0-10 村の宴
その晩は、村総出の宴となった。
総出と言っても10軒あるかないかの、村というよりは集落なので大きなものではない。
村の中央に火を焚き、仕留めた熊の他、さまざまな山の幸、村で出来た野菜や米料理、酒がふんだんに振る舞われた。
テリオ達が採ってきた物も提供された。
「小僧、食っとるかの?」
「あ、はい、タンナさん。頂いてます」
「たあんと食っておくれよ。村を救った英雄なんだからさ」
「英雄だなんて……」
「何言ってんだい。あのままじゃ、村は全滅さね。それを救ったんだよ、あんたは」
自分から飛び込んだとはいえ、ただただ必死だった。
そんなに感謝されるような事をしたつもりはない。
だが、村人の気持ちも十分に分かった。
今までの自分であれば、助けられる側だったのだ。
それが、何故か助けた側になっている。
そこに戸惑っているのだ、僕はそんなに強くはない、と。
「アンタは誇って良いんだよ。それだけの事をしたんだから」
タンナはとても優しい顔で言った。
「まったく、もうちょっと自信を持てっていうの。どれだけ俺の稽古を受けたと思ってんだよ」
「気が弱いのは相変わらずなのね。そこは改めないと、もっと強くはなれないわよ」
テリオさんとシーナさんが声を掛けてくる。
「まだ早いと思ってたけど、何とかしちまうんだもんな。お前って奴は」
「ホント、いつの間にかってやつね」
なぜ突然、これほどの力を出せたのか、それは……
この世界へ来てから、1日とて休まず稽古は行われた。
そして、実戦も幾度となく経験している。
これが何を意味するか。
おそらく、中学部活動の2~3年間の経験分に相当するのではないだろうか。
その濃密な内容を経験者が、スポーツのそれから対害獣討伐技術の指導に切り替えて受けたらどうなるか……
そう、元々中学と高校をスポーツとしての剣道を経験しているのだ。
当時は強くなかったかもしれないが、基本は齧っている。
しかも今、指導するのは数少ない冒険者の中でも中堅どころかトップクラスのテリオであった、本人は否定しているが。
テリオも、向上心が無ければ腕は鈍ってしまうので、慢心せずに精進しているのだ。
「でも僕、そんなに強くは無いと思うんですけど」
「これだからこの子は……」
「自信の無さもまた、強さの妨げになる典型的な例だね。まったく」
「あのなぁサークヤ、お前、熊と戦っている最中に、ああ、これは死ぬわって、ちょっとでも思ったか?」
「そういえば……しまったとか、マズいとかは思いましたけど、死ぬとかは思いませんでした」
「ほらみろ。思わなかったって事は、それだけ相手より力があったって事だよ」
「そう……なんですか?」
「力量を計れず死ぬ奴もいるがな。それより何だ、トドメを刺さずに動きを止めたそうじゃないか! それこそ死ぬぞ!」
「まあまあ、その辺にしておいてやりな。今夜は宴だ。存分に飲んで食うぞ! あやつのようにな!」
タンナが笑いながら指差す先には、村の男衆と共にべろんべろんに酔っ払っているタークの姿があった。
「それにしても、ウチの男衆はだらしがないねえ。へっぴり腰で鍬構えてただけだったからの」
「それこそその辺にしておいてやれよ。かなり大きな熊だったんだし、時間稼ぎしてくれてたんだろ?」
「……ふん!」
「食べとるかのぉ」
「タケさん。はい、美味しいですよ、どれもこれも」
「おお、そりゃ良かった。色々とあんがとさんね。ホント助かったよ」
ニッコリと笑うタケさんは本当に嬉しそうだった。
この夜、この村では珍しく夜遅くまで笑い声が絶えなかった。




