弊害
ゆっくりとハウロスの心臓から手を離してアリア先生から結果用紙を受け取る。…多分、情けなく震えていた。他の人の様子を見る限り、これになにか感じてはいなかったんだと思う。
「サーレ様おめでとうございます!」
嬉しそうにレペテが私の空いている右手をとって私に笑いかける。冷えきった指先に、レペテの熱が移る。
「は…っ」
それでやっと呼吸が出来た。
気管に空気が通るのを確かに感じながらゆっくりとレペテの手を握り返す。
「…っ」
冷や汗で背中が気持ち悪い。それにおかしいことはもうひとつある。左手に握りしめてしまっていた結果の用紙だ。
魔力量、魔力操作共にA。
おかしい。だってゲームでは。
神緑の巫女姫の中のサーレは。
魔力量、魔力操作はそれぞれ別で。魔力量はBで、魔力操作はCだった。生まれつき魔力は多いが、幼いため、魔力操作は上がらなかった。
それなのに。
「最悪だわ…」
「サーレ様?」
静かに呟いた言葉は幸いにもレペテにしか届かなかった。周りではしゃぐ人達の横で私とレペテだけ切り離されている。
「…なんでもないわ、次レペテでしょう? ほら行っておいで」
計測にいくレペテを見送りながら歯を噛み締めた。最悪の事態だ。ただでさえ全属性なのは今回露見するはずだったというのにこんな結果なんて。
アリア先生の様子から神殿に出入りしてる可能性は高い…なら。
女神の瞳を持つ私を。神殿が結果を知ったら、今まで通り静観するだろうか。
ジークとの婚約だって、陛下を巻き込んで公にした。家同士だけじゃなくて国公認の婚約にできた。
それを今になって邪魔してくる可能性が浮上するなんて…!
「まぁ、綺麗な漆黒、随分と闇属性に適性がありますね!」
真っ黒で心地よい色が広がり包む。逆だった感情を撫でつけて落ち着かせてくれる。私の結果は変わってしまった。
なら、ジークは?
せっかく落ち着いてきたのに、頭にうかべてしまうとさぁっと血の気が引いてしまう。私の結果が高いことは良く受け入れられる。でも忌み子と呼ばれてしまう彼が同じ様な結果になってしまったら。
それこそ悪魔とされるのでは?
ジークは本来とは真逆の道を歩んでる。私がそばに居ることで何らかの影響も考えられるし、彼は私から取り上げた朝食をしっかりと食べていた。
急には結果に出ることはなくても、今後どうなるか分からない。
だからといって強さを欲するジークに学食を使うなとは言えない。それは彼を押さえ付けてしまう行為だ。
歯が嫌な音をたてる。無意識に噛み締めていたらしい。少しだけ中を傷つけてしまったのか血の味がする。
どうする。どうすれば。
もうでてしまった結果は消せない。こうして記録されてしまった。考えが甘かった?だったら誰なら予想できるというの、こんな結果。
ゲームの主人公と私の行動の違いは沢山ある。でも決定的な違いは……。
「そう、使い過ぎたのね」
レペテの結果に盛り上がる声に紛れながら苦々しく吐き捨てる。
ゲームの主人公は魔法は使っていなかったんだ。精霊の力でグランシアノを助けた彼女はリトを助けてはいない。
使ったとしたら暗闇を晴らす魔法くらいだけど、きっと私は知識があったから今回は“完全な魔法”だったのだろう。
だけどなんの知識もない主人公は初めて魔法を使った。なら完全な魔法ではなかった可能性がある。それこそ精霊が力を貸したとか。
レペテは元から闇魔法を扱えたと言っていたけど、どのくらい扱えたのか後で聞いてみなくちゃ。
魔法を使うことで能力が上がってしまうなら私はそれを控えないといけない。もしくは───。
ジークの顔を思い浮かべながら戻ってくるレペテに笑顔を向ける。ジークが嫌がることをする可能性に吐き気がすることを隠しながら。




