馬鹿みたいだ
ゆっくりと手をリトの目元から外せば、痛々しい傷はどこにもなく、血の跡すらも消えていた。
「リト、見える?」
傷は治ったけど、視力は変わらずあるのかは分からない。私は医者ではないし、何より、今使った魔法がどこまで作用しているかは分からないから。
「やっぱり君の魔力は素直だ」
ゆっくりとリトは私から少し目を離してそう言うけどどういう意味かは分からない。私の魔力がどうなってるのかなんて私の目は魔眼ではないので仕方ないけど…。
思わずリトの目線の先を見てみるけどやっぱり何も無かった。またリトへ視線を戻せば──。
「リト?」
リトは笑っていた。今まで見たことの無いような、それこそゲームの中の彼が主人公と結ばれることになったとしても見たことは無い様な。そんな、優しく温かな微笑み。
「謝らないでいいんだよ」
許されることなんてないと思っていた。だってこんな小さな子を。守るべき対象のこの子をこんな目にあわせたのは私だ。
“人の感情がわかる”それは、どれほどなのかは分からない、心の内が全てわかるなら私はきっとリトの友達になんてなれなかった。
それでも、彼が何かを得て、謝らなくていいと、言ってくれて。
本当にそれでいいの?
「僕は力になれる?」
「…もちろんよ、リト」
力になれる。なれるに決まってる。思わず抱きしめたリトの体は私よりは大きいけど、小さな私の腕で抱きしめられるほどには小さい。
許されるはずはない。
許されていいはずはない。
どこまでできる?そんなこと決まってる。全部やるんだ。考えつくこと、全て。
これ以上ない程に。
全てを尽くして、犯人を捕まえる。回避しようなんて考えてた。でもダメだよ、それだけじゃ。
リトのような子が他にも出てきてしまうかもしれない。馬鹿みたいだけど実際に目の前で見た血は、傷は、絶望を抱く目はそれまで私の浮ついてた気持ちを引き締めた。
乙女ゲーム?シナリオ?物語通り?
全部違う。
これは現実だ。先がわからなくて当たり前なんだ。──もしかしたらリトも死んでいたかもしれない、そうなれば後悔すらも出来なかった。
私とジークだけじゃなくて、ちゃんと周りも見なきゃいけない。でなければ私もジークも笑えない。
シナリオどおりに起こさなきゃ?…私はサーレだけど物語のサーレじゃない。その時点でシナリオからは外れている。
物語通りに進めるために払う犠牲なんてもう二度としない。何かを成すべき時に出てしまう犠牲すらも少なく。
理想でしかないそれを。ほかの人よりも知っている私は選べるはずなんだから。
「…バサールハ伯爵、少しお話をしてよろしいでしょうか?」
私達を見守る宰相を見れば──彼は優しく目を細め、頷いた。




