ごちそうさま
心の中でごちそうさまと手を合わせる。実際にやると不審がられるのでやらない。作者日本人なのになぜ組み込んでくれなかったんだろう?
顔を上げるとこちらを少し目を細めながら見ていたジークと視線が合う。
「美味しかった、ありがとう…ジーク」
「おう、昼飯も用意してある」
「準備がいいなぁ…それもジークの分は?」
「必要ねぇ」
「ありがたいんだけどね? 本当にありがたいんだけど…もしかして毎日作る気?」
「いや?」
あ、さすがに毎日は無理だよね。うん。安心したやらちょっと残念やら。ふむふむと頷いてれば予想外の答えが返される。
「学園が休みの日は学園の外に飯を食いに行くだろ? その日は作んねぇよ」
「うん? 食べに行くの?」
「行かねぇのか?」
好きだろ、そういうの。と返されて唖然とする。───私は乙女ゲームをやるくらいには恋愛にはちょっと夢を見ている、学校帰りや休日に恋人と外でご飯を食べたり遊んだりすることは確かに憧れがあった。前世ではそんな暇もなく学び、働いてたから。
「……うん、好き」
「だろ? その日は作んねぇから毎日じゃねぇ」
好きだなぁと感情の薄いジークを見て本当に思う。いい子だ。本当にいい子だ。ジークを忌み子と宣うヤツらに叫んでやりたい。
ジークはとってもとっっってもいい子でいい男だよって。
「……ねぇ、私の事忘れてない? 大丈夫?」
「あ」
「サーレさまぁ?」
涙目で顔色の悪いレペテが恨めしそうに睨んでいた。うん。忘れていた。静かだったし、もしかして不味すぎてずっと悶えてたんだろうか…?
「まぁ、仲良い事は良い事だよね…?うん」
「何言ってるか訳が分からんが、いいのか?」
「え?」
「そろそろ入学式だぞ」
ええ!?と立ち上がるレペテの肩にそっと手が置かれる。誰の手だ?と三人で視線を向けると…いい笑顔のお兄さんが立っていた。
「食事中に席を立ってはいけませんよ?」
「……もしかして」
「残すのも良くないですね」
さぁっと血の気が引いて泣きそうなレペテにさらに追い討ちをかけるようにいい笑顔のお兄さんは言い切った。
席に座らされたレペテが虚ろな目でご飯をひたすら口に運ぶ作業を私はなんとも言えない気持ちで見届けた。
…そんなに不味いんだ。
レペテが口に詰めるように運びできるだけ噛まずに飲み下し、食べ終わると席を立つ。いい笑顔のお兄さんに手を振られ見送られながら入学式の式場に足を進める。
「入学式って長いかな?」
「長過ぎたらそこの馬鹿が死にそうだが」
「馬鹿呼ばわりは…酷い…うっ」
「吐くなら見えないところでしろ」
「ジーク様!?」
そういう問題!?酷いです!扱いの改善を要求します!左手で口を押え右手を上げ叫ぶレペテ。素知らぬ顔でただ前を見るジーク。
レペテ、割と余裕あったりするんじゃないだろうか?
「そういえばなんで学園の食堂では魔力を含んだご飯しかないの? まずいのに!」
膨れるレペテを宥めながらそっと息をつく。理由は分かりきっている。
“子供達の能力強化”。育成ゲームでよくあるシステムだ。
「少しでもいい人材をっていうことだよ」
「……だからってあんな不味いもの食べなくても」
「そう思えるのはレペテが持っている人だからだね」
思わず出た言葉にジークとレペテが視線を向けてくる。うん、だってさ、持っている人は不味いものを食べるってことをしないで済むけど。無いから食べるんだよ、結局。
「レペテが必要ないなら普通に自分でご飯を用意すればいいんだよ」
「…」
「学園の食堂はね、欲しくても手に入らない人のためにあるんだと思うんだ、だから表情が死ぬほど美味しくなくても黙々と食べる人が居た」
きっと手間もかかるんだろう。美味しくない料理を作る料理人だってきっと嫌な気分なはずだと思う。だけど食べる側が求めるならと作るんだ。それでも残して欲しくないからレペテに食べさせたんだ。
「…サーレ様はいいの?」
「うん?」
「食べると強くなるって…」
「うーん、まぁ食べようとは思ってたんだけどジークは嫌だって言うし、逆にジークの手料理なんて貴重なものが貰えるからそっちの方が全然力になりそうじゃない?」
ね?とジークに微笑むとジークは顔を逸らす。耳が少し赤い。あぁ、そうか。ジークが食堂のご飯を食べ続けることにしたのも、そういうことなのかもしれない。
ジークはきっと、強くなろうとしている。
「ジーク、頑張れ」
「……おう」
「え? なにが!?」
何の話?!とぴょんぴょんして存在をアピールするレペテの頭をジークが「やかましい」と叩く。
それを笑って見守っていると、入学式の式場に着いたようだった。




