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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
前日譚(第零章) 異界の冒険
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0-21 里の冬支度

本日夜にもう一話投稿します。

 

 雪が降った。


 例年より半月ほど早い初雪だ。

 積もるほどでは無かったが、いよいよ本格的な冬の到来を告げる。

 そうなれば、1週間後に予定していた冬支度を急がねばなるまい。

 里の皆は皆、忙しそうにそれぞれの仕事に精を出す。



 最も急ぐ必要のあるのは修家(マキーヌ分家)のオサムだろう。

 各家を回って、家や雪囲いの痛みの点検・修理をするのが里での役割だ。

 OKの出たところから各家の者が雪囲いの設置をしていく。

 家の雪囲いが設置し終えたら、果樹等の木の雪囲いだ。

 他に家畜小屋への雪囲いや落ち葉敷き。

 家畜小屋の中で火を焚くわけにはいかないので、これで凌いでもらう。

 範囲が広いので鍛家(サクーム分家)が中心に手伝う。


 サークヤも精力的に手伝う。

 鍛家のテツに付いて各家の雪囲いの点検・修理をして歩いた。

「ココとココが緩んでいる。サークヤ、直せるか?」

「はい、大丈夫です」

 コンコンと緩みを叩いて補強の釘を打つ。

 うん、こんなもんで大丈夫だろう。

 そう思って後ろを見ると、修家オサムの妻ハーファと幼子ミユがそれを受け取ろうと待ち構えていた。


 最初の宴の時に、サークヤを見て大泣きした子の一人だ。

 サークヤは手にした雪囲いの大きさを見て、ハーファに目配せをしてミユと向かい合った。

「ミユちゃん、これをママと一緒に持って行って欲しいんだけど、持てるかな?」

 小さなものだったけど、幼子一人では怪しかったので二人で持ってもらうよう促す。

「うんっ!」

 すると、満面の笑顔でそれをハーファと一緒に持って取り付けに向かった。

 サークヤはその笑顔を見て、ほっとした。

 ミユは稽古の時に棒でサークヤを叩いた事で、以前泣かされた事を清算していたとは、サークヤは当然気が付いていなかったのだった。



 同じく薬家(マキーヌ家)も忙しい。

 冬に使う炭作りが里での担当だ。

 少し前から作り出していたのだが、炭作りの窯に火を入れたら数日間は付きっきりで火の番をしなくてはいけない。

 三勤交代体制だ。

 これは里の男衆全員が交代で手伝うが、夜間番に当たると翌日は役に立たなくなるので、計画的に行う必要がある。

 なので夜間番は主に他への影響の少ない薬家の担当だ。


 炭作りの副産物として、木酢液がある。

 除菌作用があるほか、風呂に混ぜると体の垢が取れやすくなり、体も温まる。

 冬場に風呂に使うといつまでも体が冷めないので、里では必需品となっている。

 体が冷えては寝るに寝られないからね。



 手の空いた者は薪割だ。

 炭も作るが、部屋の暖を取ったり風呂を沸かしたりには薪が良い。

 6軒分になると薪の量も結構必要だ。

 嵐等で倒れた木がたくさん取ってある。

 足りない時の為に切り倒した木も保管してある。

 しこたま割って行くのみだ。

 重労働である。



 別の者も手が空けば、次の仕事に向かう。

 里の中に張り巡らした水路の手入れだ。

 本来は修家の担当だが、手が空いていれば女だろうが誰でもやる。

 助け合いは里で生きていく為の知恵だ。

 水路は途中に設けた昔ながらの濾過装置を中心に綺麗にしてゆく。

 丁寧に掃除した上で蓋をキッチリ閉めていく。

 そうするのは、雪が積もれば簡単には開けられないからだ。

 土砂などが入り込めば里中の水源が駄目になる。

 それに、蓋をしないと何処に水路があるか分からないから水路に落ちる事故が起き兼ねない。

 下水側も然り。



 大家のテリオとタリオは二人で近場の森を見回っていた。

 外敵から里を守るのが大家の役割である。

 里の周りの中・大物の獣は、普段から狩るか追い払ってある。

 今は迷い込んだ獣がいないかを見て回っていた。

 冬眠前の獣は、餌を探して時として思いもしない場所に現れる事がある。

 万が一にでも、里に中・大物の獣が入ってくる事は許されないのだ。


「何かあったか? テリオ」

「いや、何もない。平和なもんだな」

「念のための見回りだ。見逃すなよ?」

「ああ……。なあ親父、サークヤの事だけどな」

 テリオが何か考えながら、タリオに声を掛ける。

「ん? サークヤがどうした?」


「あいつをこの里に連れてきて良かったのかと思ってな」

「サークヤなら問題無かろう。礼儀正しくて、里の者の手本になっているくらいだ」

「いや、そうじゃなくてな。この里に連れてくる事が、サークヤにとって良かったのかと……な」

「サークヤにとって、か?」

 少し怪訝な顔をするタリオ。

「サークヤなら、どこに行っても受け入れられるだろう。この里でない方が楽に生きていける気がしてな」

「何だ、そんな事を考えていたのか。あいつは、お前たちに付いてくる事を選んだ。そういう事なんじゃないか?」

「う~ん、そうなんだろうか。わざわざ困難な道を選んでいるようにしか思えないんだが」

「まあ、そんなに深くは考えてはいないだろうな、サークヤは」

「そうなんだよなぁ、深く考えているようには見えない……」


 そう、サークヤは当初、直感でテリオ達に付いて行く事を選んだが、その後はただ流されるままだった。

 それは今後も恐らく変わらないだろう。

 ただ、サークヤはこの里に来て良かったとは思っているようだ。

 異世界で日本に近い場所があり、元日本人の子孫に巡り合えたのだから。

 そしてそれがサークヤにとって決して悪い事ではなかったのだから。


 世の中、同郷の人間との出会いが全て良いとは言えない……そう、たとえば首都(ティナ)の”道具屋の居候”と”勇者と呼ばれた者たち”との様な。


「まぁ、何か思う所があれば相談してくるだろう。それまで様子見で良いと思うぞ?」

 タリオが力を抜いて、そう言う。

 テリオもまた、肩を竦めてそれしかないか、と諦めの声を出す。

「よし、周囲に異常なしだな。里に戻ろう。夕方から炭焼きの火の番だ」


 こうして里の冬支度は進んでいくのであった。





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