3-8 近所に本物(?)の勇者が引っ越してきたようです
急に大勢の大人たちに囲まれるサーちゃんとミーちゃん。
チビッ子姉妹がいっぺんに増えた”記憶に残ってない人たち”に囲まれてビクゥとしていたが、すぐに打ち解けてラーナさんとシーナさんの膝の上にちょこんと座る。
店の奥には、普段は4人(+1名)が暮らしているケーブさんの住まいがあるのだが、大勢が来ても良いだけの広さを誇る。
二階には客用の寝室も用意されているのだ。
稀にだが、宿に困っている冒険者たちに寝床を提供する事もあるからだ。
それで何か問題でも起こそうものなら、周りの冒険者たちが許さない、世界の果てまで追い詰める。
そういう仕組みがあるので今まで何一つ問題が起きた事は無い、安心してその場を提供できる。
それぞれ、初対面同士の者も多いので、自己紹介をしていく。
「んじゃ、まずは俺たちだな。ここサリオースの店長でケーブ・サグリーだ。こっちが妻のサリ、子供たちのサーリャとミーリャだ。以後よろしく」
おっと、紹介が足りないぞ?
「えっと、ケーブさんに拾われて此処で働いているユーキです」
ぺこりと頭を下げる。
続いて一団のリーダーが紹介する。
「俺が代表のテリオ・サクームだ。冒険者、剣士ってやつだ。こっちがターク・マキーヌ、薬師だな」
気を付けろ?こいつは策士でもあるからなとおちゃらける。
「そしてこっちがシーナ・ホゥスカー、弓と槍が得意だ。料理担当でもある」
リサさんと気が合いそうだ。
「それから、そっちがサークヤ、剣士だ。1年と少し前に保護して仲間になった」
俺はずっと気になっていた。
その黒髪が。
そして驚愕する。
保護された時期が同じ事に。
どうやら向こうもそうだったようで、ずっとこちらを驚いた顔で見ている。
「最後に、あっちのがテンだ。立ち寄った村から勝手に付いてきてポーターをしてくれてる。投剣を投げさせたら中々の腕だ」
そんな紹介をされて目を剥いたテンは、にへらと笑い頭を掻いていた。
初めて凄腕と言われたのだろう。
「では、私たちですね。術館テイオーテの術師、アイーナ・スズタークと、同じく術師のラーナ・シームです」
ぺこりと頭を下げる。
なんとなく場違いでもある二人だが、先ほどの鉱石の事もあるので仕方ないであろう。
一通り、自己紹介が終わったところで、やはりテリオさんの怪我が皆の注目を集める事となる。
「ああ、この怪我か。少し前にこの鉱石を見つけた後、近くの村に寄ったんだがな……」
少し言い辛い事なのであろう、躊躇していると横から助け舟を出すシーナさん。
「その村には誰もいなくて、ウロウロいているところに”竜”が降りてきて……ね」
…………
一同、まさかの展開に言葉を失う。
おいおい、まさか。
みんなも、そのまさかを疑わざるを得ない表情で固まるが、ケーブさんがその静寂を破る。
「まさかとは思うが、お前らがその”竜”を?」
暫く俯く一団だったが、観念したかのようにテリオが頷く。
「……ああ、”竜”を討ったのは……俺たちだ。この怪我は……その時のだ」
サークヤが俺を救ってくれたのだと空笑いをする。
なんてこった!
まさかの竜殺しだよ!
本人たちだよ!
噂どころの話じゃないよ!
「政府に報告に行ったんだがな、混乱しててどうにも要領が得なくてな。大雑把な話だけして、医者に治療を受けに行った後、滞在費も馬鹿にならないからと家を買おうとしたんだけど、その前に首都の役所に寄ったら、知事室に通されてトントン拍子で此処の近くに屋敷を用意されてな」
苦笑いをし説明してくれる。
ああ、そういえば、現大統領は動かない事で有名、対して現知事は元王族で優秀だって聞いた事がある。
っていうか、近所に本物の”竜殺しの勇者”が引っ越してきちゃったよ!
話が長くなりそうなので、サリさんが夕食を作ろうと立ち上がると、女性陣が皆で手伝うと付いて行った。
「で、怪我の具合はどうなんだ?」
子供たちを膝の上に乗せ、ケーブさんが問う。
「……うん、あまり良い感じはしない。医者にはしばらく無理は出来ない。治っても日常生活には支障はないだろうが、激しい運動は難しいかもしれないと言われた」
「という事は……冒険者を降りるのか」
「まだその結論を出す時期ではないのかもしれないが、覚悟はしている」
深刻な顔で答えるテリオさん。
「そうか……」
と同じく深刻な顔で答えるケーブさん。
が、突然、俺とサークヤを順に見て聞いてきた。
「で、お前らは一体何なんだ?」
来た。
おそらく俺たちも知りたいであろう質問が。
ごくりと唾を飲み込む音が二つ、静かな部屋に響いた。




