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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
前日譚(第零章) 異界の冒険
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0-7 故郷を想う

 

「こんにちは、いるか?」


 村に入り、以前にも場所を借りたという村人の家に伺う。

「あいよ、なんだい? って、あんたらかい。久しいねぇ。元気そうで何よりだ」

「ああ、タンナさんも元気そうだな。村の人達も元気か?」

「まあ、皆相変わらず元気とは言えないが、何とかやっとるさね。また山に登るんか?」

「明日の朝から登るつもりだ。薬草を取りに」


「今年はちょっと危ないよ、どうやら熊が居座っちまったようでな。村人も近寄れねぇ。お陰でいつもよか薬草は残っているかも知れんがな」

 熊を狩ってくれれば、それに越した事は無いがな、とタンナさんは笑う。

「熊か。巣を作っちまったんかな。どうする?」

「ここまで来といて諦めるなん、あらぁすか!」

「まあ、そうね。熊なら何とかなるだろうしね」

 と言いつつ、3人がサークヤに目を向ける。


「お前はここに残れ!」

「えっ?」

「サークヤは熊におうたら、あんばようできるんかや?」

「そ、それは……」

「そうね、サークヤにはまだ早いでしょうね。熊は」

「俺達なら、熊に遭遇しても夕方までには戻れる。今回は待っていろ」

 サークヤは自分の力量の無さを自覚している。

 まあ、それは3人と比べてだが。


「分かりました。代わりに何かやっておく事はありますか?」

「「「う~ん……」」」

 3人とも手を顎に宛がって考えだした。

「それなら、村の人達を手伝ってやってくれんかの」

 それを見ていたタンナが声を掛けた。

「……サークヤ、それでも良いか?」

 サークヤは頷いて答える。

「よし、決まりだな! タンナさん、また場所借りて良いか?」

「良いも何も、はじめからそのつもりだろうに。まったく」

「晩飯、俺達が作るからな」

「あいよ、期待せずに待っとくよ」


 小屋の中の一画に荷物を下ろして、熊肉の燻製や兎肉、鳥肉、木の実、菜葉等を出す。

 木の実をすり潰すのは最近のサークヤの仕事である。

 そういった地味な仕事は積極的にやるようにしていた。

 小動物を捌くのも最近は随分慣れてきた。

 やはり、体で覚えるのが一番である。

 以前の世界での営業の仕事を考えれば、驚くほど覚えが早かった。

 それはそうだ、体を動かさずに頭だけで(・・・・)覚えようとしていたのだから。

 作者も覚えが悪いのは、ここだけの話にしておいて欲しい。


「うまいねぇ、コレ。でも、老いた体には脂っこいんだよねぇ」

 鳥肉を頬張りながら、片手に熊肉、片手に兎肉をつかみ、山盛りの肉炒めを皿に盛り付けている人のいう言葉ではない。

「で、この小僧は?」

「そういやあ、紹介してなかったな。サークヤだ。ひと月程前に拾った」

「拾ったって……仔犬じゃあるまいし」

「いんや、わんこよかでらかわええて。テリオなんサークヤの覚えがええからって、かまいすぎる」

「そうそう、テリオのお気に入りよね。毎朝飽きもせず稽古つけてるわ」

「おやまあ、そんなにかい? よっぽどなんだねえ」

「おいおい、お気に入りって……いじめてないし!」

「あたしゃには、借りて来た猫にしか見えないがねえ」

 完全に置いてきぼりのサークヤであった。

 その晩は小屋に寝れるとあって、見張りを立てず皆ぐっすりと寝ることが出来た。


 翌朝、タンナから3人が出発する際に包みを渡す。

「おっ! タンナさんの握り飯か。美味いんだよなコレ」

「タンナさん、おおきに」

「楽しみだわ。タンナさん、ありがとう」

 この村には田んぼがあった。

 村人が自給自足するためで、他に畑もある。

 小さな村は所々あるが、買い物の出来る町は結構離れているからだ。

 徒歩で回れる距離の村の間では、物々交換で助け合っている。

 中には米が充分に取れなくて、山の恵みや狩った獣で物々交換に応じて貰っていた。


「さて、じゃあ行ってくる。サークヤは手伝いの方をよろしくな」

「はい、気を付けて」

 余分な荷物は置いていくので身軽な状態だ、三人とも早々に視界から消えて行った。

「んじゃ、手伝って貰おうかね。タケさんとこの旦那が腰をやっちまってね。畑をやってあげておくれ」

 鍬を持って坂を下って行く。

 タケさんと呼ばれる年配の女性と共に畑へ赴き、鍬で土を掘り起こした。

「おうおう、あんがとさんね。冬野菜の種を蒔く時期だったんで、助かるわ」

 次々と畝を立てて、さまざまな種を植えていく。

 周りを見れば、同じように鍬を振るう村人があちこちに見えた。

「ぼちぼち、お昼にしようかね。手を休めてこっちにおいで」

 少し汗ばんだ額をぬぐい、あぜ道に腰掛けると、三人に渡した包みと同じものを渡された。

 包みを開けると三角のおにぎりが並んでいる。

 ふと、以前の世界ではおにぎりは日本独特の文化だと聞いたのを思い出した。

 外国の米ではうまく握れないらしい。

 おにぎりを手に持ち、ここの米が日本のそれに近い物なのかもと思いを馳せた。


 おにぎりを一口ほおばると懐かしさで胸がいっぱいになる。

「なんだい? 泣けるほど美味かったかい?」

 カカカと笑うタンナさんとタケさん。


 そっと頬を撫でる風が心地良かった。




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