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願うのは笑顔  作者:
第2章 第3節【悍ましい執着】
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笑う道化は《ジュストside》

 

 産まれた時から生き物の価値が決まっている。

 それを教えられた時、僕はこの世がなんて美しいものかと感動した。


 神によって作られ、神の定めた価値と、定めと、ルールに従う。


 それは安心を与え、安らぎを与える。不安定なものなど受け入れる必要ないのだから。

 聖書を読んで、そう心を躍らせて、自分も選ばれし血が流れているのだと誇らしげにして。


 ――何も持たない側の人間になることないと本当に本当に信じていたのだ。


 そうではなかったと理解したとき自分の足元が崩れ落ち、今にでもこの心臓が止まってしまうかのような感覚がした。


 それほどに信じていた。


 そんな僕に両親が、兄たちが囁いた。完璧になる方法を教えてあげようと。それは婚約者の予定だった、すでに嫁いだ彼女の息子を取り返すこと。


『本来あの子は貴方とあの子の間に生まれるはずだったのよ、わかるでしょう?』

『このままではこの国は終わってしまう』

『もっとも血が薄くこの地に囚われないお前だからできるんだぞ』

『さぁ早く』

『あの子をこの国へ』

『何もなせないお前の唯一国へできることだ』


「…お茶会へのご招待ありがとうございます」

 笑え、笑って笑って隠すんだ。本心を、行動を。悟られてはならぬのだから。


「よくいらしてくださいました、さぁ、席にどうぞ」


 ジルベルト・メシェル・バサールハが席を促す。この男が、あの女のマリアの夫で、あの子の父親。

 じっと見つめて彼女はどこに惚れたのだろう。この老いぼれにと、少し考えてしまう。


 マリア。僕はずっと疑問だったんだ、君は本当に幸せだったのかと。父親ほど年の離れた男に嫁いで、幼い一人息子を残して死んで、それで君は幸せだったのかと。


 やがて近衛騎士団長を連れ国王がやってきて、話をしていく。


 僕の目は自然にバサールハ宰相に向いていき、中身のあるようで雲をつかむような会話の流れに肝が冷え、ふと手が止まる。カチャンとティーカップをソーサーにおいて喉の奥で笑う。



「なんだ、バレたのか」


 空気が凍った感覚がして、息を呑むのが聞こえる。

 低く笑って、そして。


「でも遅い」



 疲れ切って、本当に力が抜けてしまう。


 なあ、マリア。



「もう遅いんだ」


 マリア。


 君ですらそんなに早く逝ってしまって、サリアは彼女はどうなってしまうんだろう。


 国なんてどうでもいい、愛と呼ぶにはおどろおどろしく、汚らわしい。役目も果たせぬ僕が彼女を手にすることなんてできやしない。



 神なんてどうだっていいんだ。狂ってしまったあの国はそう永くは持たない。そんなことは分かっている。それでもあの脅しのような言葉に従ったのか。それは、そうすべき理由があったから。



 僕の胸ぐらをバサールハ宰相が掴む。

「私の息子をどうした!!!」


 笑みが引き、心が冷える。


『連れてくる前に、必ず儀式を行え、反抗する意思などいらぬ』


「血に神を宿して人が人でいられると思いますか?」



 マリア、君は愚かだ。どうせ逃げるならもっと遠くに逃げてしまえばよかったのに。生まれた子が魔眼など持たぬ子だったらよかったのに。



「僕がいなくても儀式は進む、僕を引き離したところで意味はない、僕はただの目隠しだから」





 ごめんと謝ったところで意味なんてないってわかるから。謝らないよ、マリア。


 君がこの男をあの子を愛したように、僕だってあの娘を愛してしまったから。



『もしも、この国に生まれなかったら私達はただの兄妹としていれたの?もしも自由に愛していいと言われたら貴方は誰を──』




 そう問いかけた声がまた脳内によぎる。

 答えなんてずっと前から決まっていた。






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