まだ言えない
リトの声に従ってお父様達と声の元へ向かう。長い廊下には人がいない。だけどこの建物の周りには大勢の騎士たちが見える。どうやら陛下のあの言葉は本当らしい、きっと私でもお父様でもお母様でも逃げていたなら容赦なく処刑するだろう。
逃げる必要も無い私たちはそれに対して恐ろしさは抱かないけど。あの人は…レティーリアは違うんだろう。
あの人はもう既に陛下の命令によって捕らえられた。見覚えのないあの男の人も一緒に。
側室と王妃は陛下のいない場所で男と会うことは禁じられている。それは不貞を防ぐ為のものだったが、あの男が何らかの契約をレティーリアとの間に行って第一王子を襲撃したなら、きっとあの男もレティーリアも二人とも処刑される。
…でも最低もう一人は犯人がいるはずだ。その存在がどう出るかはわからない。そもそもあの闇の中なぜ見覚えのない男を捕まえることが出来たんだろうか。
「サーレ、危ない事はしないと約束してね」
「…お母様、私は私にしかできないことしかしません…自分に力が無いことまだ子供なこと分かってるもの」
「だがリストマ君の件、私達に黙っていただろう、あれも子供の手には負えないものだ」
何故と問う両親に、口を閉じる。必要だった。逃げてはダメだった、避けては今こうして二人を捕まえることも出来なかった。
「お母様、お父様…二人が私を大切に思ってくれていることは本当に分かっています…沢山愛してくれたもの…ジークの時だって結局許してくれた、それは私が望んだことを叶えようとしてくれたから…私はその優しさにきっと本当のこと教えると誓います、でもそれは今じゃないの」
今ではだめ。きっと、まだ足らない。二人は信じてくれるかもしれない。でもそれは本当に本心から? 本心から私の話を…未来の話を聞いてくれるの?
「サーレ…」
お母様が私の手を握る。その反対はジークが。手持ち無沙汰なお父様はお母様の肩を抱いて…私は上がってくる涙を瞬きで押さえ込み前を向く。
そうして辿り着いた部屋の扉を開けて中に入る。
拘束されたレティーリアと名前の知らない男。そして二人を挟む様にして立つ近衛兵団長と副団長。剣を抜いたままの二人は警戒を緩めていない。 その近くに宰相とリトもいて、リトは小さく手を振ってくれた。
近衛騎士達から少し離れた部屋の角に置かれたベッドに意識を失いながらも痛みに呻く第一王子。
そしてその手を心配気にとるスティニア王妃。泣くのを我慢しているキャロリアンナ。動ずることなく私を見ている陛下。
「ようやっと会えたな、女神の子」
「…陛下、この子が私の娘のサーレです」
「釘を刺さなくとも分かっている」
お父様が間髪入れずに告げると陛下は目元を緩め私にそのまま微笑む。結構カオスな状況に似合わずその笑みは綺麗だった。
「グランの傷、頼めるか?」
「…もちろん、最善を尽くさせていただきます」
その為に私はここまで来た。その為にリトを危険に晒した。
グランシアノ第一王子。ゲームでは詳しく書かれることはなかった、いずれ王太子として立つこととなる人。
私の肩にお母様とお父様が手を置いて軽く叩いてくれる。
ジークは意地でも離さないというように繋いだ手に力を込めた。




