0-16 飛ばされた者
サークヤは、その聞き慣れた単語を聞いて唾を飲み込む。
まさか、と思うと同時に、やはり、とも思う。
サークヤは、この里が見えた時に確信していた。
そう、見えたのは日本の元風景そのものだったからだ。
山の合間に小川が流れ、田んぼの中にポツポツある住居は藁葺き屋根。
道を歩く人は着物そのものと言って良い物だった、チョンマゲは流石に居なかったが。
「どうだい? 昔話を含めて信じる気になったかい? 今、この事を知るのは我がホゥスカー家直系の女のみさ。他のサクーム、マーキヌ両家の者どもは信じておらぬからな」
そのれを聞いていたサークヤが、ある事にも気付く。
「もしかして、姓の名って、日本の苗字じゃないんですか?」
「なんだと? どういう事だ?」
「その古文書って、見せて頂けませんか」
「そう易々とは出せんな。里の者でも見た者は少ない」
「そうですか…… もしかしたら本来の名前が訛って伝わっているのかも、と思ったので」
「ふむ、有りうるか」
サークヤは更に質問する。
「何故、この話を僕に?」
タカエとレイが顔を見合わす。
「あれだけこの里の風習を知っていて、この里に無関係ですでは説明がつかんわ」
「風習?」
タカエがため息を吐いて説明する。
「まず、挨拶。あれ程丁寧なのは私の祖母以来だった。それに正座。今や里の者でも嫌がる。更に箸使い。里の者以外ではよう使えないだろう」
まだまだあるぞと捲し立てるタカエ。
食前のいただきますや食後のごちそうさま、三角食べ、迷い箸をしない、皿を持って食べる等々、昨夕の宴だけでもいくつでも挙がる。
どうやらサークヤが祖父に躾けられ、無意識で取っていた行動のひとつひとつが、この世界では馴染みの無いものだったようだ。
「まあそれ以前に、あの3人が連れて来た人間だ。間違いあるまい」
里の者は皆、3人を信じていた。
3人のうち、誰か一人でも躊躇しようものなら連れて来ない。
その者が力を欲しない、欲したとしても悪い事には使わない。
そう判断され認められなければ、この里に案内どころか存在すら知らされない。
今までもそうだったし、これからもそうだろう。
3人の見る目を、里の者は疑う事など無いのだ。
それらが積み重なり、気に入られ、即、宴が行われ、この話し合いにも繋がった。
サークヤは里の人達に既に受け入れられていたのだ。
それを感じ取ったサークヤは、迷いなく自分に起こった事を話す事にした。
日本からこの国に飛ばされ、テリオたちに助けられ、そのまま旅に同行し、修行を受け、この里へ招かれた。
「そうか、お主自身が”飛ばされた者”だったとはな。よく話してくれた。これで先祖の話が作り物では無いと証明されたようなものだな」
「気になっていたんですけど、祖先たちと仰っていたんですが…… 一人ではなかったんですか?」
「ああ、そこを話してなかったか。飛ばされた我等の祖先たちは3人だったようだ。里の三軒が直系に当たる。残りの三軒は分家だな。お主を連れて来た3人は、それぞれ直系の出だよ」
まさか3人が、過去に異世界転移した者達の直系の子孫だったとは。
「その祖先たちがどんな人物だったのかまでは、読み解く事は出来ていないが、ね」
古文書をサークヤが見ればもしかしたら分かるかもしれない。
が、無理を言って見せてもらうまでの気は起らなかった。
「で、ニッポンとは何処にある国なんだい?」
そう、サークヤはここに来てから異世界という単語を口にしていない。
当初、テリオ達にも日本から来たとは言っているが、それが自分達も知らないこの世界の中の場所だと思っているようだ。
サークヤは言おうか一瞬だけ迷い、決断する。
「日本は……おそらくこの世界には存在しません」




