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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
前日譚(第零章) 異界の冒険
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0-18 大屋の役割

本日2話目です。

ご注意ください。


 ハッ! 八ッ! ハッ! ハッ!」


 ヒュッヒュッヒュッヒュッ

 サークヤは朝から日課の稽古をしていた。

 いつも通り、テリオと共に剣を振る。

 出会った頃とは見違える程の素振りの力強さが見てとれる。


「少し剣を交えてみるか?」

「は、はい!」

 対面して剣と刀を合わせる。

 どちらも目を逸らさない。

 静かな間が空いた後にキンッと金属同士の弾く音が響き渡る。

 右で交わり、左で音を鳴らす。

 まるで予定調和のような動きは、実はサークヤの動きにテリオが反応して打ち返していたのだった。


 キンッキンッと音が響く中、それをじっと見ていた人物がいた。

「ふむ、なかなか面白い太刀筋を持っているんだな」

 テリオの父、タリオだった。

「テリオ、俺に代われ」

「はあ? 何を言っているんだ? 親父!」

「俺も剣を受けたくなった。つべこべ言うな。サークヤ、構えろ」

「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ。……はい!」

 息を整えたサークヤが剣を構える。

 それに合わせてタリオも刀を構えた。

 タリオの構えはテリオとよく似たものだった。

 だが。


「さぁ、打ってこい」

 ヒュッキンッ、ヒュッキンッ、ヒュキンッ、ヒュッ、キンッ

 サークヤがあれ? と思う。

 テリオの時はリズム良く打てていたのだが、タリオとはそのリズムがズレる。

「おかしく感じるか? ズラしているからな。さて、ぼちぼち本気でやらないと知らないぞ?」

 えっ? と思ったと同時に……


 ヒュキンッヒュキンッヒュキンッヒュキンッ

 明らかに剣を止められるタイミングが速まった。

 言われた通り、本気でやらないと不味い。

 そう思って剣を速めたのだが……

 キンッキンッキンッキンッ


 剣を振る間も無く止められた。

「サークヤは動きが単純で単調過ぎる。もっと相手を見て、相手を知り、相手の動きを読むのだ」

 サークヤは剣を打つ前に全て動きを止められていたのだ。

 テリオもそれを見て、あの域まで達していない、自分もまだまだだと思うのだった。


「相手の剣を見るのではなく、筋肉の動きを読むのだ。お前が相手にするのは人ではなく、害獣なのであろう」

 サークヤがコクりと頷く。

 人を敵とするなんて冗談じゃない! 自分が助かるためよりも人を助けたいのだ!

 サークヤがそう心に誓い、また剣を構えた。

 その目は鋭く光り、前を向いていた。

 その目を見たタリオは満足そうにニヤリとし、刀を構えた。

 昼飯に呼びに来たタリオの妻テナは、ぶっ倒れる寸前まで剣を振るうサークヤの姿を見るのだった。


 テリオの家は里では大屋(おおや)と呼ばれ、剣士一家であり刀工を兼ねていた。

 この里を守る役目だ。

 この世界に飛ばされてきた初代が武士であったのだが、一緒に飛ばされてきた他の二人は刀に関しては素人だった為、武器の確保をするのに刀工を極めるのもまた必須となった。


 武士であり刀工では無かった初代は当初、竜討伐で傷んだ刀の代わりを手にいれる為に刀打ちを始めたのだが、子や孫に伝授する為にも必要と思い、研究し努力した。

 元々、近くの刀匠の仕事を見るのが好きで、隠れて覗いていたのもあり、使う道具や手順等は知っていた。

 あとはこの世界の材料で、それを再現する事であった……のだが、材料等が入手困難であり、子や孫を巻き込みながら生涯を閉じる直前に漸く成功を収めたのだった。

 子孫は自分たちも苦労して成したその技術を大切にし、代々研究を惜しまなかったという。

 剣術も然りだ。

 今では刀工技術は、大家(おおや)と分家の鍛家(たんや)がそれを受け継いでいる。


「明日から俺が稽古を付けてやろう。テリオは畑に行け」

 里では全世帯が田んぼ畑作業は必須だった、年中忙しいのだ。

「自分が楽しみたいだけだろ! 親父!」


 タリオの目は爛々としていた。

 ご愁傷様、サークヤ。




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『カースブレイカー』シリーズ
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