0-63 美味しいご飯
ガン! ガン! ガン!
「お昼の時間よ~!!」
作業場に入ってから暫くの間、包丁研ぎの作業を進めていると、けたたましい音と共にそんな声が聞こえてきた。
「おい、アンタ。昼飯だ、行くぞ」
「あ、はい」
集中してたからか時間の感覚が無くなっていたようで、気が付けば腹が鳴っていたサークヤ。
作業場から出て住居の方へと移った。
「ねぇ、サークヤさん。昨日は寝ちゃったから聞けなかったんだけど、あなた本当に冒険者10ヶ月なの?」
昼飯を食べながらサミヤが聞いてきた。
「うん、本当だよ。それまでは学生の時に剣術の真似事をしていたけどね」
「がくせー?」
「ああ、学び舎に行ってた時の事だよ。その時は大して強くは成れなくてね、狸一匹に手古摺ってたのが10ヶ月くらい前の話」
「嘘……でしょ?」
そりゃあ信じられないだろう、あんな大立ち回りを目の前で繰り広げられた身としては。
「何だ、そんなに驚く事なのか? サミヤ」
昼飯をモグモグと食べながら聞いていたオヤジさんが、首を傾げてサミヤに聞く。
「だって、剣で襲いかかってきた夜盗賊をあっという間に倒したのよ! そんな人が僅か10か月前は素人同様だったなんて!」
サミヤの剣幕にたじろぐオヤジさんもサークヤに目を向けた。
「いや、本当だよ? 稽古をつけてくれた人が良かったんだと思う」
実際にそうなんだろう。
冒険者の中でもトップクラスに位置するテリオが稽古をつけ、更にテリオに教えていたタリオも里にいた約5ヵ月の間、稽古をつけていたのだ。
更に害獣を相手に実戦を積み上げてこれば、実力が上がるのは当然と言える。
「ホント、くるっくるっと踊る様に私の周りを回りながら前後にいた敵を瞬殺していったんだから! 惚れ惚れするほどだったわ」
いや、殺しては無いぞ? サミヤ。
「ほう、それ程か。一度見てみたかったな」
いや、そんなに賊はいないぞ? たぶん。
「いえ、僕なんてまだまだですよ。もっと強い人はたくさんいますから」
いや、そんなに沢山はいないぞ? サークヤの周りが凄いだけだ。
「それにしても、サミヤさんの作るご飯は美味しいね」
サークヤの言葉にオヤジさんもうんうんと頷いている。
「当たり前でしょ? お母さんが病気で亡くなってからずっと家事は私がやってきたんだから」
「……へぇ、きっと良いお嫁さんになるだろうね」
病気で亡くなった母親の事が出てきたのはマズったなと思いながらも、平気な感じで話したサミヤを見てその事には触れずにサークヤがそう言った……が。
ボッ!
「およ……なななな何をいいいい言ってるのかなぁ、さささサークヤさん…… ああああなたの持ってきたしょしょ食材を使っただけじゃないっ!」
超動揺するサミヤは、飲み屋で働く身にしては珍しくそういう事を言われ慣れていなかった。
「え? だってその食材でこんなに美味しく調理できるなんて凄いと思うよ?」
「うううううるさいっっっ早く食べちゃいなっっ!! 片付けちゃうわよっ!!」
何故か慌てて食べる羽目になったサークヤと、それに巻き込まれるオヤジさんだった。
午後からもひたすら刃を研ぐサークヤ。
陽も暮れ始めた頃にオヤジさんが声を掛ける。
「おい、今日は此処までだ。アンタ、金は持っているか?」
「??? 少しだけなら残ってますが……」
「なら、この金でサミヤの店まで晩飯を食いに行け。俺は家の残り物で酒を飲むからな」
晩飯を食うには少し多く感じるお金をサークヤに渡すオヤジさん。
「え? あ、はい。分かりました」
少し前にサミヤは飲み屋の仕事に出掛けていた。
単にお前に食わすメシは無いから外で食って来いとサークヤには聞こえたのだが、オヤジさんの意図はそこではなかった。
昨夜、愛娘が闇夜を狙われたのだ。
心配だからお前が行ってちゃんと連れ帰ってこい、と。
当然それだけの腕がある事は証明済み、送り狼になる心配はなさそうだと今日一日を見ていれば分かる。
オヤジさんは安心してサークヤを送り出すのであった。
「さて、サークヤさん。帰りましょうか?」
「あ、はい」
「ん? 何だ、サミヤ。結局その男を囲んだのか?」
「ててて店長っ! かかか囲んだって何ですかっ!! うううウチで住み込みの仕事をする事になったんですよっ!!」
「はははははは、分かってるよ。じゃ、お疲れさん」
真っ赤な顔で店を後にするサミヤに付いて店を出るサークヤに店長が声を掛ける。
「お前さんが夜盗賊を捕らえたんだって? もう噂になってるぞ?」
「ええっ! そんな…… 噂だなんて…… 僕は当たり前の事しかしてませんよ?」
「当たり前……か。そう簡単なもんじゃない筈なんだがな。……サミヤを救ってくれてありがとうよ」
そう言って厨房の掃除へと戻って行く店長。
「店長と何話してたの?」
遅れて出てきたサークヤに首を傾げて問い掛けてくるサミヤ。
「いや、昨夜の事がもう噂になってるって教えてもらっらんだ」
「あ~それね。ホント、そういった噂って伝わるのが早いわね。当事者としては迷惑だわ」
そう言って家の方へと歩き出す。
「ねえ、サークヤさんって、何れはこの街を出て行くんだよね?」
「え? まあ、そうだね。冒険者だし」
「……この街にずっといる事は出来ない?」
「えっ!? それってどういう……」
そう言いかけた時、出た店より向こうの方でガシャンという音と共に怒鳴り声が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
「ああ、喧嘩ね。よくあるわ。巻き込まれない内に早く帰りましょう」
「う、うん……」
問い掛けに対する答えを聞けないまま、モヤモヤした気分で帰路に着くサークヤだった。
記念すべき100話目です。
といっても毎回短いのでズルなんですけどね。
7月から投稿時間を少しだけ早い22時に引っ越します。
これからもよろしくお願いします。




