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近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)  作者: 赤点 太朗
第六章 この世界
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6-36 折れた剣と助っ人

「サークヤさん!?ああっ!ペスがっ!サークヤさんも剣がっ!!」


サークヤの剣が折れ、ペスが地面に叩き付けられた所へ、ハルの息子兄弟であるマサとナオが辿り着いた。

「二人とも、近寄るな!相手は手負いだ!」

二人が刀を構えるが、サークヤがそれを止める。

「で、でもっ!」

「君たちじゃ、今のこの熊は難しい!怪我じゃ済まなくなる!」

「僕なら少しくらいは!」

兄のマサがサークヤに訴える。


確かにマサの構えを見ると、危なっかしいナオとは違って少しは出来そうだ。

しかし相手は手負いの熊である。

無理をすれば間違いなく危険な目に合うだろう。

「...分かった!僕が気を惹くから逃げ出さないように足を狙って欲しい!」

「分かりました!でも、サークヤさん、剣は!?」

「根本で折れた訳じゃないから、まだ何とか出来る!」

そう言うサークヤだったが、剣は本来の姿の1/3しか無い状態だ。

本来の実力を出すには役不足も甚だしかった。

だが、それを気取られないようにするサークヤ。


「分かってると思うけど、切ったら直ぐに下がらないと反撃に遭うから!いいね!」

「はいっ!ナオはペスと下がるんだ!」

「分かった!ペス!!」

それぞれが動き出す。

ペスはその会話で、自分が下がらないとナオが下がらない、と考えたのか率先して後ろに下がるが、いつでも前に出るつもりのようで、絶妙な距離に陣取った。


行くぞ!という合図と共にサークヤが動き出す。

折れた剣で牽制を入れると、うまい具合に熊の気を惹く事が出来た。

すると、熊の後ろからマサが足に斬りかかる。

「グオァァァァ!!」

熊が攻撃を仕掛けたマサの方に向くが、既にそこから離れている。

勿論その隙を見過ごす手はない。

サークヤは後ろを向いた熊の足に斬りかかる。

どうやらマサの攻撃は浅かったようだったので寸分違わずその傷口に折れた剣を叩き込む。

しかし刃は欠け、折れて短くなった剣では、いくら腕が良かろうが熊の後ろ足を歩けなくする事すら難しい事だった。


「おや。困っとるようじゃな。」

不意にそんなゆったりとした声が聞こえてきた。

「えっ!喜治郎さん!?ダメですよ、こんな所に来ちゃ!」

サークヤが慌てるのも無理がない。

現れたのは引退した大家の喜治郎だった。

彼はずっと大家の縁側で妻のてるとお茶を啜っている所しか見たことが無い。

それは曾孫のマサやナオも同じだ。

しかし、本人はお構いなしに熊に近付くと、おもむろに手にしていた刀を抜く。


いや、抜いた気がした。

のだが、その刀の姿はその手には無かった。

「「「...え?」」」「ワホ?」「グオ?」

すると、いつの間にか熊の前足の先が消えていた。

トスンと無くなった熊の前足が近くに落ちるのと、サークヤの目の前の地面に刀が突き刺さるのはほぼ同時だった。

「ふぉっふぉっふぉっ。後は任せたぞ?」

既に喜治郎は其処から離れ、ゆっくりと大家の方へと歩いていた。

その僅かな時間、確かに周りから音が消えていた。

BGM も消えていた。


「...。」

サークヤが刺さっていた刀を抜く。

「よ、よし。後は僕に任せろ!」

「グ、グオォォォォ!!」

「わ、分かりました!」

「き、気を付けて!」

「ウ、ウォン!」

熊とサークヤの一騎討ちが始まった。

が、熊は既に万全ではない。

サークヤは熊が振り回してきた前足を掻い潜り、首元に刀を一閃。

そのまま振り回した前足の慣性で体勢を崩した熊は、横へと倒れ込んだ。


「ふぅ。流石は刀だ。今までの苦労が嘘のような切れ味だよ。」

喜治郎が置いていった鞘に刀を納めて息を吐くと、マサとナオが近寄って来た。

「...サークヤさん、また腕を上げましたね。結構稽古を積んだから、自信を持ってたんだけど...また差を付けられたみたいだ。」

「本当に。全く別の人みたいだったね。」

「あっ!ペスさんは!?怪我とかしてないかな!?」

思い出したようにペスの姿を探すサークヤだったが、ペスは別の場所をじっと見ていた。


「お?なんだ、終わってるじゃないか。急いで来たんだが、余計な世話だったか。」

姿を表したのはテリオだった。

「剣が折れてヤバかったですけどね。何とか...。」

鞘に納まった刀を見せると、テリオの顔が曇った。

「ん?それって、親父のじゃ、ないよな。誰のだ?」

目を細めて刀を見るテリオだったが、何かに気が付いてみるみると顔色が悪くなる。

「こっ!これはもしや!!」

「え?あ、はい。喜次郎さんのです。剣が折れて困っている所を助けられました。」

「や、やっぱり!!まさか動かぬ岩が動くとはっ!!」


「「「動かぬ岩?」」」

テリオの言葉に3人が首を傾げる。

「爺さんな、刀を握らせると恐らく今でも(・・・)里一番の腕前だと思う。」

「「「ええっ!!今でも!?」」」

「只な、引退してからずっと気が乗らないからと、刀を握る事はなかったんだが...。そうか。爺さんがサークヤに...。うん、頑張れよ、サークヤ。」

「え?ちょっ!何ですか?どういう事ですか?」

含みを持たせたテリオの言葉に、何か言い様の無い不安を覚えるサークヤ。

恐らく、里での生活を楽しく送る事が出来るだろう。


「さて、ハルたちの方は終わってるかな?」

「あ、そうだ!父さんが向かった方は熊が2頭いたんだ!」

「あっちにも行かないと!」

マサとナオが慌てるが、テリオが落ち着かせる。

「大丈夫だ。1頭は俺とシーナが倒したし、もう1頭にはタークとテンがハルの助っ人に入ってる。余程の事が無ければ心配する程ではないだろう。」

「「テン?」」

聞いた事の無いその名前に首を傾げる二人。

「ああ、新しい仲間だ。詳しくは後で話すが、素直で良い奴だ。歳はお前たちに近いから仲良くしてやってくれ。」

そう言って里の中が見える所へ移動すると、既に倒した熊に里の者たちが集まっている所だった。

「向こうも終わってる様だな。悪いがお前たち、

森の中で倒した熊を運ぶのを手伝ってくれ。サークヤ、ユリを迎えに戻るぞ。」


それぞれが返事をして森の中へと入って行くのを一瞥して家畜小屋に戻り、昼寝を決め込むペスだった。






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