0-23 獲物と不埒者
テリオとシーナはその言葉に、うへぇと渋面をお互いに曝した。
渋々と、その声がした方向に顔を向ける。
そこには決して綺麗とは言い難い男たち五人が弓や剣を手にし、此方へ歩いて来ていた。
「その獲物を置いて、とっとと失せな」
左端の小柄な男が、叫ぶように言う。
「何故そうなる。これは俺たちが仕留めた獲物だ」
そうテリオが応じるが……
「此処は俺達の縄張りだ。だからその獲物は俺達の物だ」
右端の毛むくじゃらの男が、そう言うと五人揃ってニヤリと似合いもしない笑みを浮かべる。
「ふん、お前らが飼っていた訳でもなければ、此処が竜の縄張りって訳でもないだろう。話にならんな」
「つべこべ言わずに置いて失せろ! 何ならそっちの女を置いてっても良いぞ?」
真ん中の下っ腹の出た中年男が、シーナを穢らわしい笑みで見上げると、渋面を深めたテリオが明らかな拒否反応を示したシーナを後ろへ庇う。
「何だ、こいつはおめぇのオンナかぁ?」
ぎゃはははと笑う男達。
いい加減ブチ切れても良いと思う。
「テリオ!」
「分かっている、シーナ」
テリオが刀を抜き、シーナは薙刀を構えた。
ホゥスカー家の女は代々、里の伝承と共に薙刀術を受け継いで来た。
特にシーナのそれは、500年続くホゥスカー家歴代の中でもトップクラスであった。
視線は男達……ではなく、その斜め後ろ。
「な、何だ! やろうっていうのか?」
男達が後退りするが……
「おい、そっちは危ないぞ?」
テリオが注意を促す。
「ああ? 何言ってやがる! 2対5だぞ?」
中年男が息を荒げるが……
「あ、兄貴……後ろ」
「ああん? 後ろが何だ!」
「後ろ、後ろ!」
「後ろ? 何だって言う……ん……え?」
やっと後ろの状況を知ったようだ。
「お、狼の群れ……だと?」
テリオたちは既に臨戦体勢を整えている。
しかし男達は、その脅威に震えて構える事さえ忘れたように立ち尽くす。
「死にたくなかったら、戦うか後ろで隠れていろ!」
お人好しテリオであった。
狼たちがじわりじわりと囲んでくる。
どうやら二人の狩った猪の血の匂いに釣られたらしい。
横へと広がる狼たちに対し、震える男達を真ん中にして正面をテリオ、反対側をシーナが、武器を構える。
ふと何かが音を立てたのを合図に、狼たちが一斉に襲い掛かる。
もう駄目だ! とばかりに男達が身を竦めるが、しかし。
テリオとシーナが、それぞれ己の相棒で一閃。
前の狼が3頭、後ろの狼が2頭。
ドサリと屍を曝す。
返す刀でもう一閃。
テリオは2頭、シーナも2頭を更に仕留める。
残り2頭。
更にそれぞれ左に一歩踏み込んで、残るそれらを1頭づつ仕留めた。
これはいつもタークを真ん中にして取る戦法だった。
無論タークも見ているだけでなく、短剣で迎撃する。
そもそもタークの場合、そうなる以前に何かしらの仕掛けで近付く事さえ許さないのだが。
今、真ん中で震え上がっている汚い男達とは違うのだ。
「これだけか?」
「見える範囲にはいないわね」
「あと3頭バラバラに来られたらコイツらがヤバかったな」
「そうね、五体満足で帰れなかったかもね」
「「「「「ひぃぃぃぃっ」」」」」
意趣返しは怠らない二人だったが、キッチリと助けてはお釣りどころの話ではないと思う。
「こんな所に狼の群れが出るとはな」
「そうねぇ。家の方に来なければ良いけど」
二人とも、人の前では”里”とは言わないのは、流石である。
「お前ら、狼について何か知らないか?」
「「「「「ひぃぃぃぃ」」」」」
お話しすら出来ませんでした。
「い、いや、何もしないから」
やんわりと言うテリオ。
「で? この辺りの害獣情報は?」
男達が顔を見合わせる。
「さ、最近、すぐ近くの村の家畜が狼10頭前後に襲われたと聞いた。コイツらの仕業かも」
フム、と考え込むテリオ。
「他には?」
「鹿が増えていたが、周辺の村の狩人が力を合わせて数を減らしたって言ってたな。他には猿の群れが以前、この辺りの作物を荒らしてたが、もう随分南下して行ったらしい」
更に別の男が付け足した。
「この辺りではないけど、ずっと西の村にかなり大きい熊が出たと聞いた。けど、それを一人で倒した奴がいるって……もしかしてお前たちなのか?」
テリオとシーナは顔を見合わせた。
「いいえ、私達ではないわよ」
まあ、この二人ではないので間違ってはないが、シーナさん? その含み笑いは怖いよ?
顔を引き攣らしてそのくらいかな、と言う中年男。
「なら、この冬は大丈夫かな?」
「そうね。ひとまずは安心して良いのかしら」
テリオとシーナは情報を聞いて納得し、里に帰る事にした。
「じゃあ、この狼は全部あんたらにあげるから、代わりに猪は俺たちが貰って行くな」
「ええっ! そんなぁ!」
「何か問題があるの?」
「「「「「いいえ、ありません!」」」」」
そもそも全部テリオとシーナが狩った獲物なので、文句の一つもあるはずがないのだが……
それに加え、ここにいる全員が、狼の肉は上手くない事を知っていたのだった。




