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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
第三章(前編) 竜を討ちし者
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3-4 神術の名残

 次の休みの日、俺は釣竿を肩にして川原に降りていた。


 先日の術を見た場所が目的地だ。

 何となく、その辺りが釣れそうな気がしたからだ。

 水面を見ながら歩いて来たが、何度見ても綺麗だと思う。

 いや、綺麗過ぎる。

 街中にしては綺麗過ぎると思う。

 それはまるで山の中の清流、いや、岩清水や湧水のように。

 更に、先日の術の場所に近付くにつれ、ほんわりと青っぽい光の粒子のようなものが漂っているようにも見える。

 いや、実際に見えているのだ、光の粒子が。


「すごいな、これ」

 術を施していた場所では、ハッキリと見えていた。

 あの時は少し離れた場所だったので気が付かなかったのだろう、しかし水面の傍にまで近付いている今は、その光の粒子が無数に漂っているのがハッキリと見えていた。

 しばし、それに見とれていたが、ふと手に持った釣竿に気が付くとポイと芝生の上に放ってそこに座り込み、その幻想的な川の流れを楽しむことにした。

 既に釣りを楽しむ気分ではない。

 その光景を目に焼き付けたい。

 その雰囲気に浸っていたい。

 そんな気分なのだ。


 しばらくぼおっとした後に気が付いた。

 そういえば、ここで術をしていたんだ、何か模様を書いて。

 模様は立ち去る前に消したのか、見る影もない。

 何か手掛かりはないかと立ち上がってじっくり見ると、所々に模様や文字のようなものが辛うじて見ることができた。

 流石に何が書いてあるのかわからなかったが、読み取れそうな文字を読んでいくと、恩恵を何だとか、恵みが何だとかと書いてあるのが分かった。


 そんな事をしていたら、遠くから小さな存在がふたつ、こちらへ向かって来るのが見えた。

「ユーちゃ~ん!」「ユーた~ん!」

 おお、我が癒しの女神たちよ!

「なにしてたの~?」「なにちてたのぉ~?」

 可愛い!

「川が綺麗だったから見てたんだよ」

「かわ? ふわあぁぁぁぁ!! きれい! ひかってる!」「ぴかぴかちてるー!」

「えっ! 光が見えるの?」

 見える人が少ないって話はどこいった!!


「川に落ちちゃうから、あまり近付いちゃ駄目だよ」

 はーい、と答えながらきゃっきゃと跳び跳ねて喜んでいるさまはマジ天使!

「あら、えらくはしゃいでいるのね」

 そこへサリさんが近付いて来た。

 店からも程近い此処へ散歩にでも来たのだろう。

「ええ、まぁ。サリさんは見えないんですか?」

「え? 何が?」

 どうやらサリさんは光の粒子が見えないらしい。

 本当に見える、見えないがあるんだ、と認識した瞬間だった。


「それにしてもなんだか落ち着く場所ね、ここは」

 なるほど、そんな風には感じるんだ。

「昔、小さい頃にね、こんな感じの所で”光の粒”みたいなのを見たような記憶があるんだけど……あれは何だったのかしらね」

「えっ! サリさんも見た事あるんですか!? あの子たちも今、それが見えてるようですよ」

「あら、そうなの? 今の私じゃぁもう見れないのかしらね」

 ちょっと残念そうに子供たちを見守るサリさんもまた、穏やかな顔に戻る。

「そうね、みんな小さい頃は見えてたのかもね。そしてだんだんと、気が付けば全く見えなくなってしまうものなのかもね」

 そう言い、そっとその場に座るサリさん。

 俺もまた、それにならって座り込む。


「先日、ここで仕事中のアイーナさん達に会ったんですよ。ちょうどウチで作ったピンを使っているのを見れたので、そのまま見入ってたんですが、その時俺もその光を見ましてね」

「あら、術を掛けているのを見たのね。そう、ユーキはまだ光を見れるのね」

 うらやましいわと言うが、俺は引っ掛かったその言葉に質問を返す。

「サリさんはアイーナさん達が術者だって知ってたんですか?」

「あら、気付かなかった?制服を着てたじゃない。テイオーテの」

 し、知らなかった。

 存在すら知らなかったし。


「でも、胡散臭いって噂は違うようね。光ってたんでしょ?」

「胡散臭い? なんですかそれ?」

「テイオーテは傍から見てると何か胡散臭い儀式をしてるようにしか見えないの。その光が見えない人達にとっては何をしているのか分からない集団なのよ」

 なるほど、そういわれてみればそうだ。

 怪しい宗教団体にも見えてしまうかもしれない。

「そんな集団が政府直轄でしょ? ただの穀潰しにか見られないのよね、悲しい事に」

 なるほど肩身が狭いから、ラーナさんはテイオーテの名を出した時にマズイって顔をしたのか。

「術はただの儀式でなく、何かしらの効果を表している。この川のように、ね」

 そう言って、この澄んだ水をたたえる川の流れを見て続ける、胡散臭いって言うならこの川は何だってね。


 そう、何度も言うが、街中を流れるにしては綺麗すぎるのだ。

 何かしらの力が働かなければ、これほどの澄んだ水にはならない筈なのだ。

「テイオーテの人たちは、この国が王国から大統領制に変わるまでは迫害を受けてたらしくて、初代大統領が”なぜこんな素晴らしい力を持った者たちを排除しようとするのか”と保護し抱え込んで作られたそうよ」

 そこで思い出した。

「あれ? 昔は”神術”って呼ばれてたって聞いたんですけど」

「それは、もっと前、遥か昔の話だと思うわ」

「むかしばなし? ききたい~!」「ききた~い!」


 はしゃぎ疲れたのか、チビッ子姉妹が息を切らしてサリさんに抱き付いてきた。

 あらあら、と言いながらサリさんは、家に帰ったらねと帰宅を促す。



 すっかり釣りをする気を失せてしまっていたので、釣竿を掴み俺も3人と共に帰路に就くのだった。





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