たり前の事を言われて、自分の提案の愚かさに気付き苦笑するシーナ。
対して大真面目な顔のテリオ。
そういえば、二人で行動するのはタークが加わって以来ね、と思い出す。
里では16歳を越えたら里から出られる。
結婚相手を探す為だ。
ちょうど絡家(ホゥスカー分家)の長女ユリがこの冬に16歳になり、春になったらテリオたちに付いて里を出る予定である。
里から連れ出すのは、里の外に住んでいる大屋出身の者の役目である。
大家出身の者が里まで迎えに行き、連れ出すのが習わしだ。
結婚相手を連れて戻る里の者を案内するのも、同じく大家出身者の役目だ。
これは里と外との繋がりを絶やさない為であり、万一大屋の者の身に何かあった場合はその出身者が跡を継ぐ事で大屋の血を絶やさない為の予防策でもあった。
本来は里の外にいるはずのテリオの弟ハルがその役目である筈だが、外へ出てそのまま冒険者に転向してしまって里へ帰らないテリオがその役を担っていた。
「ねえテリオ、私が初めて里を出た時の事、覚えてる?」
― * ― * ― * ― * ― * ― * ―
シーナが16歳で里を出る時、その案内役は当時22歳のテリオだった。
同じ歳で一緒に里を出たタークの兄トキヤは里に近い町で嫁探しする事を決めたが、シーナは別の場所を求めてテリオに付いて行く内に1年半掛かって国内を一周してしまい、その春に16歳で里を出るタークと共に再度里を出た。
シーナ最初の一周目の時はシーナの嫁ぎ先探しという事で、立ち寄る村や町では充分時間を掛け、嫁入り前のシーナを傷物にするまいとテリオが奮闘した。
1年半もの月日を掛けて国内を一周したのだが、本来はゆっくり行っても1年も掛からず一周できてしう。
時には村長の孫に気に入られるが里と変わらぬ生活が気に入らなく、時には町一番の商家に気に入られたものの家から一歩も出ない生活が嫌だと断り……。
そんな事が幾度も繰り返されたが、テリオはそれを根気よく静かに見守った。
元々体を動かす事の好きなシーナは薙刀の腕も里随一を誇っていた為、普通の生活では飽き足らず理想がとんでもなく高い物となっている事に二人は気付いていなかった。
国内を1周して里に戻る途中で合流した姉レイには呆れられてしまった。
レイはシーナの前年、テリオに里から出してもらい、目出度く婿養子マーヴィーを連れて里へ帰る所だった。
だって良い人がいなかったんだもん! というシーナに、レイは本気で探す気ないでしょ? と、帰りは賑やかな道中となり男性陣を呆れさせたのだった。




