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願うのは笑顔  作者:
第1章 第2節【瞳の価値】
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妻が残した宝《ジルベルトside》


 

 ユミルの叫び声で慌てて部屋に戻ると、部屋は荒れて、赤が目立っていた。その赤の中でリトが目を押さえていた。

 

 小さな手の、指の間からドクドクと血が溢れていて、嫌な予感がずっとしていた。

 

 マリア。マリア。私は…私はこの子を守れないのか。君のように、また失ってしまうのかい。

 メイドのユミルの服が真っ赤に染まっていて近くに転がるのは長細い剣だった。一瞬ユミルが切ったのかと思ったが、ユミルは昔マリアが雇うことにした少女で、剣を扱うことなんて出来なかったはずだ。

 

 なら、だれが?

 

 「ごめんなさい、坊ちゃん…ごめんなさい…」

 ユミルは泣きじゃくりしきりにリトに謝罪していて、リトはそれを宥めていた。

 

 光魔法を使える者を呼ばせようとしても、魔物が発生した土地に派遣されていて、近くにいない。

 

 転移というはるか昔に存在した魔法を彼らが覚えてない限り、こちらに間に合うことは出来ない。

 

 リト。君は母だけじゃなく、母と同じ目をなくすのか? 私が腑甲斐無(ふがいな)いばかりに、人間不信になってしまった君が、やっと友人を持つ気になったというのに。

 

 『ジル、あの子はきっと私を憎んでるわ』

 マリア、リトは君を憎んじゃいないよ。リトにとって君は師であり母であり、同胞だったのだから。

 

 そんな君がいなくなって、リトはより孤独になってしまった。目に映る全てに絶望して、引きこもるようになって。

 

 「サーレ」

 不意にリトが口を動かす。

 

 サーレ?マーシェル家のお嬢さんの名前がどうして。

 

 ───女神の瞳を持つ子供。リトと同じ神に選ばれた目を持つ銀髪の髪の小さな可愛らしい少女。

 

 もし、もしも。

 

 彼女があの女神様のように(いや)すことができるのなら、私は彼女を呼びに行くべきだ。彼女はまだ近い、この惨状をあんな幼い子に見せるのは気が引けるが、もしも救えるならそれでもいい。

 

 リト、君が助かるのなら。

 

 「サーレ! 僕はここにいる!」

 そんな考えはリトの大きな声で掻き消える。

 

 リトは何をしているんだ?

 叫んだところで、マーシェル家の待合室はそれが聞こえるほど近くはない。

 

 だがリトの手の甲が淡く光り、それが花のように見えた。それに気づいた頃だ。

 

 目の前に光が集まってくる。

 

 それは人の形になっていく。二人の子供の形に。

 

 光が収まっていくとそこにはサーレ嬢と、その婚約者のジーク君がいた。

 

 サーレ嬢の銀髪が金色の光を帯びて、ふわふわと揺れていて、リトと軽口を叩いてから、リトへ向かって歩き出す。

 

 

 先程見た彼女と随分(ずいぶん)違った印象を受けた。

 

 まるで大人の女性のような。凛として前を見るその目が光っているように見えて、思わず彼女を目で追った。

 

 ───そして奇跡が起こった。

 

 彼女が何かを歌いながらリトへと歩いていく。何を言っているのかは理解できないが、その言葉に応えるように銀髪がふわふわと光を(まと)い揺らいでいた。

 

 リトの目元に彼女が手をやってふわりと笑って最後に何かをいえば、リトの目元から金色の光の花が咲いては散っていく。美しく幻想的(げんそうてき)な光景に、私は無意識に涙を流していた。

 

 そう長くはない時間咲いては散っていき、最後の一輪が消えるとサーレ嬢はリトの目元から手を離した。

 

 リトの目元には、もう痛々しい傷も血も無くなっていた。まるで元から無かったみたいに。

 

 そして、リトの睫毛が震え、瞼が開く。薄紫の瞳がきらりと光を帯びて再び前を向く。

 

 「謝らないでいいんだよ」

 

 リトは穏やかに笑って呟いて。私は涙が止まらなくなる。

 

 マリア、私達の子は。

 

 とても優しくて、強い子に成長している。それを君と見れないのはいつだって悲しいけれど、君が残した宝は──君と同じ笑顔を浮かべるようになったよ。

 

 

 

 

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